14話 誘拐される俺
少し目が慣れてきて部屋の様子が段々とわかってきた。
ここは半分地下のようで、通気口らしき穴からぼんやりと月の明かりが部屋に入ってきている。
体を動かそうとすると、ジャラッという音がして手足が金属の輪っかで固定されており、満足に動かすこともできない。
それにどうやら魔力や声を封印する機能もあるようだ。
こんなものまで持っているということは、とても単独犯のやることとは思えない。
あたりには犯人らしきものの姿は見えない。
だが、この部屋には他にも誘拐された子供たちもいるらしく、ううっと啜り泣く声が聞こえてくる。
俺は犯人が姿を表すまで、しばらく待った。
多分外ではクリスとベレッタが血眼になって探しているだろうが、ここで子供だけ救出しても問題の根本的な解決にはならない。
それにしても…誘拐の方法がなんとなくわかってきた気がする。
これは多分マジックバッグの応用だ。
収納無制限のマジックバッグは生き物でも短時間なら収納が可能だ。
おそらく中に睡眠になるような仕掛けを設置して瞬間的にバッグに隠す。すると気がついたらここ、というわけだ。
しばらくすると部屋の出入り口が軋んだ音を出しながら開く。
見るからに犯罪を犯しそうな目つきの悪い男が、部屋の中を見渡してから俺の方を向いた。
「大人しくしてろよ…お前たちはいい金になるんだ。もっとも声も出せないだろうが。お前は特に魔力が高かったなあ…高く売れそうだ。」
下卑た顔をしてニヤニヤと笑う男の後ろにさらにもう一人部屋に入ってきた。
「商品をチェックさせてもらうぞ。」
「いやあ素晴らしいアイテムですなあ!これがあれば何人でも捕らえられます!」
「もう人数が揃ったのであれば返してもらおう。一応貴重な品なのだ。」
「どうぞ。これいくらくらいですかねえ?」
「ばかめ。お前が一生かけても買えぬ代物よ。」
どうやら後から入ってきた男は魔族らしい。月明かりは男の顔を照らしてはくれないので、顔までは判別できない。
魔族の男はバッグを引ったくるように奪い取るとスッっとどこかに消し去った。
「なかなかの獲物が揃ってます。謝礼を弾んでくれますよね?」
「ふん。上もなんで人間のガキなど集めているのか知らんが、まあ魔力はそこそこあるようだな。」
やっぱり魔族が絡んでいたか…。俺は過去の世界での帝国の所業の中に、子供から魔力を搾取するというものがあったのを思い出していた。
子供はその幼いうちは生命力を魔力に転換して、大人よりも多く排出することができる。
そのことに着目した魔族が、人間の国から子供を誘拐していたことがあったのだった。
本当に胸糞で、絶対に帝国を滅ぼしてやると俺はその時思ったものだった。
犯人はわかった。あとは救出してもらうだけだ。特にあの魔族を捕らえることができれば、この国の平和ボケした考え方も180度変わるだろう。
そう思った時だった。
「おい!なんで大人が紛れ込んでいる!?」
「え!いや…そんなことはないですよ!ちゃんと子供だけを集めました!」
「掴まされやがって…俺は戻る。あとは始末しろ。」
「え!そんな!待ってください!」
しまった、バレたか?
魔族の男はそういうとふっと消えてしまった。
神権限でこの男の行き先を追いかけようと思ったが、なぜかできなかった。
どうしてだ?
「クッソ!貧乏くじ引いちまったか…こいつら始末しねえと…」
もらえると思っていた対価がもらえないことに怒った男は、腰から剣を引き抜き身近にいる子どもに手をかけようとしていた。
その瞬間、俺は神権限で拘束している手足の拘束を外し、治癒魔法の光で部屋の中を一瞬照らす。
治癒魔法は光魔法とも呼ばれているので、こんな使い道もある。
「うわっ!なんだ?」
男が急に明るくなったことで、動きが止まった。
そこにさらに動きが取れなくなるデバフを追加。
「うわー!な、」
うるさいので口も停止しておいた。
ついで風魔法でクリスとベレッタに連絡する。
「クリス!ベレッタ!僕は無事です!」
『タケル!よかった!今魔法の発信元がわかった。すぐに向かう!』
「わかりました!」
クリスとベレッタは割と近くにいたようで、それから5分も経たないうちに駆けつけてきてくれた。
2人が到着してからすぐに子供達の拘束を解こうとしたが、
「ちょっと待ちな。眠らせておいた方が混乱は少ないだろう。」
そう言ってベレッタが睡眠の魔法を子供達にかけ、その上で拘束を解く。
「騎士団に報告した方がいいですよね?」
治安を守る部門である騎士にこの場合は通報するのが、当然のことだ。俺はそう提案したのだが、すぐにベレッタに却下された。
「いや、ギルドに知らせた方がいい。今回はギルドの依頼でやったんだからな。それに…今の騎士団はやめといた方がいい。」
意味深なことを呟いてベレッタは風魔法でギルドに連絡した。
しばらくしてギルドの係員たちが総出で子供達を救出し、男を連行した。
俺たち3人も一旦ギルドに戻り、ギルド長直々に話が聞きたいと連絡があった。
俺たちはギルドの応接室に入り、今回の件について大まかに説明を行なった。
もちろん魔族の男が部屋に現れたことも話した。
ギルド長であるレオナルドは大柄で顔に傷もある強面である。
だが話し方はおおらかで、気安い感じだった。
「話は大体わかった。まず礼を言う。短い間に子どもたちがこんなに誘拐されて、手がかりもなかったんだ。依頼を受けてその日のうちに解決とは恐れ入ったよ。」
「タケルの献身があってこその成果でした。」
するとレオナルドはこちらを向く。
「自ら囮になって犯人を捕らえたんだって?なかなかできることじゃねえ。小さいのに偉いな、坊主。」
レオナルドは俺の頭をガシガシつかんで笑う。い、痛い。
「僕は子どもじゃありません!18歳です!」
「お?そうなのか?でもえらいぞ。こんなに小さいのに。」
だめだ、話を聞いてもらえないようだ。
困っていたところをクリスが「その辺で」とレオナルドのぶっとい腕を退かしてくれた。好き。
「ともかくだ。今回のことは一度騎士団にも報告を入れておかなきゃならん。あまり気には乗らないがな…お前さんたちにも呼び出しがかかるかもしれん、それまでこの街に滞在してほしい。」
「騎士団が何かしてくれるわけねーだろ」
ベレッタがそう呟く。どうやら騎士団に不信感を持っているようだ。
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