第5話 俺を誰だと思っている

側妃、ね。ホント頭が痛い。


「はぁぁぁぁ。いったい何を言ってるんだ?

 たしか伯爵だったな?ミリナ嬢の父親か?

 なぁ、俺の立場はなんだ?」


「え?」


「皆に聞く。俺の立場はなんだ?」



謁見室にいた貴族たちが一斉に話し始める。

殿下は…?陛下は?あれ、おかしいな?

貴族たちが悩み始めたのがわかる。


「俺は陛下じゃない。王弟だ。

 だから側妃を持つことなんて、できないぞ。」


「…え?」


ようやく気が付いたのか、周りの貴族たちまで真っ青になっている。

今まで何だと思っていたんだ。王弟にそんな権利なんかないぞ。

というか、俺には王位継承権もないんだが…。


「というわけで、側妃の話など、ありえない。

 俺は王弟だし、公爵になる予定だし、王位継承権もない。


 その上で、俺はあの日の夜は隣国の王太子ジョエルと会っていた。

 街の宿場で、朝まで一緒に飲んでいたんだ。

 これが証拠のジョエルからの手紙だ。

 まさか隣国の王太子の証言を疑うようなものはいないよな?」


「そ、そんな。では、本当にミリナの相手はあの男?」


「やだ…嘘でしょう?」


自分たちがいろいろと間違っていたことに気が付いたのか、

伯爵は今にも倒れそうだ。

だが、ここからが大事なんだ。まだ倒れるなよ?


「それでだが。

 この件は俺がいない間の事として報告を受け、今まで調べていた。

 衛兵、入れ!」


廊下から衛兵に両腕をつかまれたまま、一人の侍女が入ってくる。

泣きはらした顔はひどいものだった。

侍女が入ってきたことで、伯爵は今にも逃げ出しそうだ。

伯爵の後ろに回った衛兵に目で合図を送る。逃がすなよ?



「この侍女は俺とリリーの部屋に出入りしている侍女だ。

 伯爵に頼まれて、あの日媚薬を盛ったと自白している。

 俺と間違えてジョンに盛ったらしい。

 ジョンがミリナ嬢を抱いたのは、その薬のせいだと思われる。

 そのため、ジョンも責任を取る必要などない。」


「そんな!」


「それと、もう一つ。この侍女が自白してくれたよ。

 リリーに避妊薬をお茶に混ぜて飲ませ続けていたと。

 4年もの間だ。子どもができなかった理由はこれだろう。

 伯爵、もう言い逃れはできない。

 ジョンに媚薬を盛った件はなんとか誤魔化せても、

 王弟妃に薬を盛ったことは許されることではない。

 二人とも捕まえて、牢に連れていけ。」


「…いやっ。いやよ!…どうして?私は側妃になるはずじゃ…

 どうしてよっ!またあの女のせいでっ。」


父親の伯爵は気を失う寸前を捕らえられたが、

ミリナ嬢は最後まであきらめずに騒ぎ立てていた。

恨みによるもので間違いないだろう。

このことを知ったリリーが悲しまなければいいが…。


それにしても…もう我慢の限界だ。


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