第2話 王子がしばらく家で生活するそうです
私が席に着いたのを確認したお父様が口を開いた。
「ステファニー、こちらはこの国の第一王子、ノア・バハル・マール殿下だ。しばらくここに暮らすことになったから、よろしく頼む」
ん?今なんて言ったの?この国の第一王子?しばらくここに暮らす?
「お父様、一体どういう事ですか?そんな事を勝手に決められては困ります!そもそも、どうして第一王子様が王国の端にある我がエディソン伯爵領で生活するのですか?」
通常この国では、一番最初に産まれた子供が王位を継ぐと言う決まりがある。確か今の国王には男の子が3人しかいなかったから、今目の前にいるこの人が王位を継ぐはずだ。そんな重要な人物が、どうしてこんなへんぴな場所に居るのよ。さっぱり分からないわ。
「ステファニー、細かい事は気にしなくてもいい!とにかく、殿下はしばらくここで生活する事になったんだ。いいな、分かったな」
「何が細かい事は気にするなよ。気になるに決まっているでしょう!」
私を何とか丸め込もうとするお父様に対し、文句を言う。すると
「伯爵、この令嬢に僕の事を話しても構わないよ」
そう言ったのは第一王子様だ。でも、なぜかずっと下を向いている。何なのかしら?この人は…
「殿下がそうおっしゃるなら…」
そう言うと、お父様が詳しく話してくれた。どうやら第一王子の実の母親(元王妃様)は、第一王子が産まれて間もない頃に、事故で命を落としたらしい。その後すぐに王妃の座に着いたのが、今の王妃様だ。
王妃様はその後、第二王子、第三王子と次々に男の子を出産した。自分の子供を何とか国王にしたい王妃様は、第一王子の命を2度も狙ったらしい。さらに第一王子にかなり冷たく当たっていた様で、完全に心を閉ざしてしまった第一王子。
陛下も元王妃様を心から愛していた様で、大切な忘れ形見でもある第一王子がこれ以上傷つけられない様、古くからの友人でもあるお父様に託したらしい。
「なるほど、話しはわかりました。でも、どうして王妃様を断罪しないのですか?そもそも、王子様を暗殺しようとした事がバレれば、いくら王妃様でも極刑は免れないはずですが」
「確かにそうだな…でも、いくら調べても証拠が見つからないんだ。さらに現王妃様の実家は、この国でも1・2を争う有力貴族、ジョリージョ公爵家だ。あまり大々的に調査をする事も出来なくてな…」
そう言ってため息を付くお父様。どいつもこいつも、だらしないわね…でも、それならしばらく家で匿うのも仕方ないわね。
「分かりましたわ。ノア殿下とおっしゃられましたね。ステファニー・エディソンと申します、短い間ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」
殿下の顔を見て挨拶をしたのだが…
「ああ…」
俯いたまま一言そう言っただけだ。何なの、この人。こっちが自己紹介しているのだから、相手の方を見るのが普通でしょう?いくら第一王子だからって、ちょっと失礼じゃない!
さすがに文句を言おうと思ったところで
「それではノア殿下、お部屋に案内します。どうぞこちらへ」
そう言うと、さっさとお父様がノア殿下を連れて出て行ってしまった。お父様め!まあいいわ。さあ、話しも終わった様だし、もう一度海に向かおう。そう思っていたのだが
「お嬢様、旦那様がこのまま部屋で待つ様に。との事です」
何ですって!まだ私に話があると言うの?なんだか面倒ね…私は話す事も無いし。そう思い、そろ~りと部屋から出て行こうとしたのだが…
「ステファニー、部屋にいろと言っただろう!」
タイミング悪く戻って来たお父様に捕まってしまった。仕方なくもう一度部屋に戻り、椅子に座った。
「それで、まだ何の話があるのですか?」
面倒だが仕方なく聞く事にした。
「ステファニー、殿下はとにかく現王妃に冷たくあしらわれ、命まで狙われたんだ。さらに、実の母上でもある前王妃の愛情すら知らずにお育ちになられた。わかるだろう?物凄く気の毒なお方なんだ。それから、極度の人間不信でもある。いいかい?くれぐれも殿下に失礼な事をズケズケと言うなよ!いいな!お前は思った事をすぐに口に出すから心配でたまらないんだ」
失礼ね。誰が失礼な事をズケズケ言うのよ。本当にお父様はデリカシーがないのだから!嫌になるわ。
「分かりましたわ。極力殿下には近づかないようにします。それでよろしいですわね!」
「ああ…その方がいいだろう。それからお前はいつまで領地にいるつもりなんだ。もう15歳なんだぞ。そろそろ結婚相手も探さないといけないんだ。いい加減王都に…」
「その話でしたら、聞き飽きましたわ。私は王都に戻るつもりはありませんから。それでは、失礼いたします」
ぺこりと頭を下げ、さっさと部屋から出て行く。
「待て、まだ話は終わっていないぞ!」
後ろでお父様がギャーギャー騒いでいたが、無視しておく事にした。なんだか疲れたわ。早く海に行って、癒されないとね。
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