13話 女魔法使いと出会う俺

「なあ!その依頼受けるのか!?あたしも一緒にいいか!?」


声をかけられて顔を向けるとそこには赤髪を後ろで一つに束ねた、魔法使い風の女性が立っていた。


「あたしもその事件気になってさあ!あんたたち剣士と治療士だろ?あたしは魔法使いだからバランスもいいし!」


一気にまくし立てられたが、確かに魔法使いがパーティに加わってくれるのはありがたい。

だがクリスはどうだろう?もう少し話を聞いてからパーティに加えることにして、とりあえず依頼受付のカウンターに一緒に行く。


「あらベレッタ。あんたがパーティに入るなんて珍しいわね。」

「うるさい!私は相手を選ぶんだ!」

「はいはい。この子、根は悪くないんだけど、言葉遣いが悪いからなかなかパーティが続かないのよ。腕は確かだから私からもお願いね。」

「余計なこと言うな!」


この女魔法使いはベレッタというらしい。受付のお姉さんが心配する通り、確かに口は悪い…実力はどうなんだろうか。


「一応私はBランクだからな。そこそこ使えるから期待してくれ!」


ガッハッハと笑っている。クリスも苦笑いしている。


「ちなみにこの事件のどんなところが気になるか、聞いてもいいか?」


クリスが表情を戻して、ベレッタの真意をきく。

そうだよな。俺たちはともかく一介の魔法使いがこんな誘拐事件なんて、そもそも解決しようとするだろうか?


「ああ、それな。気になるよな。でも今はあまり詳しくは話せない。まだ確証がないんだ。」


ベレッタは少し表情を暗くして俯く。さっきまでの様子との大きな変化に、何かよほどの事情を彼女が抱えていると感じる。

これはもう少し様子を見てから事情を聞いた方がよさそうだ。


「タケルいいかい?」

「はい。クリスさんさえ大丈夫なら、僕も大丈夫です。」

「じゃあベレッタ、よろしく頼むよ。」

俺とクリスはベレッタと握手をして、一時的にパーティを結成した。



その後誘拐事件の依頼を正式に受けた俺たちは、その後一緒に昼食を食べながら事件の概要を話し合う。


「誘拐された場所は様々…治療院、自宅の庭、市場…誘拐場所からは方法がわからないな」

「でも標的はわかるだろ。魔力の高いガキを誘拐してるんだ。なんの目的だか考えたくもねーがな。」


骨つき肉をガシガシ食べながら話すベレッタを見て、俺はちょっとほっとする。

ベレッタは何より体型がすごく魅力的だ。年齢も25歳くらいらしいし、もしかしたらクリスが取られちゃうかも…と若干心配していた。でも甘い空気にはならなそうだから、取り越し苦労で終わりそうだ。


「魔力の高い子供を狙う…囮作戦なんてどうでしょうか?僕子供に見えるらしいですし。」

「そりゃいいな!よしやろう!」

「タケル…いくら君が治癒魔法のエキスパートと言っても、何されるかわからないんだよ?」


俺の提案にクリスが待ったをかける。

でもこれからこの街にいる魔力が高い子どもたちを全員監視することはできないし、この際俺の容姿を利用して一気に解決してしまいたい。


帝国が侵略を本格的に開始するまでもうあまり時間がない。この事件ひとつに悠長な捜査はしてられない。


「僕なら大丈夫です。いざとなれば僕の秘密道具が火を吹きます」


ニッと笑いながらクリスさんに微笑む。

正直俺はなんとでもなる。だってこの世界では神的ポジションなんだから。


「しかし…」

「おい、過保護もその辺にしとけ。それが一番手っ取り早い方法だ。誘拐された子どもは早く助けないと命が危ない。」


その通りだ。ベレッタは口こそ悪いが、状況を的確に判断する能力はかなり高いようだ。


「わかった。何かあったら必ず合図を出してくれ。俺たちが必ず助け出すから。」

「はい。僕は大丈夫です。クリスさん、ベレッタさんよろしくお願いします。」


こうして囮作戦の実行が決まった。

作戦は夜道を俺一人で歩いて、犯人に誘拐されそうなところを遠くから監視しているクリスとベレッタの2人が確保する、というひどく単純なものだ。


その際に犯人を殺さずに捕らえることが重要だ。その犯人から誘拐された子供たちがどこに隠されているのか聞き出さないといけない。


だから犯人が現れたら、まず体が動けないようなデバフをかける。

そこを確保して、居場所を吐かせる。以上。


『単純でスピード感のある作戦の方がいい時もある』

とはベレッタの言。



あまり暗くなったところを歩くのも逆に怪しいということになり、夜間でも営業している市場のあたりを中心に歩き回ることにした。


こんなに往来があるところで本当に誘拐などできるのだろうか?

だが、実際に誘拐された子供たちは親の目がちょっと離れた瞬間に、往来のある街中でも誘拐されている。


だからきっと犯人は魔法に優れた人物か、もしくは人間ではない。

いくらなんでも連れ去られる子供の姿も目に入らないなんて、おかしすぎる。


俺は十分に警戒しながら市場の中を練り歩く。

少し離れてクリスとベレッタの2人が俺の様子を伺っているはずだ。


と思いを巡らせていたところで、一瞬目の前が真っ暗になる。



「え!え!なになに!?」


気がつくと市場の喧騒が消え、俺は暗い部屋に横たわっていたのだった。

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