コンビニにて
「いやぁー…実は一回やってみたかったんだよね…」
ウキウキしたような声でシオリは言った。
「…何を?」
「コンビニ強盗」
「バカたれぃ!」
ショウタはシオリに言い返した。
シェルターからすでに一時間近く歩いて、ようやく最初のコンビニに到着できた。太陽はもうすっかり昇っていて、冷たい風が砂を巻き上げながら吹いていた。
「…にしても、よく気づいたな…もうほとんどボロボロじゃないか…」
ショウタは、ほとんど元の面影を留めていないコンビニの外装を見ながら言った。特徴的な装飾は残っておらず、大きな自動ドアも砕け散っている。傍目には大口を開けたコンクリートの塊のようだった。
「でもほら…そこの方の看板、まだうっすら青色と白色が残ってる…」
言われてショウタは目を凝らしたが、ガスマスクのグラスが少し汚れているせいもあり、よく見えなかった。
「…ああ、そういえば言い忘れてたんだけど…」
シオリが真っ直ぐコンビニを見ながら言った。
「何?」
「…中のものは早い者勝ちね」
言い終わるより早く、シオリはコンビニに向かってかけて行った。
「…転ぶなよー…」
ショウタは、ゆっくりとシオリの後をついていった。何も急がなくとも、そんなに大量を持ち帰ることはできないだろうと、ショウタは考えていた。
ショウタは、コンビニを外装をぼんやりと眺めた。近づくと、確かにぼんやりと青色と白色が残っていた。
「ギィヤァアア!!!!!!!」
突然シオリの大声がコンビニの中から響いた。その悲鳴を聞いて、ショウタは考える間も無くコンビニの中に入っていった。
「どうした!?」
コンビニの中に入りショウタは叫んだ。シオリはレジの方を凝視したまま固まっていた。
「あ…あれ…」
シオリがゆらゆらと指をさした。ショウタは、その指の先を見た。暗くてよく見えないので、ショウタは一歩踏み出した。そのときはっきりと、ぐったりと倒れた人の影があることが理解できた。
「!!!」
ショウタは驚いて二歩引き下がった。思わずじっくりと見てしまったが、腕や頭の形は、まさに人間のものだった。だが左腕はどうやらちぎれてしまっているようだ。
「ね…ね……ねぇあれって…」
シオリの声は震えていた。そのとき突然、その人間がガタッと音をたてて動き出した。
「い…い…いらっ……い…」
突然ガタガタと音を立てて動きながら、その人間は喋り出した。
「ギィギャアアアアアアアアア!!!!」
シオリが悲鳴を上げながら入り口の方へ走っていった。ただショウタは、その声に聞き覚えがあることに気がついた。ショウタは声をあげている人間に近づいていった。入り口まで逃げたシオリは、顔だけ出しながらショウタに叫んだ。
「ちょっ…ショウタ!!…早く逃げようって…」
ショウタはようやくはっきりと見える位置まで近づいた。その人間の体からはガコッ、ガコッという規則的な音が鳴り、頭の上には埃が積もっていた。そして、千切れた左腕からは血や肉などの生々しいものではなく、鈍く光沢を帯びたような部品がのぞいていた。
「やっぱり…」
「何やってんだって!?」
シオリが少し苛立ったように声をあげた。
「大丈夫…呪いとかではないよ…」
「……え?」
シオリが扉から少し体を出した。
「体から血は出てないし、肌は加水分解してるけど残ってる。声色も機械音声…接客用アンドロイドだよ…」
「……すぅー……あぁ……」
シオリは、きまづそうにしながらこちらに出てきた。
「…いたねぇ…そんなの…」
「俺も、ずいぶん長いこと見てないからすっかり忘れてた…」
ショウタは、ガタガタと動く壊れたアンドロイドを見ながらつぶやいた。
プロセッサの高性能化とストレージ容量の巨大化、そして何より通信の高速化、高性能化により、崩壊の直前にはAIを搭載した接客用ロボットはかなり安価になり、首都圏のコンビニなどではかなりの数が導入されていた。
「…実は入る前に丁度思い出してたんだよね…」
「?……あぁ…目は赤く光ってないけどな…」
ショウタは、表情のない顔を見ながら言った。アンドロイドは、まだガタガタと小刻みに動きながら、電子音声を吐き出し続けていた。
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