第43話
「お前の愚かさに太陽神が悲しんでるじゃないか」
「違う。私を思ってくれてるのよ」
「いい加減、目を覚ませ。本当に太陽を独り占めできると思っているのか。そんなことをしたら、それこそソルが愛したこの大地は失われてしまうんだぞ」
「私のことをだけ愛してくれればそれでいいの」
「お前は本当に救いようがない」
ララ・ファーンは灰色の雲をひとつ捕まえると、それを薄く伸ばして周囲を霧で覆った。
「大人しく夜空に帰れ、マルルアモリス」
「嫌よ。もう、あんな暗闇の世界にひとりぼっちでいるのは」
「私はお前のせいで、死ぬこともできないんだぞ」
「それは、お姉さまの勝手でしょ」
「お前に勝手をされると困るんだ」
マルルアモリスが光の矢を放つ。しかし、それは霧に包まれて消えていった。
「お前は決して愛を知ろうとしない。だから、いつも欲することしかできないんだ」
「いつも子供たちに囲まれているお姉さまには、分からない、私の孤独なんて。みんなに愛されても、私だけを愛してくれる人は誰もいなかった! お姉さま、あなただって!」
ララ・ファーンはため息をついた。
「やはり、お前はまだ小さな子供だ。愛は誰の所有物でもない」
霧が渦を巻いた。
「やはり、傷つけないのは無理だ。許せ」
誰に言うともなく言うと、ララ・ファーンは霧を凝縮して黒雲にした。そこから激しい雷光が起こった。
「嫌、雷は嫌!」
マルルアモリスは耳をふさぎながらしゃがみ込んだ。
「そうか、それはよかった」
ララ・ファーンは指先で雲の間に走る雷を巻き取った。
そして、それを投げ縄のようにマルルアモリスの体に巻きつけて縛り上げた。
マルルアモリスが悲痛な声を上げる。
「嫌! ごめんなさい! ごめんなさい! 私を許して!」
マルルアモリスは泣き声をあげながら許しを乞うた。
「お姉さま……」
一瞬、ララ・ファーンはためらったかのようだった。
その隙をついた。
「星よ!」
マルルアモリスは手のひらを空へとかざした。
すると、雲で覆われた空が夜空のように暗くなり、そこに無数の小さな星が瞬きだした。
星空があたりを包み込んだ。
「これは……」
ララ・ファーンが驚きの表情を見せる。
マルルアモリスが手のひらをにぎると、星々は一つに集まりだし、それは紫色の流星群になった。その輝きは鋭利で激しい。心をかき乱し、恐怖を呼び起こすような輝きだった。
リシュカは目をつむりたくなったが、必死でこらえた。
マルルアモリスが腕を下げる。
星が豪雨のように降り注いだ。
ララ・ファーンはとっさに盾を作ったが、激しい星屑の雨にひざを突いた。
「もう、私の邪魔をしないで、お姉さま」
マルルアモリスの体が燃え上がるように紫色の光で包まれた。
「私は星になったの。私はルーナになる。そうすれば、ソルは私を愛してくれる」
「神になるなどと、なんて傲慢な」
「お姉さまには分からない。私をあんなにも激しく愛してくれたのは、ソルだけだった。皆、私のことを愛しているといいながら、他の人のところへ行ってしまう」
「太陽神だって同じじゃないか。いっときの戯れだとなぜ分からないんだ。彼は誰のものにもならない」
「うるさい!」
紫の光がクモの糸のようにぱっと広がった。
それがララ・ファーンの体に覆いかぶさる。彼女はその糸を振りほどこうとしたが、腕を動かすたびに絡みつき、身動きが取れなくなっていた。やがて、口やのどを絞めつける。
ララ・ファーンのまぶたに紫の糸がまとわりつく。
それをマルルアモリスがぞっとするような冷たい瞳で見つめていた。
「いつも人気者のララ・ファーンお姉さま。どうして私たちは姉妹なのに、お姉さまだけが愛されるのか理解できなかった。だから、私も愛されようと頑張ったのに上手くいかなかった。それは、お姉さまがいたせいなのかも。愛されるのは一人だけでいい。私だけでいい」
さらに紫の光の糸がララ・ファーンを絞めつけ、彼女はもがき苦しみはじめた。
「助けないと」
リシュカは口を両手でふさいでいた。
本当は、目の前の光景から目をそらせたくて、そのまま瞳もおおってしまいたいぐらいだった。
「でも、どうやって?」
ララ・ファーンが苦戦をするような相手に自分が敵うはずがない。
手足から力が抜けてしまいそうだった。
自分は何て無力なのだろう。
何のために魔法を習ってきたのだろう?
「リシュカ」
そのとき、エイナルがリシュカの肩をぐっとつかんだ。
「あの魔法を使うんだ」
「あの魔法?」
「聞いたろ? 彼女は星なんだ」
リシュカははっと我に返った。力がみなぎるのを感じた。
エイナルにうなずくと、彼女は転がり込むようにしてマルルアモリスの前に飛び出した。
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