18話 王都に向かうことにする俺

こうしてクリスに寄り添って寝ていると、ここがVRゲームの世界であることをうっかり忘れてしまいそうになる。だってクリスの息遣いも体温も本当にリアルで、触ることもできる。


これが現実だったらな…いつも隣にクリスがいてくれたらきっと俺の人生はもっと楽しいものになるはずだ。

俺はここがVRの世界だということを忘れてそのまま寝てしまった。


すでに学校は冬休みに入っていて、いつの間にかクリスマスも終わってた。

まあ、現実の俺には相手もいないから全く関係のないイベントなんだけれども。



VRのゴーグルをつけたまま寝てしまっていた俺は、はっと気がついた時には朝になっていた。一旦ゲームを停止して、両親が用意しておいてくれた朝ごはんを食べる。そのままシャワーを浴びてまたゲームへと戻った。



「…タケル。起きているか?」


隣で体を起こしたクリスが心配そうに俺の顔を伺っている。

しまった。ログオフしたまま時間が経過していた。


ログオフしたまま時間が経過すると、俺のこの世界での体はオートで眠ったような仮死状態になっている。目を開けたまま完全に停止するようなものじゃないからそこまで不自然ではないけれど、揺すっても反応がないので周りの人はやっぱり心配するだろう。


「…大丈夫です。クリスさん。おはようございます。」

「まるで死んだように眠っているから心配した。本当に大丈夫なのか?」

「はい。クリスさん。僕眠りが深いんですよ。」


一応そういうことにして誤魔化しておく。

クリスは心配そうな顔をしているが、これ以上俺が人外のような疑いを招く行いは避けておいた方がいいだろう。


「昨日のこと、一応ギルドに報告しておこうと思うのだがタケルはいいか?」


クリスが優しく俺の髪を撫でながら聞いてくる。

その優しい目つきもまるで恋人を愛しむかのような慈愛を帯びている。ああ、いい。保存。

あまり優しくされると勘違いしてしまうからやめてほしい。クリスは俺の憧れだけど現実の俺からしたらずっと遠い場所にいる人だ。

俺は神として見守らなきゃいけない。


「はい。そうしましょう。あいつらがどんな目的だったのか、レオナルドさんなら何か情報を持っているかも。」


そう言って俺はクリスから離れ、ベッドから降りた。

クリスもベッドから起きて、身支度を始める。

その後宿屋で簡単な朝食を食べて、2人でギルドに向かった。



ギルドにたどり着くと、もうすでに中にはベレッタも来ていて、ギルドの食堂スペースで朝食を食べていた。


「あれ?2人とも集合が早いな?まだ集合時間まで時間があるぞ。」

「そういうベレッタさんだって早いじゃないですか。」

「あたしは朝食と情報収集だよ。王都に行く前に何か情報がないかと思ってさ。」


ベレッタの言い分に納得したところで、昨日会ったことを話す。


「何?そんなことがあったのか?私のところには何もなかったが…」

「なんでベレッタさんが出てくるんです。」

「なんでって…誘拐事件に関わったからなんじゃないのか?」


え!?俺たちが襲われた理由はそこ?確かにその疑いはあるな。

その疑いはこの後レオナルドとの会話でより濃いものとなる。



ギルド長レオナルドとの面会を希望した俺たちは、すぐに奥の応接室に通された。

あまり時間もかからずにレオナルドはすぐに俺たちに会ってくれたが、なんだかげんなりした表情をしている。


「ああ、お前たちか。あの犯人の男な、死んだぞ。」

「ええ!?」

「昨日騎士団の独房の中で。自殺だそうだ。さらに遺書も残されていて、罪の意識に耐えかねたそうだ。」


なんと誘拐事件の主犯とされていた男は騎士団に引き渡された後自殺したらしい。

あの男が罪の意識に耐えかねて…なんてするような人物にはまるで見えなかったが。


「殺されたな」


ベレッタが一言呟く。


「そうだろうな。このタイミングで引き渡した途端、魔族の関与を立証する犯人が死んでしまった。魔族が関与していると知られたくない人間からしたら、生かしておく理由がないからな。」


そこで昨日俺たちが襲われた件についても、レオナルドに説明する。


「やっぱりか…どうも騎士団には後ろめたいことがあるようだな。お前たちを襲ったのもきっと魔族関与の証人を減らすためだろう。」

「あいつらは何者なのでしょうか?」

「騎士団の中には隠密行動を専門に扱う部署があると聞いたことがある。もし、騎士団が今回の誘拐事件に関与しているとするならば、当然そいつらも動くのだろう。」

「騎士団全体…もしくは騎士団の上の方が関与しているということでしょうか。」

「そう考えるのが当然だろうな。」


騎士団全体…もしくは騎士団トップの人間が子供の誘拐事件に関わっているのか?

だとすると俺が思っていた以上にこの国は内部からすでに帝国の侵略が進んでいるということだ。


「ギルド長、王宮はこのことを知っているのか?確か王宮の中には騎士団を監査する組織があると聞いたことがあるのだが。」


クリスが疑問を口にする。そうだ、いくらなんでも騎士団の独断がすぎる。

そんな組織があるなら是非とも連携したいところだ。


「お前の言いたいことはわかる、クリス。そこについては俺にも考えがあるから安心しろ。すでに昨日の騎士団の行動については報告を入れてある。お前たちが王都に入ったら何かしら接触があるはずだ。」

「接触とは?」

「あそこも大っぴらには行動しない組織だ。なんせ監査だからな。でも協力者になるお前たちには何かしら接触をしてくると思う。そんな方法かはわからないが、そのつもりでいてくれ。それとこれを持っていけ。」


その後レオナルドから王都に泊まる宿屋の名前が書かれたメモと、特別依頼を受領したことを証明する書類をもらい応接室から退出した。


じっくり話こんでしまったが、まだ昼食を取るほどのことでもないので王都に移動しながら今後の行動について話し合おうということになった。ギルドを出てそのまま乗合馬車の止め所に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る