17話 黒装束に襲われる俺
「王都…ですか。」
「そう、王都だ。まさかとは思っていたが、確かに帝国には王都の方が近いしな。もしかしたら他からも攫われた子供達が集められているかもしれん。」
元々の方針で王都にいずれは行くことにしていたが、まさかここでも王都に繋がっているとは。
「しかし、騎士団が頼りにならないとなるとなかなか解決には繋がりにくそうですね。」
「騎士団なんかなんの役にも立ちやしねーよ。あいつら結局上の命令には逆らえねーんだ。」
クリスとベレッタが口々に騎士団が頼りにならないことを口にする。
まあ、俺もさっき目の当たりにしたので全くの同意見なのだが。
「ああ。そこでギルドの出番ってわけだ。」
レオナルドがニヤリと笑う。これって多分…。
「今回の件を見込んで、ギルド長から特別依頼だ。このまま引き続き王都に向かい、誘拐事件の解決に力を貸してほしい。」
俺がこの世界にログインした元々の目的は人類の滅亡を防ぐために、世界をつなぎ帝国に抵抗すること。
そして…クリスと平和に冒険生活をしたいというものだ。
今回の子供の誘拐は間違いなく帝国を有利に働かせるものだ。
帝国は子供を誘拐した上で、子供から魔力を強制的に搾取し、それを攻撃の手段としているはず。
この世界の人間の国々ではまだ周知されていないから、この事件を明るみにして危機感を持ってもらわないといけない。
そう考えるとこの事件の解決は絶対に必要な条件に思えてくる。
俺は隣に座るクリスの顔を眺める。するとクリスはにっこりと微笑んで返してくれる。
『タケルの思うようにしていい。』
そう言ってもらえている気がして、僕はギルド長にうなずいたのだった。
「ベレッタはどうする?」
「あたしか?もちろんついていく!もちろんあんたたちの邪魔にはならないから安心しろ。」
ベレッタが親指を突き出してにかっと笑う。
「いや別にベレッタの実力を疑っているわけでは…」
「おいおい、そういう意味じゃねーよ」
「??」
「…わからないならいい。この事件は私にとっても関係ありそうだから、必ずついていくぞ」
「よし、じゃあタケル、クリストフ、ベレッタの3人あてに特別依頼を出す。それでいいな?もちろん報酬ははずむぞ。」
そう言ってレオナルドは依頼書を取り出し、正式に依頼受領の手続きを行った。
そのあとはギルドの前でまたベレッタと別れて、2人で帰路についた。
明日の朝、早速王都に出発する。ベレッタとはギルド前に午前中に集合する予定だ。
家の玄関の前に立つとクリスが突然顔を険しくして、俺の前に立つ。
俺には一瞬?と思ったけど、その次の瞬間クリスが勢いよくドアを開けると、目の前に黒装束で身を包んだ複数の人間が部屋の中にいた。
黒装束たちは突然の帰宅に一瞬驚いたものの、すぐにこちらに気がついて襲いかかってきた。
俺はあまりに急なことにどう反応したらいいか迷っているうちに、目の前のクリスが応戦していた。
黒装束の男たちが持つ短剣を、クリスは長めのロングソードを器用に使っていなしている。
狭い玄関だからもちろん振り回すことはできない。
そうしているうちに、俺はクリスに防御力上昇のバフと黒装束たちに攻撃力減少のデバフをかけた。
こういう手合いは時間をかけたり騒がしくするのを嫌うはずだから、簡単に決着をつけられないようにそうした。
ついでに体が重くなるデバフもかけたのだが、こちらはなぜかレジスト(抵抗)される。
数分の交戦の後簡単に決着がつかないと踏んだ黒装束たちは、お互いに合図すると素早く窓から飛び去っていった。
もうすでに夜になっていたので、姿が見えなくなってしまった。
しばらくしてようやく気持ちが落ち着いてくると、荒らされた自分の部屋に気持ちが重くなる。
ベッドまで踏み跡があって、もう使用する気にならない。
「タケル、大丈夫か?」
「はい、クリスさんは怪我はないですか?」
「俺は大丈夫だ。タケルのおかげでケガ一つなかった。」
そう言ってニコッと笑うクリス。
それを聞いて安心した。クリスにもしものことがあったら、なんてことは考えたくもない。
「でも、今日はもうこの部屋では寝れませんね…」
「そうだな、この時間だが仕方ない。宿屋に今日は泊まるとしようか。」
「はい!」
まあ、元々はこの世界にログインする際に急拵えで作成した部屋だからな。ここに置いてある家具とかにもさして思い入れはない。物自体少なかったし。
ただ一つ残念なことといえば、ひとつしかなかったベッドがクリスと一緒に寝る言い訳に使えたというくらいだろうか。
自分が想定するより少ない被害で助かった、と安堵する俺はクリスの提案する通り近くの宿屋で手続きした。
宿屋の主人には「ベッドは1つですか?2つですか?」と聞かれたが、「1つで!」とは言えなかった…。
「今晩のことは明日ギルドに報告しておこう。」
「そうですね。一体どこが狙ってきているのか…」
「まあ簡単には命を取れないとわかっただろうから、しばらくは何もないとは思うが手がかりは残さなかったな。」
少し離れたベッドで横になりながら、今日あったことを振り返る。
あの黒装束の正体は?なぜ俺たちを狙ったのか?今はまだ何もわからない。ただ…
今回襲ってきたあの黒装束は、村に二回目に襲ってきたモンスターとは違って普通に対処が可能だった。
だとすると、今回は帝国ではないということか…では一体どこが?
そうして一人でベッドの中、悶々と考えてるとクリスがこちらを向いて話しかけてくる。
「タケル、眠れないのか?」
「あ、いや、あいつらなんで襲ってきたのかなって…」
「そうだな。でも、今はそれを考える情報は何もないし考えても始まらない。体を休めることが一番大事だ。」
「はい…そうですね。」
するとクリスはむくりとベッドから体を起こして、俺のベッドの傍にたった。
「タケル、眠れないなら…俺が添い寝しようか?」
はい??今なんと?ほ、本当に?
「は、はい。お願いしますぅ…」
俺がそういうとクリスはスッと俺のベッドに入って腕枕をしてくれながら背中をポンポンと叩いてくる。
ああ…暖かい…というか緊張して眠れない…。
「今日はゆっくりお休み。タケル。」
「はい…」
緊張して一瞬覚醒しかけたが、クリスの優しい声色と背中に刻まれるゆっくりなリズムに安心して眠りに落ちた。
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