12話 カツールの街に到着する俺
クリスに初めて乗せてもらった乗馬体験はなかなかにハードな体験だった。
お尻がヒリヒリする上に、上下運動に慣れるまで俺はしばらく時間がかかってしまう。
乗馬にあまり慣れてない俺のために、クリスとペリぺが気を遣ってこまめに休憩を取ってくれた。
そのため予定より少し時間がかかったものの、2日後の夕方には無事カツールに到着した。
「着いたー!」
やっと馬さんから解放されたことに感動もひとしおだ。
もっともあの上下運動さえなければ、クリスに背中を預けながらの移動は快適そのものだったのだけれど。
「タケルよく頑張ったな。」
クリスが頭を撫でる。えへへと答える俺。いや、頑張ったからね。
後でお尻に薬を塗らないと。
ちなみに道中は何事もなく無事だった。
途中帝国のモンスターが襲ってくるかとずっと警戒していたが、徒労に終わったようだ。
「じゃ無事に届けたことだし、俺は馬を回収して戻るわ。」
ペリぺは元々の予定通り、俺たちが乗ってきた馬を連れ立ってすぐに村に向けて戻っていった。
あっさりしたものだけど、まだ村の修復作業は終わってないから心配だったのかもしれない。
ここまで連れ立ってくれたことに感謝して、ペリぺとは街の入り口でお別れする。
さて、この後の行動だが…。
情報取集についても仲間を入れるにしてもギルドに行く必要があるけど、もう暗くなり始めているということで今日は食料だけ買い込んで俺の自宅で今日は休むことにした。
「ど、どうぞ…」
俺は自宅にクリスを招き入れた。
初めてログインする際にここに3ヶ月住んでいることにしておいたが、実際には3日間しか住んでいない。
すぐに村に移動したから愛着があるわけでもないけど、やっぱり自宅は自分のテリトリーという感じがするな。
「タケルの家も綺麗に整っているんだな。」
「まあ家には寝に帰るくらいでカバンもあるので」
「ああ、そうだったな。」
現実の俺の部屋に比べて、驚くほどものが少ないから整理されているように見えたようだ。
この後クリスと一緒に夕飯を作り、ご飯を食べてからすぐに寝ることにした。
だが、問題が一つあった…。
「あ~!忘れてた!」
「タケルどうしたんだ?」
「べ、ベッドがひとつしかないんです…」
「ああ、それなら俺はソファーで大丈夫。」
いやいやいや、そんなわけにいかない。
この世界の勇者にソファーで寝かせる創造主がどこにいる?ここにいる!とか言ってる場合じゃない!
クリスが来る前にベッドを作っておけばよかったが、今更の話だ。
「いえいえ、クリスさん、そういうわけにはいきません。僕の方が身長が低いですから僕がソファーで寝ます!クリスさんはお客様なんですから絶対にベッドで寝てください!」
「いやそれこそ、主人を差し置いてベッドで寝るなど俺にはできないよ。」
しばらくクリスと押し問答を続けていたが、平行線になってしまった。
なんでベッド2つ作らなかったんだ…。
結局少し広めのベッドだったのでクリスと一緒にベッドで寝ることになってしまった。
この世界からログオフして時間を進めればそれだけで睡眠を取る必要はないのだが、こんな美味しい状況を飛ばしてしまうなどもったいない。
俺はログインしたまま、クリスの横で眠ることにした。
もちろんクリスの寝顔は大量に保存しておいた。
翌日、朝早めに起床し簡単な食事をクリスと取った後、早速カツールの冒険者ギルドを訪れた。
「タケル、俺からあまり離れるなよ。」
クリスが俺を庇うように立ち回りながらギルドの中に入っていく。
「クリスさん、僕だってBランク冒険者なんですよ。」
「油断してはいけない。ここにはいろいろな者がいるから、絡まれたりしたら大変だ。」
いつの間にか過保護になってるクリスさんに守られつつ、ギルドの情報掲示板の前に来た。
情報掲示板にはここ最近の国の動きなどがまとまっていて、手っ取り早く情報収集するにはうってつけだ。
ふむふむ…『王子が視察』、『王都の商会がまた帝国に出店』、『帝国との友好条約から50周年』…。
掲示板には帝国に対してやたらと友好的な記事が並ぶ。
魔王の脅威がすぐそこまで迫っているというのに呑気なものだ。
だからクリスが一人で奮闘してもどうにもならないわけだ。まずこの国の意識を変えることから始めないといけないようだ。
『タケラン諸島が帝国領土に編入。住民たちの意思を受けて』
おいおい、これなんて普通に侵略されているんじゃない?自ら独立を捨てて普通の人間を見下してる帝国への編入なんか願うかな?
な~んか変なことになっているな。
「おいタケル、このニュースはこの街のもののようだ。」
クリスが一つの記事を指し示す。
『カツール周辺で子どもの誘拐頻発!子供から目を離すな』
嫌なニュースだな…詳しく記事を読んでみる。
この2、3ヶ月の間に突然子どもが誘拐される事件が頻発しているらしい。この記事では5件。
ちょっと親が目を離した瞬間には子供の姿が見えなくなっていたらしい。
治安を司る騎士隊も必死の捜索をしているらしいが、未だ発見の目処が経っていないとか。
ふともしかしたら…と頭をよぎるものがあった。
瞬間的に姿を消す、そして子供ばかり狙う…。
「タケル、この事件少し匂うな」
「クリスさんもですか…僕も何かあると思います。」
続けて依頼掲示板のところに移動する。もしかしたらこの件に付いて依頼があるかもしれない。
と思ったら、やはりあった。
『子供を探して』の依頼が10件。あの記事では5件だったが、それよりさらに多い。
「クリスさん」
「そうだな。この依頼受けてもいいか?」
「はい。どうも嫌な感じがします。」
依頼の紙を掲示板から剥ぎ取って、カウンターに持っていこうとすると突然横から声をかけられた。
「なあ!その依頼受けるのか!?あたしも一緒にいいか!?」
声をかけられて顔を向けるとそこには赤髪を後ろに一つに束ねた、魔法使い風の女性が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます