12,彼は薔薇、彼女は桜

 ああ、私の長所って何かしら?


 幼い頃は私のほうが大人びた外見で、学業だって彩加ちゃんより優秀だったのに、今となってはどちらも追い抜かれてしまった。


 今夜は彩加ちゃんの提案で急遽お泊まり会となり、下着はコンビニで購入したものを着用しているけれど、上は彩加ちゃんから借りた黒いランニングシャツ。私には大き過ぎてヨレヨレとはだけるそれは、腰回りをすっぽり覆い、ズボンを着用する必要はない。


 ああ神よ、なぜあなたは彩加ちゃんには二物を与え、私には何も授けてくださらなかったのですか。


 なんて、問うまでもない。学業については彩加ちゃんの血の滲む努力によるものだろう。しかし、ならばせめて、女の象徴だけは、もう少し突出してほしかった。


「わーお、秋穂ちゃんセクシー」


 私の悩みなど露知らず、僅かに突起した胸元をまじまじと見詰めてくる彩加ちゃん。これでもBはあるもん……。


 それからしばらく、彩加ちゃんが引っ越した後の近所の様子や、一緒に遊んでいた子どもたちについて訊かれたので、それぞれについてざっと答えた。近所に住んでいた子どもたちはみんなアパート住まいで、現在も同じ場所に住んでいるのは一軒家に住む私だけ。連絡先もわからず、今後会う機会はないかもしれない。そんな中、彩加ちゃんと再会して、見覚えのある円卓や家具とともに夜を過ごせるのは、ひとつの奇跡といえるだろう。


 けれど、彩加ちゃんとの再会は、まるで季節が巡って再び春が来たようだった。街の景色は変わりゆくけれど、毎年同じ場所で同じ色の花を咲かせる桜のように、彩加ちゃんにも変化したところ、していないところがある。


 彼は薔薇、彼女は桜。なんてね。


 ふと彼を思い出したら、少し胸がチクリとした。いまの彩加ちゃんとなら、こんな話もできるだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る