16話 騎士団に出頭する俺
翌日、ギルドは昨日捕らえた男を騎士団に引き渡した。
そこに俺は付き添いはしなかったが、ギルド長であるレオナルドがそう言っていたので多分実行されたのだろう。
そしてクリスと二人で遅めの朝食を取っていたところに、騎士団からの伝達役の者がやってきた。
「これからすぐですか?」
「はい、いますぐ私とともに騎士団に出頭いただきたく。」
「わかりました。すぐ準備します。」
クリスにいますぐ来るように呼ばれたと伝えて、2人で急いで準備をして騎士団の庁舎に赴く。
外ではすでに誘拐事件が解決されたことで町は沸き立っていた。
新聞屋はどこで情報をもらって、いつ書いているんだかわからないな。
そう思いながら10分ほどで騎士団の庁舎に到着した。
騎士団の庁舎は堅実な3階建てで、所々鉄格子がついているのが見える。
現実世界での警察署を思い出して、やや緊張する。
「タケル、大丈夫か?俺が代わりに話してもーー」
「大丈夫ですよ。さあ行きましょう。」
そう微笑みながら返すと、クリスは「隣にいるから」と肩を叩いてくれた。
こういうさりげない心遣いも本当に心が温かくなる。
別に自分が何か悪いことをしたわけではないから、安心して全部話そうと心に決めたのだが…。
「それで?魔族がなんだって?」
「だから!この男に指示をしている魔族の男が一緒にいたんですってば!」
さっきからこのやりとりを何度しただろうか。
俺から事情聴取を受ける騎士はポリポリと頭をかきながらあくびをかく。
「はぁ~そんな証拠もないのだろう?お前の見間違えなんじゃないのか?」
「そんなわけないですよ!例え暗くても特徴的な耳の形とか雰囲気はわかります!」
「犯人の男だってその魔族の男からマジックバックを借りたって言ってたでしょう?」
「そんなことは言ってなかったぞ?方法については全く不明なのだ。」
「いや、だからそれは…」
「これ以上しつこくいうようなら幻覚持ちとして病院に強制収容することも検討するぞ」
「なっ!」
「タケル、その辺にしておこう」
俺の供述を聞きながら書いている調書には魔族のまの字も書かれてはいなかった。
完全に魔族のところだけ意図的に無視されているところを見て、黙っているわけにはいかずに声を荒げたがクリスに止められてしまった。
「クリスさん!」
「タケル、これ以上言っても無駄のようだ。もう帰ろう。」
目の前で不正が行われているのに、何もできないなんて…
こんな状況で神の権限を使ったところで、なんの解決にもならない。
クリスに諭されて振り上げそうになった拳をぐっと下げた。
「そうだ、それでいい。今回の件は君たちのおかげで多くの子供が救われた。騎士団としてもちろん感謝しているよ。ただし、思い込みで魔族を貶めるのはやめた方がいいぞ。」
見下した態度で男が言い放つ。このーー!
「それでは私たちはこの辺で失礼していいですね。」
クリスが俺の腕を取って取調室から出ようとすると、男は帰れ帰れと手をふった。
俺は心中では怒りで煮え繰り返っていた。
「あいつ~~!すっごい腹立ちます!」
「きっとあの男だけの話ではないだろう。騎士団が相手をしてくれないというベレッタの話は本当だったようだな。タケルの気持ちはとてもわかるが、あそこで食い下がっても良くないと思ったんだ。」
「はい…止めてくれてありがとうございます。クリスさん。」
きっとクリスがいなかったら、とことん食い下がっていたかもしれない。
俺よりも精神的に大人であるクリスについてきてもらって本当によかった。
俺たちは昨日レオナルドに言われていたように騎士団から出てそのままギルドに顔を出した。
昨日保護した子供達の親御さんたちに会うためだ。
ギルドに入るとすでに概ね集まっていたようで、ちらほら子供の姿も見える。
まだショックで本調子でない子もいるのだろう。
ベレッタの姿はまだ見えない。
「ああ!あなたがたが!うちの息子を助けてくれてありがとうございます!」
集まった人の一人がこちらに気がついて感謝の言葉を口にすると、その他の人たちも次々と感謝の言葉を述べる。
俺は現実世界であまり人を助けた経験はないけど、こういうのは本当に嬉しいものだな。
人のためにと思ってやったことが、素直に感謝されないことも世の中にはたくさんある。
この世界を作ってからも何度もそうした失敗を繰り返してきたし。
しばらく俺とクリスは親御さんたちに囲まれて繰り返し感謝の言葉を告げられたが、そのうちに彼らは家にいる子供が心配なので…と早々に切り上げ家に戻っていった。
まああんなところにしばらく拘束されていたのだから、心のケアも必要だしな…。早く子供達には元気になってほしいな…。
なんて思っているところで、ギルド長から呼び出しを受けていると職員から声をかけられて、そのまま応接室へと二人で移動した。
応接室ではギルド長であるレオナルドとベレッタがすでに着席していた。
「あれ?ベレッタさんどうしてこちらに?」
「ああ、私はああいうのはちょっと…苦手でな。それに昨日活躍したのはほぼタケルだろ。私は裏から入ったんだ。」
まあ…戦うまもなく鎮圧してしまったからな…苦々しい顔をして俺は着席した。
「それで、どうだった?騎士団の反応は?」
レオナルドが口を開く。まあ多分聞く前からどういう反応かはわかっているんだろう。
「昨日ベレッタさんが言っていたように「魔族は関係ないだろう」で取り付く島もありませんでした。」
「やはり、そうか…」
レオナルドが顔を渋くさせて、腕を組み考え込んでいる。
「実はな、あのあとギルドでもあの男を事情聴取したんだ。」
「え!そうなんですか!?」
「その時言っていたのがな…」
レオナルドの話によると、犯人の男は元々借金で困り果てていたところに、魔族の男に金になる話があるときいて飛びついたらしい。それでなんのために攫っているのかはわからないが、この後王都に子供たちを移送する予定でもあったという。男はそれ以上のことは本当にわからないようだった。
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