第2話 モノローグ

もし意図せず世界征服ができるくらい強い力を持ってしまったらどうしよう。


力で人々を押さえつけて自分の言うことを聞かせる?


それとも正義の味方となって悪を倒す?


いやいや、そんなのは面倒。そんなことより自由に生きたい?


いろんな考え方があると思う。


この世の中は頭が悪く、腕力も弱く、立ち回りが下手な人間は何も選ぶことができないようにできている。


でも力さえあれば、どんなことだって選べるし、何をしたって自由。


自分の道を進んで、その道に文句を言われたら言い返したり、やり返したりすればいい。


そうだ、普段の恨みを晴らすってのも魅力的。


今まで僕を踏みつけて、のうのうと暮らしているやつら。


それでいて、自分は善良な顔をしたクソ野郎どもの顔面を踏みつけて、つばを吐いてやる。


そして命乞いを聞きながらゆっくりと殺していくなんていいんじゃないかな。


自分は悪いことは何もしていないと勘違いしている奴らが、一体何でこんな目に合わなきゃいけないんだという目をしながら死んでいく様を見るのも面白いよね。


なーんて。そんなのは冗談。


冗談だよ。本当に。


こんな妄想は誰だって考えるだろうけど、そのほとんど意味を持たない。だって、そんな奇跡は起きないんだから。


奇跡の大逆転なんてこの世のは存在しない。


この世に生を受けた時点で、その人の人生はある程度決まる。


生まれた環境、持っている才能、人に受け入れられるような性格。


性格は本人の責任だし、努力次第でいくらでも人生は変えられる?


そんな事はありえない。


だって生まれついた性格も自分ではどうしようもない部分があるし、努力だって権利がいる。


何したってうまく行かない人間はきっとその権利を持って生まれてこなかったんだ。


それは、例えるならば生まれたときに神様から渡されるチケットのようなもの。努力すれば報われるチケット。


生まれたときに人はそういうチケットを持っている人間がいる。そして、その反面チケットを持たない人間もいる。


そう。僕のことだ。


僕は成功という言葉とは無縁で、いつも苦しい日常を耐え忍ぶことしかできない。


その痛みに怯え、何もできずじっとうずくまるだけの日々。そうしていないと僕の心はきっと崩れてしまうだろう。


幸せという言葉なんてどんな意味なのかも知らない。


だから、いつも羨ましがってる。皆が当たり前に持っているそのチケットを僕だけが持っていないから。


だから僕にとってこの世は無駄なんだ。すべてが無駄。


だって頑張ろうにも、動くことすら辛くて、でも何もしなければ苦しみの中でじっと耐え忍ぶことしか選択肢がない。


そんな無駄な人生を、僕はこれから生きていける自信はない。


僕はきっといつか、中途半端なところで人生を降りてしまうだろう。


自ら望んで降りるのは嫌だから、どうしようもない理由があると望ましい。


事故とか、事件に巻き込まれたとかでもいい。


あ、でも痛いのは嫌だな。


そのぐらいの慈悲を神様にお願いしても罰は当たらないと思う。


でももし・・・もし不意にそんな状況から抜け出す力を得てしまったらどうだろう。


耐え忍ぶ現実を破壊する力を得てしまったらどうだろう。


この中途半端な人生を終わらすだけでなく、もしこのくそったれな現実を破壊できる希望を手にしてしまったらどうだろう。


もしかしたらその時初めて、僕は前向きな人生を送れるかもしれない。


そして僕はその時、自分の願いを叶えてみたいと思うかもしれない。


僕は夢を叶えるために遅すぎる一歩を踏み出せるかもしれない。


でもそんな空想は無意味。わかってる。


わかってるけど願わずには居られない。夢を見ずにはいられない。


この世界をぶっ壊す夢を。

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