第4話 何なのよ、この男は

「殿下、お待ちください。確かにあなた様の生い立ちを考えると、毒が入っていると疑われても仕方がないでしょう。でも、毒など入っていませんわ。今から証明いたしますので、一度お座りください」


一旦殿下に座ってもらい、殿下の料理をパクリと1口口に運ぶ。


「コラ、ステファニー、殿下の料理に手を付けるだなんて」


「お父様は少し黙っていて下さい!ほら、毒など入っていないでしょう?では、殿下も1口どうぞ」


私が使ったフォークで今私が食べた料理を殿下の口に入れようとしたのだが、そのままなぜか私の口に入れられた。


あれ?私が食べてしまったわ…


そしてフォークを奪い取ると、丁寧にナプキンでフォークを拭き、さっき私が食べた料理を食べ始めたのだ。


「確かに美味しい…君は確かステファニー嬢と言ったね。君の言う通り、どうやらこの料理には毒は入っていない様だね。他の料理も毒見してもらえるかい?」


そう言ってフォークを渡して来たのだ。なんだか無性に腹が立つ(特に私の使ったフォークを入念に拭きとったところ)が、とりあえず食べてくれそうね。よし!他の料理を毒見しようとフォークで刺し、1口口に入れた。


「こちらも問題ありませんよ」


そう伝えると、再び私からフォークを奪い取り、丁寧にナプキンで拭く。その時だった。


「殿下、こちらの新しいフォークをお使いください」


そう言ってフォークを渡したお父様。でも、なぜか受け取らない。


「気を使ってくれてありがとう、伯爵。でも、新しいフォークは毒が塗られているかもしれないから…ステファニー嬢がベロベロ舐めたフォークなら、多少汚いが毒は付いていない。これを拭いて使うよ」


「ちょっと殿下!誰がスプーンをベロベロ舐めたですって。私はそんな下品な食べ方はしないわ。それに、汚いとは何よ、汚いとは」


頭に血が上り、つい怒鳴ってしまった。でも、明らかに今のは殿下が悪い。


「コラ、ステファニー!殿下、娘が申し訳ございません。ほら、ステファニー、謝りなさい」


横でお父様が怒っているが、知らんぷりをしてやった。


「伯爵、謝罪は必要ありませんよ。僕も少し失礼な事を言ってしまったので。それより、残りの毒見をしてくれるかい?」


「お言葉ですが殿下、あれだけ無礼を働いておきながら、よくも毒見をしろと言えますね!」


鼻息荒く怒る私に対し、涼しい顔の殿下。


「それじゃあ、僕はこれ以上料理は食べられないな…せっかくの料理なのに、残念だ…」


そう言うと俯いてしまった。何なのよ、この男は!もう、分かったわよ!仕方なく別のフォークで他の料理も毒見をした。


「一通り全て毒見を終えましたよ。これで大丈夫ですよね」


「ああ、ありがとう」


涼しい顔をして、食事をしていく殿下。何なのよ、こいつは!本当に人間不信なの?どう見ても、私をからかっているようにしか見えないのだけれど!


頭の中で怒り狂う感情を必死に堪え、とりあえず自分の席に戻り食事をする。せっかくの美味しい料理も、なんだかイライラして味なんて分からないわ。そんな私に対し


「ステファニー嬢はよく食べるね。僕の料理も全種類毒見したのに」


そう言って不思議そうにこちらを見ている。悪かったわね、食いしん坊で!そう思いつつも


「私は海で泳いでおりますので、他の令嬢よりたくさん食べますのよ」


と、大人の対応をしておいた。どうよ、私だってやれば出来るんだから。明日早速キキに報告しないとね。


「へ~、どんくさそうなのに泳げるんだ。凄いね」


「誰がどんくさそうですって!これでもイルカのキキと一緒に、向こうの小さな島まで泳いだことがあるのよ。バカにしないで貰いたいわ」


「コラ、ステファニー。お前は殿下に、なんて言葉遣いをするんだ。殿下、申し訳ございません」


なぜかお父様が殿下に頭を下げている。ちょっと、娘がどんくさいと言われたのよ!そっちのフォローはないの?お父様をキッと睨みつけてやった。


「伯爵、確かに令嬢にどんくさいは失礼だったね。つい思った事を言ってしまって…ステファニー嬢、すまなかったね」


だから、一言多いのよ。この殿下は!でも、素直に謝ってくれたのだから、ここは私も謝るべきよね。


「こちらこそ、ごめんなさい。少し大人げなかったですわ」


とりあえず私も謝罪をしておいた。


食後は自室へ戻って一休みだ。ただ夕食を食べただけなのに、なぜか物凄く疲れた。それにしてもあの殿下、本当に失礼極まりないわね。一体どういう教育を受けているのかしら?あれではレディーにモテないわ。


なんだか思い出したら腹が立ってきた。もう今日はさっさと寝よう!急いで湯あみを済ませ、ベッドに入った。

今日も疲れたわ。お休みなさい。


ゆっくり目を閉じたステファニー、余程疲れていたのか、あっという間に眠りについたのであった。

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