第19話 問題点

 いやいやよく考えてみると将来な大事な話だし、今焦って答えを出すことじゃない。それにもっと見識を広めないと、何がしたいのかなんて分かるはずもない。そもそも僕はもう人生は真っ暗だと思っていたから、先のことなんて何にも考えていない。いきなりなんでもできるぞと希望が見えたところで何をやりたいかなんてすぐに思いつくわけない。うん。そうだよ。わかるわけないよ。


「わからないから保留で」

「いやいや、今の状況で保留とか無いだろ・・・。魔王にだってなれるんだぞ?」

「あんまり権力とはよくわからない。なんか魔王も大変そうだしわざわざなるほどのことでもないかなって」

「クソッ。現代っ子め!じゃ、じゃあ金とか?」

「確かにお金は大事だけど、それを聖剣でどうやって稼ぐの?」

「用心棒とか傭兵とか」

「うーん。運動神経が壊滅的な僕が傭兵になるためには、努力しなきゃいけない。だったら聖剣に頼らずストレートにお金を稼ぐ方法を勉強なりなんなりしていったほうが単純かなって」

「じゃあ、ほら。復讐とか」

「うーん。復讐したいというよりもう二度と会いたくないだけなんだよね。まぁ困ったときに軽く復讐できたらストレス解消になるかもしれないけど」

「じゃあ世界平和!世界平和とかどうだ!世界を平和にして人々から尊敬されよう!」

「力による世界平和って基本的にろくな結末を迎えない場合が多いんだよね。それならそういうのは他の人に任せようかなって」


 僕がそう言うと男は子は取り乱す。


「お、お前!なんかあるだろ!」

「とりあえず、すみれ姉を助けて現状維持。つまりは保留が一番妥当な落とし所かなって」

「いやいや、本当になんでもいいんだぞ!世界征服しよう!世界の半分をお前にやろう!」

「君が魔王になってんじゃん。じゃなくて、僕の願いは保留。なんでも叶う力があるなら現状の問題を保留にする力だってあるよね?」

「・・・・・・まぁあるにはあるが・・・」


 男の子はさっきの上機嫌とは打って変わって不服そうな顔を浮かべてため息をついた。


「はぁ・・・。マジでか・・・。じゃあいいよそれで。はいはい保留ね」

「露骨にテンション下がってる」

「当然だろ。保留なんてやる気でねーよ。挑戦してこそ楽しい人生だろうが」

「いやそれは知らないけども」


 挑戦することが楽しいなんてよく意味がわかんない。わざわざ辛い人生をより辛くしてなにが楽しんだ?大人になったらそういう気持ちになるのかな?


「つまんねーなぁ。今での使い手で一番つまらん」

「そりゃ申し訳ない」

「まぁ良いさ。アリスがお前を選んだ以上、僕に口を出す権限はないしぃ」


 アリスの名前を聞いて思い出した。


「そうだ。アリス。僕が聖剣の使い手になるって事はアリスはどうなるの?」

「どうなるもこうなるもないだろう。アリスと聖剣はイコールなんだ。つまり聖剣の持ち主になるってことはアリスの持ち主になるってことでもある。このスケベめ」


 解説から流れるような謂れなき罵倒。いやいや別にそれが目的で聖剣の使い手になることを志願したわけじゃないんだけど・・・。


「というか聖剣の意志がアリスなら、君は何なの?」

「それは言っただろ?今まで聖剣を握ってきた人間の心の欠片だよ。役割は唯一つ。試練を受ける使い手を試すこと」

「アリスとは別人格ってこと?」

「そうなるな。僕を人格と言うならな。僕はいわゆるただの選定システムみたいなものだから気にしなくていい。お前がアリスにどんな要求をしようと僕が表に出てくることはない。良かったなこのスケベ」


 ちょくちょく罵倒してくるな。


「まぁイメージで言うなら聖剣に宿った妖精みたいなもんだ。ほら、よくあるだろ?」

「よくあるのかは知らなけども・・・」


 嫌な妖精が宿ったもんだ。一緒に世界獲ろうぜとか言う妖精やだよ・・・。


「まぁ良いさ。じゃあ試練に戻ろうぜ」

「え?もう合格じゃないの?」

「いやいや。僕がうんというまでこの場所からは逃げられない。つまらない結論を出したんだから、せめて僕を楽しませろ」

「いや、アリスが選んだとか言ってたじゃん」

「うるさい。選定システム権限でお前は使い手になれねぇよ。つまんねぇからな」

「そんなの職権乱用じゃん!」

「何を言ってもこの場所では俺が偉いんだ。俺が王だ。お前は俺に従っとけ」

「暴君だなぁ」


 そう言って僕は構える。そして僕は男の子に告げる。


「でも、たしかにやられっぱなしは面白くない」


 それを聞いて男の子も笑った。


「ふっ。さっきよりはやる気を出したようだな。よし来い。相手をしてやる」


 男の子がそう言うと僕に向かって突っ込んでくる。僕の殺すつもりで剣をふるい、僕はそれを受けて反撃する。僕が男の子の剣を防げるようになると、男の子はどんどん剣や体捌きのスピードを上げていく。僕はそのスピードに翻弄されながらも少しずつ、男の子の動きについていけるようになっていく。そして1時間程が経った後、男の子が口を開く。


「なーにがやられっぱなしは面白くないだ!お前全然駄目じゃねぇか!おまえの剣は僕に一回も当たってないぞ!」

「おかしいな。こんなはずでは・・・」


 僕は頭を抱える。それを見た男の子はため息をつく。


「はぁ・・・。なんで僕を倒せないか教えてやろうか?」

「え?教えてくれるの?」

「なんか弱いやつを斬り続けるのって結構辛いんだよ。もうちょい強いと斬りごたえがあるんだが・・・」


 苦痛を感じるほど弱かったか。なんかヘコむな・・・。


「結論からいうと、お前に僕を斬る気が無いからだ」

「・・・・・・・・・・・?」


 僕は首をひねる。斬るつもりで僕は剣を振るっていたけど、それを全部避けたのは君じゃないのか?


「まぁ試してみればわかる」


 男の子はそう言うと剣を手放し、僕の方へ向かってくる。そして僕の目の前で立ち止まると口を開いた。


「さぁ、僕を斬ってみろ」

「え?いやそれは流石に・・・」

「なんでだ。僕は何回もお前を斬ったぞ。その仕返しをする絶好のチャンスじゃないか。ほれ斬ってみろ」


 そう言われて僕は剣を握る手に力を込めた。そして剣を振り上げて男の子に向かって剣を振り下ろそうとする。


「駄目だ!丸腰の相手に斬りかかるなんて・・・!」


 僕はそう叫んでしまった。その様子を見て男の子は頷いた。


「簡単に言えばこれだ。僕を斬る気があるならためらいなく剣を振り下ろせる。だが、今のお前は丸腰の僕を斬ることができない。なんでか分かるか?」

「えっと・・・。丸腰の相手には卑怯だから?」

「違う。お前が斬ることに対して怯えているからだ」

「怯えてる・・・?」


 僕が復唱すると男の子は頷く。


「ああ、これは臆病なやつが最初に引っかかる最初の難関だな。人を殺すことはそれだけストレスになる」


 確かに言われてみればそうだ。僕は一度も男の子を斬りたいと思って剣を振っていない。いつも斬り殺されそうになるから、その対処として斬り返そうとしているだけだ。


「まぁ考えてみればお前は平和な世界に生きる子供。斬るのが怖いと思っても仕方ない」

「・・・それって克服する方法あるの?」

「あるにはあるが時間はかかる」

「時間がかかるか・・・。早く聖剣を使いこなせるようになって、アリスを追う追跡者を退けなければいけないのに」


 僕がそう言うと、男の子は小さく笑った。


「まぁ、斬れないなら斬れないで、その方がいいのかもしれん」

「だけど戦わなければ・・・」

「殺さなくったっていいだろ。ぶん殴って気絶させろ」


 ちょっと言い方が野蛮だけど確かにそれなら聖剣の力を使えばできるかもしれない。斬るのが怖いなら斬らなければいい。それこそぶん殴ってふん縛ってしまえばいい。そのあとは異世界にでも送り返してやれば、しばらくは大丈夫なはずだ。デッラルテはこの世界に来るのはなかなか大変だという話だし。


「よし。それでいこう。さぁ剣を構えろ」


 男の子はそう言う。


「え?まだやるの?」

「当たり前だろ。剣はともかく、僕を殴れてさえいないじゃないか。せめて僕程度なぐれなきゃ、追跡者を追い払うことなんてできないぞ」

「それは・・・そうか」


 僕は言われた通りに剣を構える。そして数百回以上も切り刻まれながら男の子特訓は続く。

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