第9話シズクの魔法

「かなり緊張してたのね」


自らの決意を両親に話したナデットは泥のように眠っていた。その寝姿を見ながら2人は優しく微笑みながら見守る。


「どうしても話さないのか?」

「私の魔法なんて参考になるわけないでしょ」

「そうかもしれないけど、あいつはすごい聞きたがってるぞ」


聖果といい、自分の握力で搾った果汁を聖水化させる能力だった。別に、女性は華奢であればあるほどいいなんて価値観は冒険者にはないのだが、シズクは果実を握り潰す姿を恥ずかしがっている。


「やっぱり、スェイクが一番回復量すごかったよなぁ」


シズクの能力は握りつぶした果実によって効果が変わっていく。スェイクは大き赤色で黒い波模様のスイカに似た果実で、暑い日に実る。シズクの聖果で搾られたスェイクは当時の能力だと欠損すら治してしまう。(スイカは野菜だが、この世界だと果物扱いである。なぜか気に実り、細い枝でどうやって支えてるかは不明である)


林檎に似た果実だと状態異常を治し、レモンに似た果実ならば疲れにくくなる。ヒットポイントという概念があるならばリジェネを受けているような感覚に近い。

今はなぜか効果値が低くなり、ほとんど使えなくなっている。時折、聖果を使って作ったジュースを幼い頃から飲んでるナデットは、もしかしたらすごい能力を持っているかもしれないとシズクも親バカながら思っていたりする。


「私は普通のヒールは微妙だったから、もしかしたらナデットも特殊な聖魔法を使えたりするかもね」

「そうだな。色々調べたりしたいな」


お昼のことを知らないシズクとパラリマは、ナデットの特殊性をまだ知らない。そしてナデットは来年の春に、シズクが病気になるこを知っている。腹痛は今の技術でも治せる。今から鍛えれば、その時までに間に合うと思っている。


そんな未来があると知らない2人は、昔の冒険談義に花を咲かせながらナデットを微笑ましく見つめる。


「とりあえず、冒険へ出す前にゴブリンくらいは体験させときたいな」

「そうね。やっぱり二本足で走ってくる怪物って、始めてだとけっこう恐怖を感じるものね」

「さすがにまだゴブリンくらいには負けないが、まだ不安だしクラックが帰ってきたら相談すっか」

「シェカンくんは、一応ゴブリン退治は経験あるみたいだけど、わざと討ちもらした一体だけだしね」


クラックは、シェカンの父親である。行商人の護衛で現在は町を離れている。

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