第3話 殿下は警戒心が強い様です

早速ドレスを脱ぎ捨て、ワンピースに着替える。このワンピースは特殊な素材で出来ている為、水の中に入っても透けることがないし、あまり水を吸収しない優れモノだ。早速屋敷のすぐ近くにある海岸へと向かい、海の中へ。


「あぁ、やっぱり海は癒されるわ」


海の中をゆっくり泳いでいると


“ステファニー、さっきからずっと探していたのよ。どこに行っていたの?”


話しかけてきたのは、イルカのキキだ。


「実はね、お父様が領地にやって来たのだけれど、この国の第一王子を連れて来たのよ。その王子が根暗でなんだかちょっと取っつきにくい感じなのよね。お父様には失礼な事を言うなよ!って、釘を刺されるし…」


“へ~、この国第一王子様か。素敵じゃない。もしかしたら、あなたが求めている運命の伯爵様かもしれないわよ!ねえ、今度海にも連れて来てよ。それで、王子様はカッコいいの?”


「もう、勝手な事を言わないでよ。私はあんな根暗は嫌よ。確かに生い立ちを聞くと気の毒だけれどさ。それにこの海の様な、奇麗な青い瞳も魅力だと思うわよ。でも嫌よ」


“なんだ、ステファニーもなんだかんだ言って、気に入っているじゃない。とにかく、せっかくこの地に来てくれているなら、仲良くしないとね。大丈夫よ、ステファニーは友達を作る事だけは天才的に上手だもの”


「ちょっとキキ、友達を作る事だけはって、それ以外私に取り得がないみたいじゃない。失礼ね!」


“ごめん、ごめん。でもステファニーは思った事をズケズケ言うところがあるから、あまり感情的に物を言ってはいけないわよ。いい、相手は傷ついた王子様なのでしょう?たとえ腹が立っても、ギャーギャー言っては駄目だからね”


「キキまでお父様と同じ様な事を言って!私を何だと思っているのよ。もう15歳よ。私だって、ちゃんと冷静に対処できるわ。見ていなさい、すぐに王子とだって仲良くなって、明日には海にも連れて来るわ!」


“大きく出たわね。それじゃあ、楽しみにしているわ。そうそう、ステファニーは今日も海の幸を取りに来たのでしょう?準備してあるわよ”


「ありがとう、キキ。いつもごめんね。海の生き物の犠牲の元、私たちは生きていられるのよね。本当に感謝しているわ」


“こっちこそ、ステファニーが居てくれるお陰で、乱獲されたりしないから助かっているのよ。それにここの領地の人は、皆海を大切にしてくれるしね”


海の生き物と話しが出来る私が仲介役になり、海と陸の橋渡しをしているのだ。一応エディソン伯爵家の血を受け継いでいるお兄様やお父様も海の生き物と話しが出来る。昔はよくお兄様と2人でこの海に来ては海の生き物と一緒に遊んでいたけれど、最近は色々と忙しいらしく、中々領地に来られていない。次期伯爵になる為、日々勉強をしているらしい。


おっと話しがそれてしまった。さあ、海の幸を頂いて屋敷に戻らないとね。早速キキから海の幸を貰い、屋敷に戻ると、そのまま料理長に渡した。


「料理長、海の幸を頂いて参りましたわ。これで今の晩ご飯をお願いします」


「ありがとうございます、お嬢様。今日は殿下もいらしているので、張り切って作りますね」


そう言って腕まくりをしだした料理長。自慢ではないが、うちの料理長の腕はピカイチなのだ。今から楽しみね。


一旦部屋に戻り、着替えを済ませる。そして今朝海岸沿いで集めた貝殻を使って、アクセサリーを作る。家の領地では、貝殻や真珠、珊瑚を使ったアクセサリーを加工し、他国に輸出することで収入を得ている。


私も少しでも役に立てばと思って、時間を見つけては作っているのだ。と言っても、大した収入にはならないけれどね。それでもこうやって自分が作ったアクセサリーで誰かに喜んでもらえると思うと、嬉しいのだ。


コンコン

「お嬢様、夕食の準備が整いました」


「ありがとう、今行くわ」


メイドのエリーが呼びに来てくれた。そう言えば、随分と薄暗くなってきたわね。アクセサリー作りに集中していて、気が付かなかったわ。


急いで食堂へと向かうと、既にお父様と殿下も来ていた。


「お待たせして申し訳ございません」


ぺこりと頭を下げ、急いで椅子に腰かけた。


「それでは頂きましょうか。殿下、お口に合うと良いのですが」


お父様の掛け声で食事スタートだ。さすが料理長が腕によりをかけただけの事はある。貝のバター焼きや魚のカルパッチョ、魚の塩漬けや揚げ物。海の幸以外にも、お肉や新鮮な野菜を使ったお料理も並ぶ。


もちろん見た目にもこだわっていて、目でも楽しめる。この真ん中に魚を置き、周りを野菜やソースでお花を表現した料理なんて、まさに芸術だ。味も美味しい。


ふと殿下の方を見ると、全く手を付けずに固まっている。どうしたのかしら?お父様も同じ事を思ったのか


「殿下、どうされましたか?何かお気に召さないものでもありましたか?」


心配そうに訊ねるお父様。


「いいや…素晴らしい料理だと思う。でも、悪いが食べられない。万が一毒でも入っていたら大変だからね」


そう言って席を立とうとする殿下。料理長もお父様も困惑顔だ。毒ですって!そんな物入れる訳がないはないじゃない。キキたちがわざわざ準備してくれたのよ。それに、うちの自慢の料理長が一生懸命作ったのに!かぁ~っと頭に血が上った。


駄目よ、感情で怒っては。キキにも言われたじゃない。とにかく落ち着かないと。体中から溢れる怒りを深呼吸で沈めた。よし!


落ち着いたところで、ゆっくりと殿下の方を向いた。

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