第29話 朝食
僕はビルの崩壊が終わった直後にすぐさま現場から離れた。じきに到着するであろう警察に色々聞かれても答えられないし、色々質問されている内にリクトのことを話してしまうかもしれないからだ。それに一刻も早くすみれ姉の安全も確保したかったので自分の家に帰ることを選択した。
「あ、そうか。玄関が壊れたままだった」
僕は家につくと土壁で塞がれた玄関を見た。この玄関が壊れたのは今日の朝のことだが、聖剣の試練やその後の戦いなどをしていたため、遠い昔のように感じる。
僕は庭の方に回り込み、1つだけ開けておいた引き戸から家の中に入る。
「はぁ・・・」
家に上がる時、無意識にため息がこぼれた。僕は家に入るとすみれ姉の部屋に行き、担いでいたすみれ姉をベットに寝かせて布団をかける。怪我はないことは確認しているが、今度目を覚ました時、今日のことがトラウマになっていないとも限らない。
だが今は思考するには、あまりにも考えがまとまらないので、僕はすぐさますみれ姉の部屋を後にして自分の部屋向かった。
自分の部屋に到着すると、真っ暗な部屋の中、電気もつけずにベットに飛び込んだ。
「あ、風呂はいらなきゃ・・・」
僕は薄れていく意識の中で思い出したようにそう呟いた。だが、ベットから立ち上がろうとしても腕に力が入らず、体を起こすことができない。自分で想像していた以上に疲れが溜まっているらしい。僕の瞼がゆっくりと落ちる。意識が完全に消え去る直前、僕はリクトのことを思い出す。
「リクト・・・。どう・・・して・・・」
僕はそう言って目を閉じる。
次に目を開けると窓から光が差し込んでいた。
「え?おかしいな瞬きしただけなのに・・・」
僕は体を起こしてベットに座る。そして頭をかく。時計を見ると午前6時30分過ぎ。
「寝た気がしない」
僕は独り言をつぶやいた。
「おはよう。タケル」
「!」
突然室内に僕以外の声が響く。驚いた僕は慌てて声をする方を見る。するとそこには聖剣が壁に立て掛けたあった。
「あ、アリス!」
僕がそう言うと聖剣は
しまった!アリスの部屋に案内するのを忘れてた!
「アリス!ごめん!」
僕の謝罪にアリスは目を丸くして口を開く。
「一体何の謝罪?」
「昨日、アリスの寝床までは考えきれなかったから・・・」
「ああ、そのこと?タケルはとても疲れていたみたいだから無理もないわ。それに聖剣の姿で夜を明かすほうが私にとっては当たり前。気にすることはないわ」
確かにアリスは人間ではなく聖剣。寝床の問題はアリスにとってはいらぬ気遣いだったのかもしれない。
「さて、じゃあご飯食べに行きましょう?」
アリスは僕の顔を見て微笑みながらそういった。僕は頷くと部屋を出ていく彼女の後をついていく。
昨日はアリスに起こされてダイニングに向かった。そしてそこにはデッラルテがいて、すみれ姉が朝ごはんを作っていた。だが、今日はその2人はいないだろう。すみれ姉はまだ寝ているだだろうし、デッラルテは昨日の晩に姿をくらました。おそらくはリクトに付いて言ったのだろう。
昨日は久しぶりに騒がしかったのに、昨日の今日で一気に寂しくなっちゃったな。僕は一抹の寂しさを感じながらダイニングに続く扉を開いた。
「おやまぁ!アリス様ぁ!タケル様ぁ!お目覚めになられたんですねぇ!心配しましたよぉ!」
ダイニングに入ると、いの一番にデッラルテの笑顔が目に入る。デッラルテは箸を使い、ご飯、味噌汁、焼き魚とのりを食べていた。
「・・・・・・・・」
僕の頭が真っ白になる。いやなんでいるの?昨日の事件で僕らと対立し、リクトの方へ行ったんじゃないの?というかこの光景昨日見たわ。なんでまた日本の朝食フルコースみたいなものを悠長に食べてるの?
「貴方・・・なんでいるの?」
アリスがデッラルテをギロリと睨んでそう質問した。デッラルテは心底嬉しそうに口を開く。
「そりゃ!私はアリス様がこの世界に留まるためにぃ尽力しているのですぅ!アリス様の側にいることは当然でしょう!」
デッラルテはそう叫んだ。そしてその直後、台所から声が聞こえる。
「おい!デッラルテの旦那!飯はどうだい?」
「おおぉ!すみれ様ぁ!とても美味しいですよ!」
「あたぼーよ!」
あーこれも昨日聞いたことがある気がする。というかすみれ姉も起きてたんだね。この2人は精神がタフだなぁ。
「一体何をしてるんですか?リクトに付いていったんじゃないんですか?」
僕はどうにも今の状況が把握できず、デッラルテに質問した。
「んん?ああぁ先程も言ったとおり、アリス様とタケル様のお役に立つためにぃここに戻ってきましたぁ」
「いや、デッラルテさん。昨日僕らと対立していませんでした?」
「ああぁ。あんなのは単なる意見の相違ですぅ。私はそんなことでぇ貴方方と縁を切るなんて幼稚な真似はしませぇん」
デッラルテはそう言ってみそ汁を啜った。
「貴方はそうでも私達はそうじゃないわ。私はイザックたちを殺したことはともかく、リクトという少年を巻き込んだことは未だ納得していない」
アリスはデッラルテにそう言う。
「巻き込んだのはぁイザックですぅ」
「それでもそのイザックを殺すように仕向けたのは貴方よね?」
「仕向けただなんてぇ。そんなことが簡単にできますかねぇ?」
「この期に及んでとぼけないで。私をこの世界に連れてきてくれたことには感謝してる。でもそれも貴方には別の思惑があるのでしょう?」
アリスのその質問を聞いたデッラルテは、持っていたお椀をテーブルの上に置く。
「いいえぇ。私は貴方をこの世界に送り届けるのがぁ目的ですよぉ」
「だからとぼけないでと・・・」
アリスがそう言った直後、台所から大声がする。
「てやんでい!お前達!起きてやがったか!じゃあさっさとテーブルに付け!俺が特別によそってやらァ!」
"てやんでい"って・・・。まだ江戸っ子言葉ブームは去っていなかったか。そりゃそうか。昨日始まったばかりだもんね・・・。とは思ったもののそれを口に出すのは恐ろしいので黙ってテーブルに付くことにした。僕とアリス、デッラルテの間で流れる気まずい沈黙は、すみれ姉が膳を持ってくるまで続いた。
「ほれ!持ってきてやったぞ!感謝しろ!」
「あ、ありがとう」
アリスは少々気押され気味に感謝の言葉を述べる。
「ありがとう。すみれ姉」
「礼はいらねぇぜ!冷めねぇ内に食っちまいな」
そう言ってすみれ姉は台所に入っていたが、またすぐダイニングに戻る。手には日本酒の一升瓶が握られていた。それを見た僕は思わず椅子から立ち上がってしまった。
「待て待て待て!すみれ姉!昨日朝から潰れてたくせに今日もやるの!?」
「いやぁ。昨日の記憶がなくてなァ。酒呑んだら思い出せるかと思って」
「思い出せるわけ無いだろ!また潰れるよ!胃酸を吐き散らすだけだよ!」
「ええ?昨日の俺はそんなだったかァ?記憶にねぇな」
「潰れてたからね!ともかく空きっ腹に酒呑むのはやめて。というか朝から呑まないでよ」
「えー。呑んだほうが調子がいいのに・・・」
そう言ってすみれ姉はまた台所に戻っていく。そして今度は米と味噌汁が入った茶碗を持ってダイニングに入り、空いている椅子に座った。
「良し!じゃあ俺もいただくとするか!」
そう言ってすみれ姉は手を合わせた。
「いただきます!」
そう言ってすみれ姉はご飯と味噌汁を食べ始める。僕とアリスもすみれ姉が食べ始めた後に、ご飯を食べ始める。
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