第9話「我が家の通い妻?」




 学校からおよそ15分くらいのスーパーへ辿り着くと、

 俺とクルミは中に入って、野菜コーナーから2人で食材巡りをし始める。


「そういえばハルトくん、最近はジャガイモや人参を使ったご飯をよく食べてるんじゃないかな?学食でも良くカレーライス注文してるよね」

「ああ。学食のカレーは本当に美味いから、病み付きになったかもしれん」


 あのカレーにはどういう訳か、高頻度で食べても全く飽きない魅力がある。

 最近は水曜日に出される唐揚げ定食以外、昼飯がほぼカレーになり気味だ。


「ふふふっ、私も食べてみたから分かるよ。カレーの旨味に蜂蜜を使ってるんじゃないかな。だから今夜は緑の野菜を多めに入れるね」

「なるほどな。ありがとう、クルミ。そうしてくれると助かるよ」

「どういたしまして。あ、そういえばハルトくんのところのトイレットペーパーもそろそろ無くなるんじゃないかな?」

「確かにあと1塊だったな」

「やっぱりね!じゃあカートに入れておくね」


 そうやって春の柔らかな日差しのような笑みを向けてくるクルミ。

 また、光合成しに花弁を太陽に向けてるフリージアとも形容可能だ。


「……本当に有難うな、いつも」


 隣でカートを持ちながら右手でほうれん草に手を伸ばしてるクルミに言った。

 今日は白色のラフ系なストリートブランドの半袖シャツに水色のジーンズだ。


『全く……クルミももう少し自分が異性として魅力的だと自覚した方がいい……チャリを漕いでて暑く感じたのか、今は上着を腰に巻くまで着てたから良いんだが』


 それに困ったことに、シャツがタックインされててベルトで締めてあるから、

 名称を省くが女の子な部分が凄く目立ってて、目のやり場に困るのだ。


「どういたしまして。それに、私が好きでやってることだからね。ハルトくんの方こそいつもうちの分の食材を持っててくれて有難うね」


 俺たちはあの日以来、主に月曜日と木曜日の2日間に部活終わりで、

 こうして買い出しに来ては、俺の家に料理をしに来ることが多いのだ。


 なんだかんだでこの一連の流れがお互いにとって習慣になってから、

 もう1年が経つのか。きっかけは今でも鮮明に覚えているが……。

 お互いにとって都合が良いからこうして続けてるのだ。


 クルミは1人っ子娘で両親が帰ってくるのがいつも8時過ぎと遅いから、

 朝ご飯と夜ご飯を含めた多くの家事を担当しながらも、

 ダンス部のマネージャーも両立させてる。


『まあダンス部の、とは言っても暗黙の了解でほぼ俺たちブレイクダンサーの世話しかしてないけどな。余程ブレイキンかブレイクビーツが好きなんだろう』


 俺も1人暮らしをしてる以上、食材の買い出しは免れないのだ。

 だったら一緒に買い出しに言った方が色々とお得だよね、と言ってくれた。


 例えば大容量パックのお肉だと俺1人では食い切るのに時間がかかるが、クルミの家族の分と分け合えば、お互いに必要な分だけ持って帰れるし、残った分の差額で引き取ってくれるから、2人とも買い物のコスパも上がるのだ。


『……なんて説明をしてくれたクルミだったが、恐らく本音は別だろう。俺も留年した影響で1人暮らしをしてるとはいえ、最初の1年は生活習慣がダメダメだったのが1つ。あの頃はカップ麺やインスタント食品にお菓子が、俺の肉体を構成してたと言っても過言じゃなかったからな。何より……俺も1人暮らしをしてる以上、どうしてもドアを開けた時の真っ暗な部屋を見ると、思うこともある』


 恐らくそんな俺を気遣って今でもこの習慣に付き合ってくれてるんだろう。

 いや、もしかしたら本当に寂しく思っているのは……ふっ、な〜んてな。


 俺がダンスを始めてからそうと知ったクルミが、時間が空いてるときにこうして買い出しから俺の家に寄ってまでしに来るようになり、時々お手軽なおかずの作り方も教えてくれるようになって、最近はひじきの煮物を習得できたのだ。


 それがやがて大体月&木曜日の頻度で定期的に俺の家に寄るようになり、

 冷蔵庫で日持ちするおかずを沢山用意してくれるのだ。


 最近は本気でマシになってきたとは言え、つい整理整頓をサボってしまうとまでしてくれる始末で、申し訳なさやら情けなさで本当に頭が上がらないんだ。


 それでもクルミが積極的に支えてくれるから素直に甘えてるのが現状だし、

 これを当然の行いとは決して受け取らずに恩返しもしていきたいものだ。


「当然だろ、むしろこんなことでしか手伝えてないのが申し訳ない程だよ」

「ふふっ……ううん、全然そんなことはないよ?私も十分返して貰ってるんだから。……ハルトくん、今夜作るツナとほうれん草のパスタ以外に、何かリクエストある?」

「そうだな……けどクルミの作り置きも美味しいから今夜もそれでいいよ」

「もう、だからそういうことを考慮して欲しい訳じゃないんだけどなぁ……」


 かつて地元では自分の部屋に篭って外出は必要最低限にしてたし、

 両親は俺に本当に優しかったが、傷ついた心で外出する気になれなかった。


「クルミ、バナナ&ミルクジュース飲んで帰ろうか」

「ふふふっ、ハルトくん……本当にそれ好きだよね。子供みたいだよ」

「焼肉屋ではオレンジジュース頼むからな。だって美味しいんだもん」

「ぷっくっアハハハ、バトル中のハルトくんとはギャップが激し過ぎておかしいよ」


 そうやって少しむせながら、くすくす笑い続けてるクルミ。

 だからだろうか、気がつけばこの退屈で死にそうと感じるような時間を、

 すっかり密かに楽しみにし始めてる自分が居るのだ。




 --




 クルミを家に招き入れると、テキパキと食材を整理し始めた。

 当然この家のキッチンには手慣れてるどころか、彼女の領域になってる。


 トン、トン、トン、トン。

 コトコト、コトコト、コトコト。

 シャーッ、シャッ、シャッ、シャッ。


 俺のエプロンを着ると、生野菜を水洗いしてから切っていく。

 その間にも鍋に水を入れて沸かし始めて麺も入れていった。


「まだしばらくは料理を続けているから、ハルトくんはゆっくりしててね」

「ああ、わかった。ありがたくそうさせて貰うよ」


 俺は家にある小さなスピーカーから適当な洋楽を流し始めると、

 自分の部屋に入って、ヨガ倒立をし始めた。


 美味しそうな匂いに囁やかなクルミの鼻歌を聴きながら呼吸に集中する。

 これは別に良くドタバタなラブコメの主人公が性欲を落ち着かせて、

 精神統一を図ってる妙な儀式なんかじゃないぞ?普通の筋トレだ。


『身体を疲労させた後の食事は最高に美味いからな。それがあのクルミの料理と掛け合わさると至高になる。ふっ、これもすっかり習慣になってるな……』


 それから腕立て伏せや腹筋などのメニューもこなすと、

 夕食とともに頂くプロテインを自分で用意していく。


「ハルトくん、そろそろパスタが完成するからおいで」

「はいよ」


 ああ、この匂いだ。うわ絶対頬っぺた落ちるだろうなこれは……。

 お皿をクルミに持っていくと、沢山盛り付けてくれた。


「これくらいで良いかな?もっと欲しい?」

「ああ、もう一回だけさっきと同じ分量を頼むよ」

「ふふっ、ハルトくんはとんだ食いしん坊さんだね」


 誰かさんのおかげでな。俺の胃袋を掴んだ責任をとって、

 これからも俺に料理を振る舞い続けてくれると嬉しいな。


「クルミも負けてないだろ?そんなに盛り付けちゃって」

「私もパスタ大好きだから、こんなの我慢できそうにないよ」


 自分の大好きな料理を目の前の人が食ってて耐えられる訳ないか。

 かく言う俺もそうだ、机に運ぶ際にもう唾液がじゅるりと……。


「確かにな、それじゃあ食べようか」

「うん」

「「頂きます」」


 フォークにツナも絡ませた麺を丸めて、パクッと食べる。

 うめええええええ。唾液と共に脳汁がドバドバ分泌されてしまう。


「本当美味いなこれ!!やっぱりクルミのパスタは最高だな」


 本音を言えば俺の母の手作りトマトソースに敵う料理は無いと思うが、

 この料理には是非5つ星をつけたレビューを書いてあげたいものだ。


「凄く美味しいよね!ありがとう、お口にあったようで何よりだよ」


 クルミが料理をしに来始めて最初のうちは、俺のご飯が出来るとそのままキッチンに残って、俺のためのおかずや家族分の品を料理して帰って行くことが多かったのだが、どう言うわけかこうして晩飯を俺と済ませる頻度も増えてきたのだ。


 ご飯を作ってくれてるだけでも本当に嬉しくて有難いんだが、

 一緒にご飯まで食べるせいで妻が出来たんじゃと錯覚することもある。


「なあ、気になってたんだけど、クルミって実はダンスに興味あったりする?」

「えっ?……どうしてハルトくんそんなことを聞いてきたの?」


 2人ともパスタを食べ終わると一緒にお皿を洗い始めたので、

 俺は最近気になっていた疑問をクルミにぶつけてみた。


「ああ、不躾な質問だったかな。嫌な思いをさせたら謝るよ」

「ううん、全然そんなことないよ?気になっただけだよ」

「なら良かったよ。だってクルミ、音楽を流すときとかたまに音に乗るようにして身体揺らしてるじゃん」

「えっ!うそ、バレてたの!?嫌だ恥ずかしい……」


 よく部活中や中央公園で練習してるときも頭を音楽に乗せてたし、

 よく見たらモゾモゾしてるのはなんとなく伝わってきてたんだよ。


「……料理してる合間とかだとバリバリ動いてるの知ってるからな?」

「いやぁあ〜!見ないでぇ……ハルトくん覗きとか趣味悪いよ!!」


『フーッハハハハハハハハ!そのために俺は自分の部屋の扉を開けてたんだよ、バカめ!キッチンで料理してると死角になるから気がつく事はあるまい??』


 ていうかここ俺の家ですよね……?それにいくらプリプリしてても、

 トマトのように染まった顔を両腕で隠そうとしたままそっぽ向いて、

 耳も赤いしそんな姿で怒鳴られても迫力がゼロだぞ。


「アッハハハハ」

「笑わないでよ……!」

「……だからまあ、本当は踊りたいんじゃないかなって思ってさ」

「……んっ……。なるほどね。でも私もまだ自分がよくわからないよ」


 更に続けた。


「音楽が頭の中に流れると自然と身体を動かしたくなるんだよね。でもだからってちゃんとダンスがしたいかと聞かれると、ちょっと違うとも思う」

「なるほどな。恐らくだけど、クルミは……」


 本当に言っても良いのかと一瞬迷ってしまったが、

 クルミの悩みを解決させる手助けになるかも知れないから、言おうか。


「クルミはDJに興味があるんじゃないか?」

「……DJ?……もしかしてよくクラブでやってるアレのことかな?」

「ああ、そうだよ。回転するディスクをスクラッチしてる人のことだ」

「ええ……でも、なんだかそれって……」


 確かにDJの主な活躍の場といえばクラブが中心になって来るから、

 無いとは信じたいが、酒を勧めたりしてナンパする男が多い偏見がある。


「なんとなく、危なそうなイメージがあるよな。言ってみただけだよ」

「……うん、私も正直そう思う」


 特にまだ男性慣れしきれてないクルミをそんな環境に放り込むのは、

 めちゃくちゃ抵抗を覚えざるを得ない……別に恋人では無いんだが、

 だからって霧の中に光を照らしてくれた彼女を粗末に扱うのは許せん。


「余り真剣には受け取らないでくれ、あくまでも例えだからな?」

「うん、そうだよね。気にかけてくれてありがとね、ハルトくん」


 おまけに主な活動の時間帯は夜から朝にかけてだから女性にとっては、

 お肌の天敵だし相当な覚悟と音楽観がなければ目指せない仕事だろう。


「当たり前だろ、クルミがに俺に言ってくれたように、俺もいつでも話を聞くからさ。どんな些細な事でも俺に相談してくれ。大したことが出来なくても、せめて話を聞いてあげることぐらいなら、出来るからさ」


『それに、口に出して話してるだけでも少しは気分が落ち着くよ。相手は私じゃなくても良いの。高橋さんや、竜崎くん、砂川さんでも他の誰かでも良いから人を頼って、スッキリした方がいいと思うよ。そうしてるだけでも肩の荷が軽くなることもあるし、今の星宮くんにはそういう機会が必要だと思うの』


 ……かつて去年で俺が落ち込んでた時期に、

 クルミが俺に贈ってくれた言葉を思い返していた。


「……ふふっ、そうだね。これからも頼りにしてるね、ハルトくん」

「ああ任せろ。よし、じゃあ皿洗いを続けよっか?」

「うん、この後もおかず作る時に野菜切るの手伝ってくれないかな?」

「はいよ」


 その後も俺たちは料理を続けると、やがてやりたいことを終えたのか、

 料理をプラスチック容器に入れ始めたので俺もそれに倣った。


「今夜も送っていくよ、そろそろ暗くなってきたんだし」


 赤色に染まった夕日がそろそろ落ちて来たんだし、

 こんな時間から女の子を1人で出歩かせるのは良くない。


「うん、そうすると助かるよ。いつもありがとうね。……不躾な視線を辞めさえしてくれれば、言うことはないんだけどね?」

「うっ、それならクルミだって悪いんだぞ!俺だって男なんだからその辺は気を遣えよ……」


 その張りがありそうなお椀型の双丘の凶悪さをもう少し自覚しやがれ。

 いくら仲の良い友達として接してても、異性の魅力が薄れるわけがない。


「……ハルトくんなら何もして来ないから大丈夫だよ」

「おっしじゃあ今夜はやっぱり泊まって『X』の字で寝…」

「ハルトくんは『ハ』の字で寝て下さい」

「何それ俺の体が真っ二つに切断されてて死んでるじゃん!」




 --




 荷物を全部まとめた俺たちはチャリでクルミの家の前まで行くと、

 お互いに挨拶をすると、約10分で俺は再び帰宅した。


『……やっぱり寂しいもんだな。今日みたいにクルミが来たり、いつものメンバーでワイワイ遊んだりして帰ってきたときに、この誰もいない真っ暗な部屋……』


 けど仕方ないことだからこういうこと考えるのやめようか、

 と電気をつけてベッドに寝転がるとブレイキンバトル動画を鑑賞する。


『うわこのビーボーイめっちゃバトルの仕方が上手いな……技の技術や完成度では相手に劣ってても、煽りやフレーヴァーの作り方が上手くて見入ってしまう』


 昨年の世界大会の決勝戦の動画などを見直してると9時になって、リオから電話が飛んできたので少しビックリしながらも応答のボタンを押した。現代っ子のギャルJKなこともあって普段からガンガンLINE飛ばしてたが、電話は珍しい。


「やっほーハルト。今ちょうど暇よね?ウチと話そ」

「まあな、いきなり電話とか珍しいなリオ。もう練習終わったのか?」

「そうよ、さっき砂っちにフランクフルト奢ってきて今解散したとこ」


 うむ……リオの、低いが決して不愉快には思えない声が直接耳に入ってくるこの感覚は、いつ味わっても何かしらの刺激が脳に響く感じを覚えるんだよな。


「相変わらずあんなスタイルの維持が出来てるのが不思議なやつだな」

「ちょっとハルト?ウチと2人きりで話しといて他の女を話題にあげるのはあり得ないと思うんだけどー?」


 恐らくユウカにブレイキンバトルを仕掛けられた結果負けたからプリプリしてるんだろう。まあ落ち着けよ、プリプリしてるのは可愛いケツだけで十分だからな。


「……そうだな、悪い悪い。ところで、わざわざ電話とかどうしたんだ?いつもはLINEだけで済ませてたろ、何か大事なことを伝えにきたのか?」

「ハ?……別に、深い意味はないんだけど?……ただ、今夜はくうちゃんに何作って貰ったんかな〜って気になっただけよ」

「ああ、今日はほうれん草入りのツナパスタだったよ。これがまた本当に美味くてさ。まあぶっちゃけると母の手作りトマトソースには負けるけど、頬っぺた落ちたわ」

「ッ……へ〜良かったじゃん、大好きで美味いもん食わせて貰えて。ウチも料理覚え始めようかな……なんちゃって。……ねえ、ハルトはああいう家庭的な子がタイプだったりすんの?」


 ……ただの雑談だろうか。このままダラダラ話を続けるよりもまた世界レベルのブレイクダンサー達のバトル動画でも見たいとも思ったけど、なんだか今リオと適当に喋ってるだけでも寂しさが紛らわせられてる気がするから、有り難く続けよう。


「う〜ん、どうだろ。確かに好きかも、というより自分のことを支えて応援してくれる女の子のことを嫌いになる男なんて居ないだろ」

「ふーん、くうちゃんもうすっかりハルトん家の通い妻になり切ってるわね」

「そ、それは改めて指摘されると恥ずかしいな……」


 まあ俺もリオの立場だったらそう思ってもおかしくないだろう。


「じゃあ、さ……もしウチが主婦並みの料理スキル覚えたら、さ……ウチのことをハルトん家のシェフに雇ってくれる?」

「は……?待て待て俺は別にクルミに給料払ってるわけじゃないぞ?それにそんなこと出来る余裕があればもっと靴とか服買ってるわ。そもそもリオが料理してるとこが想像できないんだが」

「ハ!?何それ流石に酷くない!?ウチだってパスタぐらい作れるし、ウチを舐めないでよね!?今度そっちに行ったらウチのん食わせてあげるんだから!」


 おお、急にキレたのが意味不だったけどそれはなかなか魅力的な提案だな。


「マジか!?よっしゃ。……ふっ、だったら仕方ないな。このパスタソムリエ様がとくとリオご自慢の手作りパスタを味見してやろうじゃないか」

「アハハ、当然でしょ?あたしだってママの手作りパスタ大好きなんだから、見事にハルトの胃袋を掴んでみせられるわ」


 そんなに自信満々ならこれは本気で期待できそうな雰囲気だな。どうやら俺はパスタには目が無いらしい。けど餌付けされてるような感じもして癪なんだよな。


「ところでハルト、は暇?……じゃなくても、予定空けといてよね」

「なんでまた……?……買い物の荷物持ち係なら他にも候補沢山いるぞ?」

「はあ?そんなんじゃないわよ。……はあ、わかった。ハルト絶対ウチのこと男を漁ってるような女だと思ってるんでしょ?残念だけど全く違うからね!ウチは気を許した人としか遊ばないんだし、好きなアニメの話もしないんだから!」


 学校でトップレベルに人気なのかと言われれば違うだろうけど、リオがこの間に見知らぬ男に告白されては振ってることは知ってる。どうせまたアニメの話で盛り上がりがイマイチだったっていう理由から冷たくあしらったんだとも予想できるが。


「そうだな、悪かったよ、リオ。ぶっちゃけ今までそう思ってきた」

「うわ最低マジであり得ないんだけどハルトもういっぺん死んでみたら!?」

「ぐっ……マジでごめんって。リオがほぼ毎日部活し終わってからも今日のようにダンスの練習頑張ってるのは知ってるんだから、冗談に決まってるだろ?」

「ふ〜ん、なんだちゃんと解ってんじゃん!最初っからそう言えっつのー」


 当然だろ、日頃から遊んでばっかりじゃ上達するもんも上達する訳が無い。


「だいぶ話が逸れちまったな。結局何が言いたかったんだっけ?」

「ああそうそう!来週末にのイベントあるからウチと2人きりでエントリーして一緒に踊ってちょ!もちろん優勝狙うからハルトも本気出してよね」

「よし乗った!ジャンルはブレイキン縛りか?」

「いやフリースタイルの2on2バトルよ。まあウチらだったら余裕でしょ!」


 これはまた……!そういえば長らくアニソンバトルには出てなかったから久しぶりになるな。アニメ好きの俺とリオだからこそ盛り上がれるバトルイベントだと言っても遜色は無い。時間と場所を聞いた俺は事前エントリーの許可を出した。


「ありがとうハルト!!今度のバトル絶対ウチらで勝とうね!賞金10万円あったらまた服とかアニメグッズ一杯買えるんだし」

「ハッ。なんだ、結局は金目当てかよ。これだから玉の輿に乗ろうとする-」

「ハルト〜?これ以上何か言ったらこないだ一緒に撮ったハルトのアホ顔のプリクラをダンス部のLINEグループに晒すけど、ウチにそうして欲しいんかなぁ?」

「ごめんマジで辞めて下さい俺の居場所無くなったら頭きゃぱい状態なるから」

「ハルトがギャル語使うとかマジでウケるんだけど」


 そう言うと俺もリオと吹き出して笑った。結局この後はアニメの話などで盛り上がったりもして1時間くらいは話し込んでしまった。




 ……3日後に、ダンス部で事件が起きた。

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