15,初めてのスランプ
土曜の深夜、正確には日曜午前3時。今ごろみんな寝静まってんだろうな。だけど俺は眠らない。眠くなるまで眠らない。
東橋大騎、高校二年。晴れた朝はサーフィンしてから登校して、軽い態度や弛んだ制服のネクタイとか日頃の言動や成績から、裏口入学したなんて噂もあるけど、A推薦でバッチリ落ちて、難関といわれる一般入試で入学した正真正銘のエリートだ。
ガリ勉だらけの学校では寒い目で見られる俺だけど、それでも仲良くしてくれるヤツはいる。クラスメイトの望と秋穂、同じ商店街でバイトしてる水城先輩。それぞれ性格の違う三人の仲間は、道に迷ってたり、目標に向かって必死こいて勉強してたり、あんま勉強しないけど学年トップの成績だったり。そして俺はビッグになるため日夜鍛練を重ねてる。望と秋穂は俺がビッグになりたいなんて冗談半分だと思ってるかもしんないけど、毎晩寝る間を惜しんで音大受験の勉強をしたり、ギターを弾いたり、ふとした瞬間に詩や曲が浮かんで、それをソッコーメモして忘れないようにしたりもした。したりもしたっていうのは、メモしてるうちに浮かんだフレーズを忘れちまったから、次に浮かんだときからは頭の中で何度も反復して、脳に定着したところで譜面に書き起こすようになったからだ。
だがなんてこった。最近は詩も曲もまるで浮かばない。小学校低学年くらいのころは溢れるように浮かんできたのに、いつの間にか大きな浮き沈みが出るようになっちまった。大人になると想像力がなくなってくるなんて両親によく言われたけど、当時はそんなの信じられなかった。大人になればなるほど頭が良くなって、もっとすげぇ何かができるようになると思ってた。
俺は、シンガーソングライターになる。
絶対になる。ロックからバラードまでマルチな曲を送り出して、大勢の人を感動の渦に巻き込むんだ。そう決めてたし、それ以外考えらんないのに、いま、自信が揺らいでる。
よく秋穂が医者になりたいのに思うように成績が上がらないとか言ってる理由が、なんとなくわかるってくらいから、手に取るようにわかるようになってきた。
だからアイツ、勉強勉強って口癖のように言ってるんだ。俺がギターを持ってないと落ち着かないのと同じで、きっと勉強してないと落ち着かないんだ。
俺は正直、秋穂や望が羨ましい。だってアイツら、自分の弱みを晒け出せるんだぜ? そんなカッコ悪いことをしても、カッコ悪く映らないんだ。最初から弱みを見せながらずっとやってきたキャラだから。
だが俺はどうだ。ビッグになりたいってマジで思ってて、ハッタリかましてるように見えても、なんやかんや軽い気持ちで日々を過ごしてるように映ってるだろ。別にそういうキャラを作ったんじゃなくて、今までずっと絶好調で、ちょっとくらい上手くいかないことがあっても気にしなかった。だから素のキャラだったんだ。だけどそれが変わりつつある。
そろそろ本気でプロを目指して曲を書いてみようって意気込んだら、急に何もできなくなった。カネ払ってまで聴く価値のある曲ってどんなだ? 詩がいい、曲がいい、詩も曲もいい、どれも正解だ。だから色々考える前にまずギターを手に取る。だけどそこから一歩も進めない。
これがスランプってやつか。ったく、初めて知ったぜ。
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