第13話「ハルトVSヒカル②」




「ツー……ワン……おっけい!おし、次はヒカルの番だ!」

「……ッ……」

「思っクソやり返したれヒカル!!」


 ゆっくりトップロックしながら向かってくるヒカル。だが……。


『クハハ……今の掛け声はリョウスケさんだったな。……だがやはりトップロックの入りからがぎこちないな。……そんなちょっとだけ前進したところで落ち着いて』


『……どうしたヒカル、俺に散々煽られたってのに、何一つもやり返しに来ないつもりか?勿論それはそれで構わないんだが、ノリノリに踊れてないとただようにしか他の皆には映らないぞ……』


 頑張って音楽を聴きながら手足を動かしてるけどやや音の早取りが目立っている、頭の中の証拠だな。


 ドラム音の中でもとり分け目立つビートがあるのに、空回りしてるから観戦してる側からすれば気持ち悪い踊りに感じるだろう。


 俺はすかさず手で銃口を作って耳に当てて揺らすノット・リスニングの煽りを放つ。……いや無駄か、俺との視線を避けてるのかずっと床を見てるようだし、フットワークに入っても俺の方を見ない。


 ……無駄な体力を消耗してるのか、いつもの6歩と比べてグッダグダで汚くなってるぞ。次にオリジナルフットワークで両足を開脚させては閉じるやつをやろうとしたようだが、勢いが死んでて微妙だった。


「音に集中するんだヒカル!」

「ファイブ……フォー……スリー……」


 リクさんが喝を入れても雑な踊りは治らず、6歩からチェアーに刺すが、バランスを保つのに失敗して横に崩れ落ちた。俺はクラッシュのサインを飛ばすために、ヒカルを見ながら床を手で一回叩いた。


「……ワン……オッケイ。2ムーブ目行くぞ!」


 ヒカルが下がっていくと膝に手を置いて深呼吸し始めた。恐らくして頭もまともに回ってないだろうな。……勝負はもうすでに火を見るよりも明らかだったが、これも試練だからな。


 俺は躊躇なく捕食に入るべくトップロックを踏み始めた。……とは言えもうすでにを刻みつけたことには成功したはずなので、これ以上傷口に塩を塗る必要は無いだろう。


 俺は音取りする個性全開のトップロックを披露していく。


『ワンムーブ45秒間のルールだが、意図的に2ムーブ目を早く終わらせることでヒカルにさせる時間を少しでも削っておこうか』


『それにわざわざ煽りを飛ばさなくとも大技を見せつけるだけで、相手の自信を奪うには十分な場合も多いからな。……ここが正念場だぞ、ヒカル』


 10秒ほどゆっくりトップロックをすると、テンポが早くなったドラム音に合わせて6歩からキックアウトもする。フットワークしながら少し後方に下がると、勢いをつけてを披露した。


 周りの歓声を聞きながら、勢いを落ち着かせるとフロントの姿勢になってCCをトトッ、トトッ。と左右両方にやると最後に後転から身体を押し上げて、帽子に手を添えた片手エアベイビーのフリーズを決めた。


「ムキーっ!!」

「ぷくくくっ……」

「ナイスだったよハルっち!!」


 相変わらずなミキコさんの過剰な反応っぷりにユウカまでからから笑った。そして対戦相手を見ると一瞬したような顔を浮かべたようだ。恐らくバトル前に時間一杯を使った方が良いと聞いて、俺が時間ギリギリまでバーンズ飛ばすなりすると思ってたんだろう。


 けど勿論それは状況次第で時と場合による……こうやって意図的にスパッとムーブを切り上げることによって、もある。


「……あんにゃろう……20秒くらいしか踊ってなかったな」

「交代だ。次はヒカルの番!」

「……は……っ……」


 鉄が錆びたロボットかのような身体の動かし方で、ステップを踏み始めた。少しでも肺に酸素を届けようと足掻いてるのか、サルサロックやインディアンをしながら軽く踊っていく。


 もうそろそろ持ち時間の半分を消費することになるぞ……と思い始めたところでドロップから6歩へ。少しは足運びに鋭さが復活したようだが、まだまだ疲れてるんだろう。……ほら、床に踵を接触させてるからか膝が上がってるぞ。


「落ち着いて良く音を聞くんだヒカル!」


 3歩もフットワークが鋭くなったものの、恐らく残りの体力をダンスに意識を集中させてるためか、音を外しまくっている。


 一度カッコよく立ち上がってジョーダンを決めたが、ブランブランしてたし、倒立で横に倒れていったし。もうヤケクソな感じでそこからバックロックに入ってチェアーを決めようとした。


「あー……」


 簡単なバックロックから左軸のチェアーに入る流れは、先ず左足を伸ばしてあげるとその左足を越すようにして、右足を振り上げると同時に上半身も捻る。同時にと、右足のつま先を床に着けた状態になる。


 そこから左腕に身体を引き寄せて肘にチェアーを挿しながら、とパッと綺麗にチェアーを決められる。右手で床を押すことで、身体を左腕に引っ掛けるのがコツだ。


「……バトル終了!」


 だがヒカルは最後にチェアーを刺すのに失敗して横にゴロンっと落ちたようだ。そのまま寝転がった状態で手の甲を、おでこに置きながら深呼吸を繰り返していたので、俺の方から駆けつけて、そばに座った。




【後書き】

https://kakuyomu.jp/works/16816927859703181429

読者の皆様へ、ほのぼの純愛を基本とした学園✖️ブレイクダンスものを執筆し始めたので、是非ご一読なされて下さい!

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