天界でもっとも美しい男
恋愛に漠然と憧れていたけど、こんなにも衝撃的で、不意打ちなものとは知らなかった。
彼を見て、ほんの数秒で、わたしは恋に落ちた。
そんなわたしの気持ちなど、思いもよらないだろう。
紫龍から人型に
すると、どこからか優美な音楽が聞こえ、白い
優美で、華麗で、言葉を失うくらい美しい。
わたしと明明は、宙に浮かぶ天上界の端、断崖絶壁にぶら下がりながら、バカみたいに口を開けて眺めていた。
──そろそろ帰らないと、誰かに見つかると大変ですから。
わかっているが、去ることができない。
と、いきなり上から男の低い声がした。
──誰に見つかると困るのだ。
──あっ!
わたしと
──おまえたちは天界の者なのか?
──それで?
──あなたこそ、何者ですか?
つい、わたしは詰問するように口を出した。
──わたしを知らないとは、やはり、天界の者ではないな。
──いえいえいえ、
明明がわたしの口を押さえながら、弁解した。
それにしても、尊大な男だ。しかし、そんな態度でも、なんとも言えない色香が漂ってくる。
──こんな場所に隠れて、何をしている。
──隠れていたわけではありません。
まあ、それはかなり無理のある言い訳だ。天界の果て、その崖っぷちにぶら下がっていたのだから。
しかし、わたしは突っかかりたかった。見たこともない、いい男だから。ドキドキして平常心ではいられない。
それに、わたしと明明は天界の最北端から顔を出していたのだ。なんともマヌケな姿で、これで覗き見していないというには、かなり無理があった。
歯をだして健やかに笑う姿からは、近寄りがたい印象が薄れ、親しみやすくて、いっそ可愛い。なんてムカつくほど魅力的な男だ。
──バカにしないでください。わたしは、わたしは、
明明が再び、わたしの口を塞ごうと慌てた。
ええい、どうにでもなれ。
──まったく困ったもんだな。どういう教育をしたら、こんな愚かな姫ができあがるのだ。命知らずにもほどがある。
──わたしが何をしたのです。『花の祭典』を見学しに来ただけです。
──自分の立場がわかっているのか。
──わかっています。
彼はにっこりと笑った。
──面白い姫だ。では、いっしょに行きたいか?
いきなり二の腕をつかまれ、わたしは地上に引きずりあげられた。明明が慌てて後を追ってくる。
──殿下、申し訳ございません、殿下。お許しくださいませ。
──そなたは誰だ。
──姫の付き人です。
──先に帰ってもよいぞ。わたしが付き合ってやろう。安全は保証する。
──し、しかし、それは。
彼が、すっと手を振った。すると、明明の姿がかき消えた。
──明明! いったい何をしたんです。明明!
──魔界の者であろう。魔界の玄関口に送り返しておいた。
──嘘。
──嘘は言わない。
彼はいかにも楽しそうに笑った。
──約束しよう、
彼は唇の端をあげて笑っている。とても魅力的で、思わず惹きこまれそうだ。
わたしは迷った。実際は迷う振りをした。
このまま帰るべきなのはわかっている。理性はそう言っているけど。
わたしは帰りたくなかった。
その後、わたしたちは花びらの吹雪にまぎれて、さまざまな場所に行った。
わたしたちと考えた。
そう、わたしたちは楽しかった。
彼が美男子だから。たぶん、最初はそんな理由だったけど。しかし、話すうちに、彼のなかの純粋さみたいなものを感じた。
わたしは彼に普通だと認めてほしいと強烈に願った。
魔界の姫ではなく、天界で普通に歩いている、普通の女の子として。
そんなふうに見てもらいたかった。でも、それが無理なこともわかっていた。
魔界にとって天敵である武神と、天界にとっては、やっかいな存在である魔界の姫。最悪といえば、これほど最悪な組み合わせもない。
それでも、わたしたちは愛し合ってしまった。
──玉帝の皇子
心配した明明が言ったものだ。
それは、よくわかっている。それでも、ふたりだけの秘密の日々があったのだ。
わたしたちは、お互いにこれ以上はないというくらい強い気持ちで愛し合いながら、愛せば愛するほど、その矛盾に苦しんだ。
彼はわたしに言った。
──ずっと、おまえと共に生きていきたい。どんな時も、どんな場所でも。どうか、わたしを忘れないでくれ、
──許すなんてできない。でも、もっと許せないのは、あなたと離れること。
わたしたちの関係は最初から矛盾するものだった。
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます