第14話 「ひょっこり小悪魔」




「おい顔近えって!?」


 俺の両肩をベンチの後ろから掴んだまま離さないから必然的にお互いの顔が近くなって羞恥心が芽生えてしまった。調子に乗るからあまり本人には言いたくないんだがこの可愛い顔のドアップは不用意にドキッとさせられてしまう。


「アハッハ、相変わらずのウブだな〜ハルっちは。またセクシーで可愛い砂っちに照れちゃった?」


 それには同意するが本人が自分で言ってちゃ台無しだろ。いつまで俺をからかってれば気が済むんだこの小悪魔は。さばさばした性格に努力家な小悪魔属性付属されてて個性が強すぎませんかねこの人は。


「相変わらずの自意識なナルシストだな、ユウカは」


 自分のことを一番可愛いって思ってんだろうな。まあそりゃ努力ができる上に容姿にも恵まれててダンスに対する向き合い方が真摯だし、異性としての自分のアピールをしっかり持ってる奴だから、まあ可愛いとは思うけどさ……。


 なっ!?


「ふ〜んまたまた旦那ぁ。ほらこの通〜りいつもの照れ隠しだってことくらい簡単にわかっちゃうんだかんねー」


 なに勝手に人の首元に手を当てて来てるんだよコイツは。手がひんやりとしてて気持ち良い……じゃなくて恥ずかしいからやめろし。大体俺の正常な脈拍数を知ってるわけじゃないのに俺の心拍数が上がってるなんて勝手に決めつけるな。


「はっ、どうせハッタリだろ。俺がこんなことで一々ドキドキしててたまるか」


 なぜかコイツは俺と2人きりになる度にこうして少々過激なスキンシップを取ったりして弄ってくるんだよな。美少女に構ってもらえるのは本気で嬉しいんだが中には相当に際どい会話もさせられたことがあるから余計にタチが悪い。


「ハルっちも相変わらず強情だな〜どれどれ砂っちがその緊張感をほぐしてあげよっか。……ふーっ」


「ひゃっ!?」


 耳に口元を寄せられて息を優しく拭きられたせいで、くすぐったい感覚に侵されて変な声が思わず出ちゃったじゃねえかこの野郎。お互いに恋愛感情は無いはずなんだがこんなやり取りを繰り返してたらいずれコロッと行きそうで怖いな。


「アハッハッハ、本当いい反応するよねハルっちは。そんなんだから弄るのが辞められないんだよね〜」


 これが因果応報っていうやつだろうか。俺が内心でミキコさんを揶揄ってるのを楽しんでいるように、また別に俺のことを揶揄うのに生き甲斐を見出しちゃってる困ったヤツが別に存在してしまってるのだ。


「いい加減にしろや俺もそろそろ反撃したくなってきたぞ」


 ここは今後の戒めに一発くらいは締めとかないとな。いつまでも童貞を小馬鹿にしてちゃいつか必ず痛いしっぺ返しを喰らわされるぞコンニャロ。最近美少女たちと絡むようになったところでボッチだった頃の恋愛観が拭えるわけじゃない。


「じゃあアタシのことを触ってみる?ほらほらやってみなよー」


 そう言いながら俺の隣に腰掛けて来ると、目を細めてニマニマ笑いながら両腕を頭の後ろに組みながら俺を見下ろすように挑発して来やがった。


 ──くっそ……ダンスをするためのスタイル維持も頑張ってるせいでしっかり身体が鍛えられていて筋肉を浮き彫りにしつつも、女性特有の柔らかさや丸みもしっかり帯びてるせいでエロ過ぎてどこも触れっこねえ。この悪魔野郎っ!


「お前俺が絶対に出来ないってわかってて言ってるよな?」


 毎回思うが何なんだよこのやり取りは。まるで某中学生の男女がお互いを揶揄い合って読者をニヤニヤさせるのが売りな作品のモノローグみたいだ。


「だってハルっちの反応が可愛過ぎるのがいけないじゃん」


 そう言いながらからから笑ってるユウカがちょっとムカつくな。今度こそ本気でその脇腹突っついてやろうか?いつか本気出す時がやって来たら盛大に泣き叫ばせてやるからな。


 それにしても異性とこんな戯れ合ったりしてちゃモテてモテて仕方が無いんじゃないか?まあ俺からもすれば地上にひょっこり顔を出してるダイヤみたいな存在だからクラスの男たちの考えてることも分からなくも無いんだが。


「お前そんなんだから男に言い寄られまくってるんじゃないのか?」


 この間の昼休みにちらっと見たんだが他クラスの男子に「一緒に食おうぜ」

「また今度遊びに行かね?」などのセリフを鬱陶しそうに払い除けながらリオたちと購買の列に並んでた記憶がある。


「ふ〜んハルっちもしかして嫉妬?」

「いや可愛い子なら十分もう間に合ってるんで」

「何アタシに対してアピってんの?ゾワゾワするから辞めてよねー」


 フハハハやっと1本取れたぜ……って小学生かよ俺は。


「ともかく、まあ、ああいう輩に絡まれてるのが最近のちょっとした悩みなんだよねー。女の子を取っ替え引っ替えして自分の欲を満たそうとしてる奴らのどこが良いんだか。ああいうのにホイホイついて行っちゃう子の気が知れないわ」


 確かにこの間ユウカたちに絡んでたのは隣のクラスで有名な正真正銘のヤリチンクソ野郎共だからな。噂では未成年の分際で夜のダンスクラブやバーに侵入してたり他にも危ないことをやってたりと情報が錯綜としてるような奴らだ。


「まあ俺にそんな度胸は無いけどオスの生存本能で沢山の女の子とイチャイチャしたいっていうのがあるんじゃないか?そしてそんな個に対して強く惹かれてしまうのがメスだというもの……とどこかのサイトで見たことあるぞ」


「はあ?……やっぱり砂っちには良く分かんないねー」


 だったら例題を出そうか。


「例えば鍵と鍵穴があるとするじゃん」

「……んで?」


 突然の話題の変化を不審に思いながらも頷くユウカ。


「1つの鍵が沢山のロックを開けられたら、それはマスターキーとも呼べる優秀な存在だと言えるだろ?」


 そして逆に1つの鍵穴が沢山の鍵にこじ開けられてちゃそのロックの性能はクソで価値が無いと言える。……まあ完全に下ネタの比喩だがやはり現実でもそういった固定観念があるんだろう。


 まあ俺個人はそんな女性が身近に居ても、ちゃんとした信念を持ち合わせて付けるべきもの付けてたら尊敬できる考えを持ってるんだけどな。


「はあ!?っ……いやまあ言ってる意味はわかるけどさ、理解はしても交流するのは嫌だね」


 まるで違う人種かのような扱い方で苦笑してしまう。遊んでるか遊んでないかだけで宇宙人と地球人の異文化交流みたいだってか。


「まああまり良いイメージは持てないよな」


 特に女性が沢山の男と遊んでたら世間からのバッシングを受ける世の中だからな。まあそれは男側からしてもなるべく相手する女性が自分との接触がその子の初めてになってくれたら喜んでしまう生き物なんだろう。


「うん……」


 なるべく男は初めての男になりたがり、女は最後の女になりたがるとで需要がまるで一致してないような自然界の理不尽とも言える。だからいくらカップルになろうが所詮同じ気持ちで求め合ってはいけないんだろうなと思ったりもする。


 かつて読んだ男女における哲学書で読んだ時に見つけた情報だから具体性は抜群だろう。はっ、そういうワケだから今後色仕掛けされてももう騙されんぞユウカめ。攻略法さえ知ってればもう迷わずに済むってもんだ。


「……それで……ハルっちは、どうなの?」

「え?何が?」

「だから……もし、もしよ?」

「……だからなんだよ」

「くうちゃんやリオたちがハルっちのことを誘惑したら、誘いに乗っちゃうの?」

「は?」


 なっ……いきなり何聞いてやがんだコイツは。そりゃたまにくうちゃんの巨大なそれらに目が吸い寄せられたり、リオの少しふっくらとしてて柔らかそうな唇にも目が行くこともたまにあるけど、アイツらは俺のダンス仲間であってだな。


「…………」


 くっ……何でそんな心の内側を見透かそうとするような瞳で俺の目の奥を覗き込んでくるんだよ。そんな不安そうな子猫のような表情浮かべられたらつい撫でて「大丈夫そんなことないよ」って囁きたくなるじゃないかズルいってそれは。


「……いや、だから……」


 真剣に考えてみても俺はこれからもアイツらと同じ志を持った仲間同士としてこれからも接していきたい所存だ。目の前にいるユウカだって例外じゃない。共に高みを目指していつかバトルイベントを制覇できるようになりたいものだ。


「…………ニヒッ」


 あ。


 気がついた時にはもう遅くてユウカにからから笑われていた。


「当たり前じゃん女の子に告られたり一緒に写真撮って下さいってお願いされてもガチガチになっちゃうクソ童貞のアニオタくんに、女の子を押し倒す度胸なんてある訳ないに決まってるじゃん」


「くっ……この悪魔め」


 クッソがまた嵌められた。この野郎今日の部活終わりのサイファーで覚えとけよ泣かせる勢いでバーンズ飛ばしまくってやるからな!?そしていつか猫に追い詰められたネズミの逆襲を食らわせてやる、最後に笑うのはこの俺だ!


 いやまあ過去のやり取りから学習してない俺も俺で悪いんだが……。


「……ふーっ。それで、さっきしてたの?」

「え?……あ、ああ。あれは……」


 どうやらここからが本題らしい。

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