第20話 王都に向かいましょう
翌朝、領地の空は雲一つない快晴だ。朝食を済ませ、私とノア様は海へとやって来た。
「キキ、リンリン、オクト、それじゃあ行って来るわ」
“ステファニー、ノア、気を付けてね”
「ありがとう、出来るだけ早く戻って来るから」
王都に出発する前に、海の皆に挨拶をする。多分しばらく帰ってこられないだろう。そう思ったのだ。
「ステファニー、そろそろ行こう」
「ええ、そうですわね」
2人で馬車に乗り込み、王都を目指す。ゆっくり走り出した馬車。今日も領地の海は穏やかだ。でも、王都の海は大変な事になっているのよね…
「ステファニー、大丈夫かい?震えているよ」
そう言うと、私を抱きしめてくれたノア様。
「ありがとうございます。ノア様。正直言うと、少し怖いのです。私は確かに人魚の末裔だけれど、私に何が出来るのだろう。ちゃんと王都の海を守り、ポセイドン様の怒りを鎮める事が出来るのだろうかと考えたら、急に怖くなって…」
今まで領地で好き勝手生きて来た私に、王都の海を守れるのだろうか…王都に行ったところで、本当にポセイドン様を説得できるのだろうか。そもそも、ポセイドン様の所にたどり着けるのだろうか、そんな不安が私の心を支配するのだ。
「僕も正直に言うとね、とても怖いんだ。僕は確かに王子だ。でも、ずっと邪魔者扱いされていたからね。ダンの言う通り、王都に戻ったところで、あっさり殺されるかもしれない。でも、僕はもう逃げたくはないんだ。いつも僕の幸せを考えてくれていた父上が病で伏せているのなら、僕がこの国と父上を守らないといけない。もちろん、僕なんかが行っても何も出来ないかもしれない。それでも、何とかしたいんだ。そう思えたのはきっと、ステファニーに出会えたからだね。このままポセイドンに大陸を沈められたら、君との未来も無くなってしまう。それだけは嫌なんだ」
「ノア様…私も、ノア様と一緒にこれからも生きていきたいですわ!とにかく、ポセイドン様の怒りを鎮めましょう!」
そうよ、何をウジウジしていたのかしら?私らしくもない。とにかく今は、自分が出来る事をやるしかない。早く王都に向かわないと!そう意気込む私をまっすぐと見つめるノア様。
「ステファニー、ずっと黙っていたのだけれど、僕の実の母親は海で溺れて命を落としたんだ」
何ですって?今なんて言ったの?ノア様のお母様は、海で亡くなったの?衝撃の事実に、目を丸くして固まってしまった。
「だから僕は、ずっと母上を奪った海が嫌いだった。でも君と出会って、海という場所が大好きになった。母上はね、本当に海が好きだったらしいんだ。いつか僕を海に連れて行くのを、楽しみにしていたらしい。ステファニー、僕に母上が好きだった海の素晴らしさを教えてくれてありがとう。きっと母上も、天国で喜んでいるよ…」
そう言うと、少し寂しそうに笑ったノア様。その表情が、私の胸を締め付ける。そうか、だから最初に私が海に誘った時、乗り気ではなかったのね…それなのに私は、強引にノア様を誘ってしまった。
「ノア様、ごめんなさい。そんな辛い事があったなんて知らずに、私はノア様を無理やり海に連れていきました。本当にごめんなさい」
「謝らないでくれ!ステファニーには本当に感謝しているんだ。海で泳いでいるとね、なんだか母上が近くにいる様な気がする時があるんだ。もしかしたら、僕の事を心配した母上が、僕と君をめぐり合わせてくれたのかもしれない、今はそう思っているくらいだ」
「ノア様…きっとそうですわ!ノア様のお母様が、きっと私たちを出会わせてくれたのです。とにかく、2人で力を合わせて戦いましょう。私はどんな時でも、ノア様の側にいます!絶対に離れませんから!」
「ありがとう、ステファニー。君が側にいてくれるだけで、僕は少しだけ強くなれるんだ」
そう言って抱きしめてくれたノア様。きっとノア様となら、どんな困難も乗り越えられる。なんだかそんな気がした。
その日は近くのホテルに泊まり、明日のお昼前に王都に着くように移動する事にした。とにかく今日はゆっくり休もう、そう思っていたのだが…
「キャーー、また地震だわ」
そう、王都に近付くにつれて、頻繁に地震が発生しているのだ。ポセイドン様は地震の神様でもある。という事は、ポセイドン様の怒りが地震として表れているのだろう。
こんなに頻繁に地震が起こるなんて、きっと相当お怒りなんだわ!とにかく、早くポセイドン様に会って話をしないと!
翌日
相変わらず定期的に起こる地震のせいで、あまりよく眠れなかった。それでも、急いで王都を目指す。
「それにしても、よく揺れるな」
「そうですわね、ノア様。ポセイドン様は海の神ですが、地震の神でもあります。とにかく、こんなに地震が頻発するという事は、相当お怒りの様ですわね。早く何とかしないといけません」
「ステファニーは物知りなんだね。とにかく王都に急ごう」
しばらく馬車に揺られていると、王都が見えて来た。
「嘘…あれが王都なの…」
美しい海は黒く濁り、近くには工場が立ち並んでいた。煙突からは黙々と黒い煙が立ち上っている。さらに空は分厚い雲に覆われ、今にも嵐が来そうな天気だ。あんなにも賑わっていた港は、今は人っ子1人いない。
「これは酷い…」
ノア様も同じ事を思ったのか、口を開けて固まっている。
「とにかく、伯爵家に向かいましょう」
急いで伯爵家に向かう。奇麗に舗装されている道も、地震のせいかあちこち地割れを起こしている。一体どうなっているの?あまりの酷い状況に、ついノア様に抱き着いてしまった。とにかく早く伯爵家に向かって、詳しい話を聞かないと!
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