第20話 帰還
僕は庭先で目を覚ます。
「タケル!」
僕の意識が戻った事をいち早く察知したアリスは僕の名前を呼んで駆け寄ってきた。
「ア・・・リス・・・」
まだ完全には覚醒しきれていない頭のままアリス名前を呼んだ。その僕を見てデッラルテも心なしか嬉しそうに口を開く。
「おやぁ、どうやらぁ無事のようですねぇ」
そうだ。デッラルテさんに言わなければならないことがある。
「デッラルテさん。謀ったなとか言ってスミマセンでした」
「なんで私が謝られてるんですかねぇ」
いつもひょうきんなデッラルテも、僕の言葉を聞いて困惑している。
「でぇ、どうだったですかぁ?試練はぁ」
「えーっと。たぶん大丈夫?」
"聖剣の試練"として僕は自分の過去を見た。そして、その後は力を示せと言われて自分の姿をした相手と何度も戦い、数百回ぐらい殺された。結局、殴り返す事さえできなかったが、男の子が言うにはもう聖剣に認められているという話だった。しかしあんなんで本当に大丈夫なんだろうかという不安がある。
「あらぁ。はっきりしませんねぇ。じゃあ訊く相手を変えましょうかぁ。どうですかぁこの少年はあなたのお眼鏡にあいましたかぁ?」
デッラルテはアリスに質問した。アリスは暗い表情のまま質問に返答した。
「タケルは正式に私の使い手になったわ」
「そうですかそうですかぁ。それは何よりぃ。でもぉどうしてそんな浮かない顔をなさっているんですかぁ?」
「これでタケルは戻れない。私たちの世界のゴタゴタに否応なく巻き込まれる」
そういってアリスは唇を噛む。それを見たデッラルテは至極嬉しそうに口を開く。
「いやいやぁ!聖剣の試練を受けるかどうかはその少年が決めたことぉ。否応なくではありませぇん。自ら首を突っ込んだんですぅ。自業自得ですぅ」
「でも!私たちに会わなければこんなことには!」
アリスはデッラルテにそう叫んだ。確かにアリスと出会わなければ僕が聖剣の使い手になることはなかった。だが、出会った後の判断は僕が決めたことなので、デッラルテが言うとおり自業自得というのも正しい。とはいえ、デッラルテに自業自得と言われるのは釈然としないなー。だって率先して巻き込もうとしてたし。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて」
僕が2人の口論を止める。
「巻き込まれるだとか、正式な使い手になってしまったとか、それはもう過ぎたことでしょ?今はすみれ姉を助けて、追跡者をどうにかしないと」
僕がそう言うとアリスが険しい顔のまま口を開く。
「ええそうね。その通りだわ」
アリスが納得した直後、玄関から声が聞こえる。
「すみませーん!ってうわ!玄関壊れてる!」
聞き覚えのある声が聞こえる。この声は高校の友人である天海リクトの声だった。僕はいきなりリクトが訪ねてくることににも驚いたが、その声が告げる我が家の惨状に耳を疑った。
え?玄関壊れてるの?マジで?
僕は慌てて玄関口に移動した。
「マジかよ・・・」
僕の目に飛び込んできた光景は、締め切られた引き戸が何かの力でど真ん中から貫かれたような大穴が開き、その衝撃で戸はレールから外れている。
「あ、タケル」
絶句している僕の存在に気付いたリクトが僕の方を見た。
「ああ、おはようリクト・・・」
僕は努めて冷静さを装いリクトに挨拶する。
「いやもう昼過ぎだよ」
そういえば今何日の何時だ?あの場所では数日ぐらいを過ごしていた気がするが、この現実ではどのくらい時間が経過しているのだろう。
「ひ、久しぶりだねリクト・・・」
「いや、昨日会ったじゃん」
リクトとはアリスと会う前に一緒に下校していた。それが昨日の事ということはあの場所では現実とは違う時間の流れ方をしていると思って間違いない。現実では数時間は経ってだけにすぎないようだ。
「あ、そっか。ごめんごめん」
僕は慌てて謝罪を口にした。
「寝ぼけてるみたいだね。学校に来なかったけど今まで寝てたの?」
「え?ええまぁそんなところ。実は全身痛くてさぁ」
「なんかその言い方、年寄り臭い」
リクトはそう言って笑った。
「笑うなよぉ。こっちは真剣なんだぞ」
僕がうんざり顔でそう言った。
「まぁ真剣なのは結構だけど、学校に休みの連絡してないよね?教員たちが心配してたよ」
「あー連絡する暇なかった」
寝起きの全身筋肉痛、敵の襲来、聖剣の試練。言葉にすると現実で起こった事がにわかには信じられないワードが並んでいるが、忙しかったのは事実だ。
「全身が痛くて?よほど深刻だね」
リクトは怪訝な顔をした。だが、すぐに真顔に戻り言葉を続ける。
「まぁ、それはどうでもいいけどお知らせのプリント持ってきた」
「プリント?何の?」
「知らない。なんかのお知らせ。三者面談とかそんなのじゃない?」
「うへぇ。面倒くさ」
「それには同意するよ」
「そういえばリクトは学校は?まだ昼過ぎなんだし授業あってるだろ?」
「あー。実は今流行りの仮病を患ってしまって」
「仮病だとー。まじめに授業受けろよー」
「派手に寝過ごした人に言われたくないんだけど・・・」
リクトが呆れた顔をした。その時僕の後ろからアリスの声がする。
「タケル?お客様?」
そこには見た目麗しいアリスが見た目怪しいデッラルテとが一緒に立っていた。
「え?誰?」
リクトが首を傾げた。僕はアリスとデッラルテの突然の登場に心臓が跳ね上がり、焦りの感情があふれ出す。破壊された玄関口、美しい少女、怪しいおっさん。どう考えてもただ事じゃない雰囲気は抜群だ。なんとかごまかさないと警察に通報されてしまう。特にデッラルテのおっさんが。
「ああ!すみれ姉の友達らしいよ!」
「え?すみれさんの?まぁすみれさんならありえるか・・・」
リクトは腑に落ちないながらも一応の納得をしたようだ。
「あ!お友達ね!ごめんなさい!邪魔してしまって!」
邪魔というかアリスたちの存在を知られることはやばい。特にリクトには・・・。
「ずいぶんかわいい子だねぁ。タケルさんよぉ。しかも年齢も同じくらいだし」
リクトは微笑みながら僕の肩に腕を乗せる。目が笑っていないので普通に怖い。
「何が言いたいのかなリクト君」
僕は冷や汗をかきながらも、努めて冷静を装い返事をする。
「僕らの誓いを蔑ろにするなんて・・・」
「誓いってあれか・・・」
説明しよう!"僕らの誓い"というのは彼女がいない仲間内で発足した誓いで、高校時代は彼女を作らず修行に励むという悲しい男子高校生の誓いなのだ!ちなみに発足人は僕で、リクトが一瞬モテそうになったために慌てて持ち掛けた話なのだ!ちなみに修行は全然していない!
「いやいや!僕がそんなの破るわけないじゃないか!言い出したのは僕だよ!」
「ふーん」
真顔に戻ったリクトが僕の顔を舐めるように見ている。僕は縮こまり、恐怖に震えながらリクトの判決を待つ。
「まぁいいや」
リクトはそう言うと肩から腕をどかした。
「え?いいの?私刑が待ってるのでは?」
「いや、別にこれにこだわってたのってタケルでしょ?別に僕はどっちでもいいから」
助かったことに安心しながらも、心の貧しさを指摘されたようで複雑な気持ちになる。そうだよ!僕だけだよ!モテないのは!
リクトはアリスたちの方向を見て口を開く。
「僕はタケルの友達の天海リクトです。初めまして」
リクトの自己紹介に驚きながらもアリスは自己紹介を返す。
「わ、私はアリス・ヴェルソーといいます。よろしく」
「わたしはぁ!デッラルテといいますぅ!よろしくぅお願いしまぁす!」
濃いなーキャラが。デッラルテは即通報レベルだけど大丈夫かなぁ?そう思いながら僕は恐る恐るリクトの顔を覗くと、ニコニコとした顔をしていた。完全な作り笑いだ。
「それでタケルとはどういったご関係・・・」
「やめろ!深掘りするな!」
僕はタケルの服を引っ張って言葉を止める。
「なんだよ。いいじゃん」
「いやもう帰って!お願い!今ゴタゴタしてるから!」
「まぁ確かにそうかもしれないけど・・・」
リクトはチラッと玄関先を見る。その後、僕の方を見て口を開く。
「で、何があったの?宇宙人でも訪ねてきたの?」
「こ、今度説明する・・・」
「ふーん。わかった。楽しみにしてる」
リクトはそう言って今日の所は帰っていった。明日、学校であったら質問攻めに合いそうなので今日のうちに問題を片付けて、リクトに話す作り話を考えなければ・・・。
僕が考え事をしていると、アリスが近づいてきて口を開く。
「タケル・・・ごめんね。私は出てこない方がよかったね」
「いいや。大丈夫だよ。リクトなら」
「お友達?」
「まぁそうとも言える」
「なにそれ?」
友達というか悪友というか。僕らは学校カーストが低いもの同士で集まって身を守っているが、そのなかで一番一緒にいる時間が長いのはリクトだ。リクトとはいろいろな事を話すし、ある程度お互いの事情も知っている仲だ。今日も僕の事を心配して仮病という悪行を重ねたわけだし、一応感謝はしておこう。一応。
「しかしぃ!良いお友達ですねぇ!心配して立ち寄ってくれるとはぁ!」
確かにそうだけど立ち寄った結果、リクトの心配事が増えたのではないかと不安だ。本当にどうしよう。デッラルテをどう説明すれば納得してくれるんだろうか・・・。
僕の心には不安が募る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます