朝食と相談
「…うげぇ……」
スプーンを口に突っ込んだまま、シオリは顔をしかめた。
「…これから同じもの食べるのに、そんな顔しないでおくれよ…」
砕いた栄養ビスケット、脱脂粉乳、ドライフルーツの入ったお椀を目の前にしながら、ショウタは答えた。
「だって…さして美味しくない既製品食べさせられるのすっごい悔しかったんだもん…」
「まぁ正直、まさかこの組み合わせがそんなに美味しく無いとは…」
「何というか…ビスケットはすぐべちゃべちゃになるし、脱脂粉乳にはクリーミーさが無いし、ドライフルーツの甘味じゃビスケットのケミカル臭全然誤魔化せないし…」
ショウタは、目の前のお椀をスプーンでかき混ぜた。確かに、ビスケットが溶けてドロドロの液体になっている。
「お…オートミールだと思えば…」
スプーンにドロドロとドライフルーツのかけらを乗せ、口に運んだ。コンクリートを口に入れたみたいな嫌なザラつきが舌に残り、そのまま張り付くように喉を下っていった。味はほとんど無く、鼻の奥にぼんやりと不自然な香りが残り続けた。
「どうよ?」
シオリがショウタの顔を覗き込んだ。ショウタの顔はいつに無く険しいものになっていた。
「…想像の三倍は酷い」
ショウタは、喉の奥のほうにある不快感を一気に飲み下した。そして頭を抱えながら、目の前に生み出されてしまった二つの生ゴミをどうするかを考えた。
「…そういえば、プロテインココアの粉を持ってきてたような…」
ショウタは足元に置いてあるカバンを開け、中をかき回した。
「あったあった…」
ショウタは小さなパックを取り出し、中の粉末を目の前のお椀に入れ、混ぜた。ココアの暗い色がじんわり広がり、全体に馴染んだ。
「いらんことして…余計に味が悪くなるだけでは?」
シオリが茶々を入れた。ショウタは聞こえないフリをして、そのままスプーンにすくって一口食べた。
「…甘みがある分かなりマシだな…食えないものが食えなかないものになった…」
「ねぇショウタ…私の人生を賭けたお願いなんだけど…」
「皆まで言うな、俺だってそんなに鬼じゃない」
そう言いながら、ショウタはシオリのお椀の中にもココアの粉を入れてやった。
「ところで、もう一度確認だけど、東京タワーでいいんだよな?」
「うん」
短く答えた後、シオリは茶色になったお椀の中身を一口食べた。どうやらまだ不満が残るような顔をしている。
「東京タワー」と言う名前に対して、ショウタはすごく懐かしさを感じていた。かつてこの旧都にあった二つの塔のうち、ショウタは東京タワーの方が好きだった。真っ直ぐでシャープな形状に、ヒーローみたいな真っ赤な色。ショウタは、子供の頃に見たそれを思い出していた。
「…でも、何でわざわざ?それにもう残ってるかどうか…」
「…昔、お母さんに連れてきてもらったんだ…その時、もう一回行こうねって…」
シオリは、そこで言葉を止めた。悲しそうなシオリの顔を見て、ショウタは追求をやめ、言いずらそうに続けた。
「……もう一つ問題が…食料がそろそろ底をつきそうで、これから向かって、戻って、用事を済ませるまで持つかどうか…」
シオリが、ゆっくりと俯いた。シオリを悲しませてしまったかもしれないと、ショウタは顔を顰め、そのままシオリの方を見ていた。
「へっへっへっへっへ…」
シオリは、気味の悪い笑い声を出した。
「ショウタくん…君は散々私の地図を古いだの何だのと言ってくれたがね…しかしこの情報は君の地図では知り得なかっただろう…」
シオリはニヤニヤと笑った顔をあげ、自慢げに端末を突き出した。ショウタが覗き込むと、その地図には何十個もの赤い点が示されていた。
「…コンビニか!」
「ふっふっふ…君の地図は復興用にアップデートされたものだからね、墓地なんかの大規模なものはともかく、こう言うごく小さな施設の情報は完全にオミットされているだろう…無理もないさ…」
「崩壊当時も、ほとんどの人は逃げるのに必死で、食料だの何だのは放り出したらしいし、保存のきく缶詰を二人分くらいなら十分調達できる…」
ショウタはシオリの顔を見た。シオリも、得意そうな顔のまま、ショウタと顔を付き合わせた。
「…よし、決まりだ!東京タワーへ行こう!」
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