第27話

「あんなこと言って大丈夫なの?」


 イーダの実家を出たあとで、リシュカは聞いた。


「思った通りだった」


 ウリカはひとりごちた。

 人の話を聞いているのだろうか?


「何が?」


 リシュカはいらだちながら眉をひそめた。


「イーダのことさ」

「彼女のことを知ってるの?」

「いいや。でも、彼女が海に飛び込んだんじゃないかと思ったんだ」

「自殺したことを知ってたってこと?」

「違う。自殺なんてしてない。いや、もしかしたらしたのかもしれないが、彼女は生きてる」

「なんで、そんなこと……」

「彼女は海で見つけたんだ。流れ星の欠片を」

「流星の欠片? 私が落とした星屑のこと?」

「そうだが、そうじゃない。紫の流れ星だ」


 とウリカは無表情で言った。

 彼女の言葉はまるで謎かけのようだ。

 リシュカは意味が分からず、思わず立ち止まる。


「どういうこと?」


 ウリカは数歩先へ行ってから振り返った。その顔は呆れているようだった。こんな簡単な数式も解けないのか? と口癖のように言う数学の教師みたいに。


「君が星屑集めなんてするからだぞ」

「だから、どういうことなの? どうしてそのことを知ってるの? あなたと流れ星にどんな関係があるの? あれは何なの? イーダは?」


 聞きたいことが多すぎて上手くまとめられない。


「ウリカ」


 ウリカは答えなかった。

 むしろ、答えることを拒むように視線を背けた。


「とにかく、後は私に任せろ。もう、おかしなことには首を突っ込むんじゃない。だいたい、君はまだ青マントの学生だろう。学業にもっと力を入れたほうがいい。何事も基礎というのは大切なことだからな」

「ウリカだって学生でしょう?」


 ウリカは一瞬きょとんとして、そして笑った。


「何がおかしいの?」

「いや、すまない。たしかにそうだったと思い出してな」

「思い出してって、あなたは一体何者なの?」

「君はまだ知らなくていい」


 ウリカは有無を言わさぬ声でそう言った。そして、くるりと美しいマントをひるがえしながら背を向けると足早に歩きだした。


「ウリカ、待ってよ! ちゃんと説明してよ!」


 リシュカはあわてて追いかけたが、道の角を曲がるとウリカの姿は消えていた。

 あたりを見回してもどこにもいない。空を見上げてもカラスが飛んでいるだけだった。


「どういうこと……?」


 リシュカは呆然と立ち尽くした。


「ウリカ!」


 リシュカの声はむなしく風にさらわれる。

 ウリカは紫の流れ星について何か知っているようだった。やはりあれは、ただの流れ星ではなかったのだ。


 じゃあ、一体何なのか?

 星屑集めがイーダの失踪にどう関係するというのか?

 しかも、彼女は海に身を投げたが生きている?

 それなら彼女は今どこにいるというのか?


 リシュカは頭が混乱した。

 ただの人探しだと思っていたのに、こんなことになるとは。

 答えが空から振ってきたらいいのにと思って、リシュカはぼんやりと空をながめつづけた。

 いつの間にか、カラスの影も消えていた。

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