11話 方針を整理する俺
家に戻ってしばらくお互いに旅の準備をしている間に、これからの方針を整理することにした。
そもそも…俺には準備らしい準備も必要ないしね。
必要なものがあるようだったら、その都度時を止めて創造することができる。
この世界の人たちからしたらつくづく俺はチートな存在だな…と思う。
だからこそ行動は慎重に。俺の正体がバレないように気をつけないと。俺がこの世界の創造者だって知ってしまったら、きっとクリスの態度も…変わってしまう。きっともう今までのようには話しかけてくれなくなるだろう。
ところで、これからの方針だが。
まず、カツールの街に行ってギルドで魔法が使える人を仲間に入れないといけないなあ。あ、それと情報収集。
神として『世界を繋げよ』なんて曖昧なことを言ったけど、これには理由がある。
俺にはなんで帝国を相手に世界が一つになれないのかが、わからない。だからああ言うしかなかった。
俺はこの世界では神だが、それでも本当の神様みたいに全知全能の神じゃない。
この世界の住人全てがどんな性格で、どんなことを考えて行動してるかなんて「本当はただの人間である」俺に把握し切れるわけがない。
いや、できないことはない、ただ情報が多過ぎて処理しきれないのだ。
人類を救う前に俺の方が寿命がきてしまう。それでは意味がない。
というわけで、情報収集が必要…と。
それとレベル上げも必要だなあ…この前の襲撃みたいにこの先も帝国が襲ってくる可能性は十分にある。
帝国がどんな手段であんな高レベルのモンスターを大量にこの大陸の辺境の村で送ってきたのか、が俺にはわからない。
神である俺がわからない、ということは俺でも把握できていないことが帝国で起きているのかもしれない。
そんなもろもろについても、考えても仕方がない。とにかくこの世界での情報が必要だ。
それとゆくゆくは王都にも向かわないとな。
ファーレン王都には統一教の総本部があり、教皇もそこにいる。教皇もガレット村長と同じく俺が「お告げ」をしている相手の一人なのだが、如何せんここ最近は政教分離が進んで、政治に関わるような力はない。
ここにもなんらかの意思を感じるところではあるが、とりあえず王都に行って背景を探らないと。
というわけでこれからの方針はというと、
1.カツールの街で魔法使いを仲間に入れる
2.世界情勢などの情報収集
3.レベル上げ
4.王都へ行き統一教の情報収集
で良さそうだ。俺は視界にメモウィンドウを出して、これからの方針を入力していく。
まとまっていなかったことをこうして文字にすると安心する。
こうしてまめにメモする習慣は母親から昔教わったことだ。
「人はね。頭の中で考えられることはそう多くないのよ。」
「そうなの?」
「だからね…こうやって悩んだら文字にしてみなさい。頭で考え込むよりずっと冷静に考えられるわよ。」
母は時々こうして生き方の基礎のような教えを伝えてくれる。そういた教えは今俺の行動の基礎になっているのかもしれない。
「タケル、今いいか?」
「はい!」
母の教え通り考えをメモに残した俺はクリスに呼ばれて彼の部屋へと行った。
彼の部屋は雑然としている現実の俺の部屋と違ってすごく片付いている。クリスって綺麗好きなんだな…。
今度俺の部屋も断捨離することを決意して、部屋に入る。
「これなんかどうかな?」
「へ?」
そう言って皮の胸当てのようなものを俺に当ててくる。え?なに?クリスからのプレゼントですか?
「俺が昔使っていたものだけど…これだけとっといてよかった。」
「これは…いいんですか?」
「もしかしたらもっといいものをタケルは持っているかもしれないけど、よかったら使ってくれ。これは…俺の両親が死ぬ前に俺に買ってくれたんだ。」
そんな大事なものを…いいのか?
「え、そんな思い出の品を、僕に…いいんですか?」
「いいんだ。きっと両親もタケルを守ってくれると思う。」
そう言って皮の胸当てを俺の体に装着してくれるクリス。
これまでで一番密着していることに緊張して体がこわばる。
「きついか?体が硬くなってるぞ?」
「い、いいいええ!大丈夫ですぅ…」
緊張してるんです。ああ、意識してるみたいで恥ずかしい…。
「うん。ピッタリだな。これで思い残すことはないかな。」
「クリスさん…必ず一緒に帰ってくるんですよ!僕はクリスさんを死なせませんから!」
「はは。ありがとう。そうだな。必ずまたタケルと帰ってこよう。」
そう言ってクリスは俺の頭を優しく撫でた。
クリスは今までの感謝の気持ちも込めて、命をかけて魔王と戦うつもりなんだ。
だからこれは旅の支度じゃなくて、自分の持ち物の整理をしていたんだとそこで初めて俺は気がついた。
クリスは決死の覚悟で魔王との戦いに臨む。
それは…俺が意図したものではないけれど、村からの暖かい思い出と神への感謝の気持ちからなのかもしれない。
俺は自分のしてきたことが人一人に死を覚悟させる程の影響を与えていることを、思い知ったのだった。
絶対にクリスを死なせない。勢いでクリスに抱きついた俺はそうクリスの胸で決意した。
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