10話 村長に感謝する俺
村の唯一の食料店である程度食料を買い込んだ後は、クリスと一緒に再びあの薬草が取れる場所へと向かいたくさん採取をした。
薬草はたくさんとっても2、3日すればまた生える。この一帯だけ薬草が抜いても抜いても雑草のように生えてくるようにしたのは俺だけど、ここがあればこの村が飢える事はないだろう。
採取を終えて村に戻ると村長の息子であるペリぺが息を切らしながら走ってきた。
「おーい!やっと帰ってきた!」
「どうしたんだペリぺ」
「父さんが2人に話があるって。すぐうちに来てくれ!」
きっと今回の旅の話だろう。クリスと一緒に頷いて、そのままペリペの後をついて村長の家へ向かった。
村長ガレットの家はウーヌス村が薬草で潤っているにも関わらず、周囲の村人の家とほとんど変わらない佇まいをしている。
ガレットに「お告げ」をする以前のこのウーヌス村は、実は違う人物が村長になったこともある。
クリスを育てるためにこの村に恩恵を与えたはいいが、その人物は薬草による儲けを全て抱え込んでしまい一人で贅沢をしていた。しまいにはその金で護衛を雇い、抗議する村人に暴行を加えることまで行っていたのだ。
当然その世界ではクリスを救うことができず、人類は滅亡した。
そこでクリスを救うために、人一倍真面目で責任感が強く信仰心に篤いガレットに目をつけ、その「お告げ」を通した奇跡で村長に据えさせた。
やはり手を加えすぎの感はあるが…ガレットが村長でやはり良かった。
ガレット自身はあまり野心がないので政治は向いていないが、その分周囲の人が助けてくれるだろう。
ペリぺに案内されガレット村長の家に入る。
「ああ!よく来てくれたクリス。それとタケル殿」
「お招きに預かりまして」
「いえいえ!こちらこそ、あなたはこの村の恩人!好きなだけこの村に滞在してください。クリスはこれから旅に出てしまいますが、なんなら我が家で泊まっていただいても構いません。」
あ、そういえばまだ俺が一緒に行くって話村長は知らないんだっけか。
「そのことなんだが、村長に俺から話がある。」
そう言ってクリスは昨日皆が帰った後の神からの「お告げ」の内容を村長に話した。
「そうか…ついに神ご自身がお前に告げられたか。ついにこの時が来たのだな…」
そういうと深く息を吐き出して、村長は語り出した。
「お前の両親が亡くなった後、村でお前をどのように育てるかみんなで話し合ったことがある。その時、実はカツールの孤児院に預けることも選択肢にはあった。」
「それでも俺を育ててくれた…」
「ああ、どうすることがお前にとっていいことなのか、意見が割れてな。そこに神様からのお告げがあったのだ。『クリストフを村人全員で育てよ。』とな。神のお告げがあるならば、とこの村で育てることに反対する者は誰もおらんかったよ。」
「村人全員で…」
「だから村人みんながお前は自分の息子だと思っている。神様もきっとお前のことを大事に思ってくれているんだ。胸を張ってこの村から旅立つといい。」
村長は涙ぐみながらそういうと、クリスの頭を撫でて「いつでも帰ってこいよ」と声をかけた。
クリスは感極まっているが必死に涙を堪えているようだった。ひっそり保存と心の中で呟いた。
しばらく無言の時間が過ぎていく。俺は目を細めてその様子を眺めていると、村長がこちらを向き直し始め始めた。
「タケル殿。タケル殿は村の部外者であるにもかかわらず、傷ついた村人たちを治癒し、さらにはクリスとも旅に出てくださるとか。本当に感謝してもしきれません。」
村長が首を垂れる。一緒にペリぺも遅れて頭を下げる。
「いえいえ!僕にとってはできることをしただけですし、旅も願ってもないことですから!」
慌てて手を振りながら「頭を上げてください」と言う。
「村長、明日にはこの村を出てカツールに向かうつもりだ。」
クリスが話を切り出した。
「ああ、そうだった。そのあたりの話をしようと思っていたんだ。だが、せっかくだから昼食をとりながらどうかね?」
村長の言葉に甘えて、昼食は村長の奥さんであるカリンさんの得意料理らしいナポリタンとオニオンスープをいただいた。
「まずカツールまでの道のりだが、徒歩だと1週間かかる。あまりに時間がかかりすぎるから、この村にある馬を使え。馬ならカツールまで2、3日で着くだろう。」
おお!馬かそれはありがたい…って俺乗馬なんて現実でもこの世界でも経験ないよ!?
「す、すみません。僕…馬乗れないです。」
「大丈夫だ。俺と一緒に乗れば問題ないだろ?」
そう言ってクリスが微笑んでくる。優しい~保存!
「あ、ありがとうございます。それなら安心ですね!」
「ほっほ。では馬は2頭で良いな。」
「2頭ですか?」
「馬の回収のためにペリぺがカツールまで同行しましょう。いいな、ペリぺ」
「わかった!父さん!俺準備してくるわ!」
なるほど馬の回収か、ガレットさんから指示を受けたペリぺは早速明日から一緒に旅立つ準備のため席を立った。
「村長、助かる。ありがとう。」
「な~に、このくらいのことはさせてくれ。それと少ないがこれは村の蓄えからお前に餞別だ。」
そう言って村長は部屋の戸棚から金貨の入った袋を取り出して、食器の片付けられたテーブルの上に置いた。
袋には金貨?がたくさん入っている。
「村長これは」
「気にするな。お前一人を旅に出すことを気に病む者もいる。せめてこれくらいはしないと村人たちも納得せんよ。」
「すまない…感謝する。」
「この中にはタケル殿の分も入っている。少ないかもしれないが、旅の足しにしてほしい。それとタケル殿、タケル殿もいつでもこのウーヌス村に帰ってきてください。この村ではいつでもあなたを歓迎しますし、あなたが望むなら住居も用意します。」
「え!村長それは…」
俺はまた立ち上がって遠慮しようとしたが、村長に手で制された。
「あの治癒していただいた数を考えれば、まだ全然少ないくらいです。そうでもしないと神に申し訳が立ちません。どうか。」
「わ、わかりました…ありがとうございます。」
深々と頭を下げて村長にお礼を言った。
ガレット村長は野心はないが、人の気持ちを察して行動できる人だ。改めてこの人がこの村の村長でよかったと思う。
全て終わって平和な日常が取り戻せたら、この村でクリスと共に過ごせたらいいな…。
なんてことを漠然と思った。
さて、移動手段も整ったことだし、後は明日カツールに行くだけだ!
村長に2人してお礼を言った後、俺はクリスと一緒に家に戻った。
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