第3話 コンビニ

 昔を振り返ってみれば、自分は友達を作るチャンスなどいくらでもあったのだ。

 何人もの人が私に話しかけた。


 しかしその内容が、休みの日は何をやっているのだの、あのテレビみたとかそういったものであった。

 つまらない。

 そして思う。こういった人と仲良くしても時間の無駄になるだけだろう。そうやって私は人を選ぶことにした。その結果、周囲に人がいなくなった。

 誰が悪い? そんなものは私に決まっている。


 グー。誰もいない部屋で私のお腹がなる。

 生物、最大の欠陥、空腹の時間がやってきた。


 スマホの時計を見る。19時。

 19時か。実感が湧かない。一人暮らしを始めてからなおさら体内時計が狂いだしていると思う。

 まだ、幾分か体内時計が正常だった学生時代なら昼休みが近づく頃には、アラートがちゃんとなってお腹空いたし、夜になると眠くなったりもした。

 しかし今はどうだ。

 昼になっても腹はすかないし、眠たくもならない。今すぐ私の体内時計の電池を入れ替えた方がいいのではないか?


 ともあれ、私は大きな一歩を踏み出して玄関へ向かう。

 今の私が外に行くということは、戦地へ向かうのと等しい。一生家に帰れないかも。それぐらいの覚悟が必要である。


 玄関を開ける。

 外に出る。まるでハンマーで頭をかち割られたかのようにグワングワン痛む。

 地球が公転している。それが分かるぐらいにグルグルと自分の視界が回る。


 視界のピントがあったのはそれから5秒ぐらい経った後。

 車道にはトラックが何台か通り過ぎている。

 このトラックに轢かれたら軽症ではすまないだろう。そう思う。

 轢かれた後、ルビーのように真っ赤に輝く肉片があちこちに散らばっていく……

 それを想像するとブルリと身震いがする。そして自然と車道から体を遠ざけてしまう。まだ自分は生きたいんだな。


 それからコンビニまでの距離は、歩いて10分ほどかかった。

 不思議なものだ。学生の時、最寄りのバス停から高校まで10分以上かかった。遠いなと感じることはあったけど、そこまで苦に感じたことなどなかった。


 それなのに今はこの10分と言うのが非常に遠い。顔も体もまだ若く、手の甲には皺1つないのに、内面ではどんどんと歳をとっている。

 そのうち、居間から玄関までの距離ですらも遠く感じるようになるのではないか。

 しかも、それは数年もしないうちに……


 既に疲労でパンパンに膨らんだ足をゆっくりとあげてコンビニの中へ入っていく。

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