第14話 敗北
デッラルテがポールを消し去ると同時に影達も消え去り、残ったのは痛みに悶える僕と、聖剣から人間の体に戻ったアリス、そしてデッラルテ。
アリスは慌てて僕の元へ駆け寄った。
「この者に聖剣の祝福を」
アリスが倒れている僕に向かって手のひらをかざしてそう言うと、僕の全身の痛みが緩和される。痛みがある程度収まると僕はすぐさま立ち上がる。
「ありがとうアリス。それとごめん・・・」
「ううん。謝るのは私の方よ。また貴方に聖剣を使わせてしまった。それに・・・」
アリスはそう言いながら申し訳無さそうに僕から目をそらす。
「すみれ姉は大丈夫。肝が座ってるし、ポールも危害は加えないと言っていたし」
「・・・・・・」
アリスは無言になった。自分がこの世界に来て、さらにこの家に泊まったことでイザックとポールがこの家を襲ったと思っているらしい。アリスはその事を自分の所為だと感じている。
そんなアリスを見て、デッラルテは口を開く。
「さぁて。これからどうしましょうぅ?」
デッラルテの物言いに腹を立てたアリスはデッラルテに向かって叫ぶ。
「どうしましょうって。タケルのお姉さまを助けに行くに決まってるじゃない!」
デッラルテはその叫びに動じず冷静に言葉を返す。
「何故?」
「それは私が原因で攫われたのよ!」
アリスが大声を出してデッラルテの質問に答えた。その言葉を聞きデッラルテは顎を指でなでながら口を開く。
「そうですねぇ」
「だったら・・・」
「だからって助けに行く必要がありますかぁ?貴方の目的はこの世界に隠れ潜むことぉ。別に危険を犯してあの女性をぉ助けに行かなくてもぉ貴方の目的はぁ果たせますぅ」
「そんな事・・・!」
「そんな事はできないとぉおっしゃいますかぁ?でも思い出してくださぁい。貴方が何も考えず行動した結果ぁ、この少年を巻き込みぃ更にはこの家に泊まることとなりぃ、そして今回はお世話になった女性を攫われてしまいましたぁ。これ以上貴方が余計な行動をするならぁ、もっと多くの人がぁ巻き込まれる可能性があるんですよぉ?」
「それは・・・」
僕はデッラルテの言っている事を理解した。アリスやデッラルテにこの世界の人間を助けるメリットはないし、逆に助けたことで騒ぎになり、この世界での潜伏生活が難しくなるかもしれない。だったら、すみれ姉の事は切り捨てて、逃げたほうが安全で確実な方法のように思える。
僕はその考えに対して、心の中ではある程度同意する。デッラルテにしてみれば一宿一飯の恩があれど、命をかけるほどではないと思っているのだろう。
だけど僕は違う。
「デッラルテさんには悪いですが、僕にはアリスの力が必要です」
僕の言葉を聞いたデッラルテはニヤリッと笑う。
「ほぉ。早速聖剣の使い手らしいことをいいますねぇ。自分のもの扱いですかぁ」
「そんなつもりはありませんが、ただ僕は自分の家族を守りたいだけです」
「家族ねぇ・・・」
「なんですか?」
「いえいえぇ。家族を救いたいなんてもっともらしい事をいうなぁと思いましてぇ~」
「もっともらしい?家族を助けに行くのは当然ではないですか?」
「いえいえぇ。それにケチを付ける気はありませんよぉ。そんなものは個人の自由ですからねぇ。でもぉ貴方自身その事を当然と思ってますかぁ?」
デッラルテは相変わらず笑顔でそう質問してきた。その質問に僕は即答する。
「思ってますよ」
それを見たデッラルテは笑った。
「おほほ!いいですねぇ!家族を守るために命をかけるぅ!それはとても素晴らしいことだぁ!」
デッラルテの茶化すような物言いに僕は苛立ちを覚える。
「さっきから何が言いたいんですか?」
「いいえぇ。特に深い意味はありませぇん。ですがぁ忠告だけはさせていただきたいぃ。もし貴方が聖剣を持って戦いに行ってもぉ勝てませぇん」
「・・・・それは・・・そうかもしれませんが、このまますみれ姉を放っておけというのですか?」
「別にそういうつもりはございませぇん。それにぃ助けに行くということは本当にぃ家族のためですかぁ?」
僕は顔をしかめてデッラルテを睨む。先程から何を言っているのか、何を言いたいのか全くわからない。
「おやぁ睨まないでくださいぃ。でもぉいるんですよねぇ~。聖剣を手にした瞬間何でも出来ると思いこんでぇ傲慢になっちゃう人がぁ。ね、アリス様ぁ」
僕はアリスの方向を見る。
「・・・・・・・・」
アリスは無言で俯いている。僕は再びデッラルテの方をみて口を開く。
「もう一回聞きますが、さっきから何が言いたいんですか?」
僕が責めるように言うと、デッラルテは口を開く。
「簡単ですぅ。貴方は聖剣という力が使いたいだけでぇ、その口実にお姉さまのことを利用しているだけではないですかぁ?良かったですねぇ良い口実ができてぇ」
その言葉で僕は頭に血がのぼる。
「何を言ってるんですか!助けに行きたいと思うのは当然のことでしょ!?いい加減なことを言わないでください!」
「ええぇ。そうでしょうともぉ。でもぉ聖剣を使いたいと思う気持ちをが1ミリだって無いと言えますかぁ?」
そう言われると確かに聖剣の使い手に選ばれた事を誇らしく思う気持ちがまったくなかったと言えない。剣を使って影を切り裂いたことが爽快でなかったとは言えない。言えないがそれが何だというのだ!
「だからって助けに行くことが間違ってると言うつもりですか!?」
「助けるねぇ・・・」
「なんですか?」
「いやぁ。貴方のお姉さんは助けてと言いましたかぁ?もしかしたら案外すんなりと返ってくるかもしれませんよぉ。イザック達はこの世界の住人を傷つけることを避けたいはずですからねぇ」
「それはわからないじゃないですか!繁華街の時だって!」
「必要なら彼らは迷いなく暴挙に及びますがぁ、今回はどうでしょうねぇ。アリス様が手に入らないとわかったらぁすぐに解放するのではないですかぁ?だって傷つける意味がありませんから」
「それは貴方の憶測でしょう?腹いせに傷つける可能性だってあるでしょう?」
「おやおやぁどうしたんですかぁ。まるで聖剣を使いたくって仕方ないから、適当な理由を探しているみたいじゃないですかぁ」
「それはお前がごちゃごちゃ言うからだろうが!」
ついに僕は怒りのあまり正気を失ってしまう。
「自分勝手に巻き込んでおいて見捨てるつもりかこの人でなしが!」
「・・・・・・・・・・」
「なんとか言ったらどうなんだ!変な化粧しやがってふざけてるのか!この家に上がり込んで僕らの生活をぶっ壊しておいて何も感じないのか!」
「感じませんねぇちっともぉ。貴方もそれに関してはどうでもいいんじゃないですかぁ?」
「この野郎!」
僕はデッラルテに駆け寄り胸ぐらを掴んだ。
「ふざけたことばっかり抜かしてるんじゃねぇぞ!」
僕はデッラルテを睨みつける。
「やめて!」
部屋の中にアリスの声が響く。
「おねがい。やめて。デッラルテもやめて」
その言葉を聞いて僕はようやく正気を取り戻す。デッラルテの胸ぐらをつかんでを離し2,3歩後ろに下がり口を開く。
「すみません・・・」
「いいえぇ。私の言い方も卑怯でしたからねぇ」
「・・・・・・・・」
僕は謝ったものの正直腹の中は収まっていない。何故デッラルテに力を振るいたいだの、助けに行く気持ちは本心ではないだの避難されなければならないんだ。助けに行くのは当然じゃないか。
「さてぇタケル様の本性を暴いたところでぇ、堅実的な話をしましょうかぁ」
デッラルテはそう言った。僕はその物言いに少し苛立ちを覚えたが、感情的にならないように心を抑え込んだ。
「堅実的な話ってなんですか?」
少しぶっきらぼうな物言いでデッラルテに質問した。
「そう睨まないでくださいよぉ。今からする話はちゃんとすみれ様を助けに行く算段ですぅ」
「・・・・・・・・・・」
正直僕は腹が立ってデッラルテの話を聞くきにはなれなかったが、聞かないと話にならないという事もわかっているつもりだ。流石になんの知識もない僕が追跡者の2人のところに行っても返り討ちにあるのは目に見えている。
「タケル様も理解していると思いますがぁ、今の状態で私と貴方が助けに行ってもぉ返り討ちにあるだけですぅ」
「なにかいい方法でもないんですか?あなたは宮廷魔術師なんでしょう?」
僕は忌々しげにそう呟くと、デッラルテは頷いた。
「ありますよぉ。だけど危険な方法ですぅ」
「危険な方法?」
僕がそう聞き返すと、次はアリスが口を開いた。
「デッラルテ。本気?」
「ええぇ。それしかありませんねぇ」
デッラルテの返答を聞いたアリスは押し黙った。どうやらデッラルテのいう危険な方法に心当たりがあるようだ。
「その危険な方法というのは?」
僕がデッラルテにそう聞くと、デッラルテは頷いて質問に答える。
「それは貴方がか、アリス様の正式な使い手になる事ですぅ」
「正式な?」
「ええぇ。正式な使い手となれば、先程とはまるで違う量の力を使いこなすことができ、さらにおそらくですが使用後の筋肉痛もなることはないでしょう」
「そうなんですか?」
「ええぇ」
「じゃあ早速・・・」
「いえいえぇ」
結論を急ぐ僕をデッラルテがなだめる。
「これにはリスクが有るんですぅ。これを話しておかないとぉフェアじゃありませんからねぇ」
デッラルテはそう言った。昨日から肝心な時に切り捨てる選択肢を提示するのに、こういう時はフェアを重んじる。どういうつもりなんだろうか。
「リスク?」
「ええぇ。大きく言うとぉ2つありますぅ。まず1つはアリス様が散々言っていることですがぁ、聖剣の使い手になったらぁ争いに巻き込まれる可能性はぐんと上りますぅ。敵は貴方を狙いますしぃ、今後できるかもしれない味方は貴方の力に頼りますぅ」
仮契約の際にアリスが言っていた"運命に巻き込まれる"というのはそういう意味なのだろうか。なんだかイマイチ実感はわかないが、言葉上の意味はなんとなくわかる。
「そして2つ目はぁ、正式な聖剣使いになるためには"聖剣の試練"を受ける必要があるんですぅ」
「"聖剣の試練"?」
「ええぇ。そうですぅ。このぉ試練はとても危険でぇ、もしかしたら心が壊れる可能性がありますぅ」
「心が?」
"聖剣の試練"というのだから、何かしらの強敵と戦って力を示すという物を想像していたが、心が壊れるというのはどういう意味だ?
「ええぇ。"聖剣の試練"の内容は私も存じ上げないのですがぁ、話を聞く限りではぁ試練を通して聖剣にふさわしい人間になれれば成功。なれないと判断された場合はぁ最悪、廃人になるかもしれませぇん」
試練の内容はデッラルテすら知らない未知の内容。失敗すれば廃人になる可能性がある。それだけ聞くと危険としか思えない。
「たしかにぃ廃人になる危険はぁありますがぁ、成功すればほぼ確実にあの2人を撃退できるでしょうぅ。人質の件は私がどうにかしますぅ」
「それは・・・つまり。僕がイザックとポールの2人と戦っている内にデッラルテさんがすみれ姉を救い出すということですか?」
「おほほほ!その通りですぅ!よくわかりましたねぇ!」
デッラルテは愉快そうに笑っている。
「ですがぁ、もし貴方がぁ聖剣の正式な使い手になったならぁ、私は足手まといですよぉ。それぐらい強くなれます」
「強くなれる・・・」
僕がデッラルテの言葉の一部を復唱するっと、デッラルテは頷いた。
「ええぇ。そうですぅ。"聖剣の試練"、どうしますぅ?」
そう言ってデッラルテはニヤリと笑った。当然僕の答えは決まっている。
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