9話 カバンの説明をする俺

自分で作った夕飯を1人でさっと食べて、早速自分の部屋にこもる。

こちらの世界では12月に入った。12月に入ると街中は一気にクリスマスを演出し始める。


彼女も彼氏もいない俺は恋人の季節には全く無縁だ。むしろ今俺が心を寄せているのは、ゲームの世界にいるクリスなのだ。


心の中ではクリスマスの雰囲気に「けっ!」と毒づきながらもクリスに早く会いたくてゲームを起動する。



ゲームの世界を翌日の朝まで進行させてログインする。


ログインして目を開けると、目の前にクリスがいて飛びのいた。


「わっ!どうしたんですか、クリスさん!」

「驚かせてすまない。よく寝ていたものでついしばらく顔を眺めていたんだ。」


え!俺の顔なんて何も面白くないですけど…?


「そ、そうなんですか。昨日はどうでしたか?」


イケメンの突然のドアップに胸をドキドキさせながら、話を進めるために昨日の話を持ち出す。


「実はそのことでタケルに話さないといけないことがあるんだ。ここではなんだし、朝食食べながらどうかな?」

「わかりました。じゃちょっと支度してから向かいます。」

「うん。慌てなくていいからね。」


そういってクリスは部屋を出て行った。


イケメンのドアップやはにかむ顔は本当に心臓に悪い。俺はVRを通してこの世界にいるからそんなに表情に現れていないと思うけど、大丈夫かふと心配になった。そこでさっきのドアップを保存し忘れたことを思い出し、改めて保存しておいた。


それから簡単に身支度を整えてリビングに向かう。


「わ~今日も豪華ですね!」


テーブルにはトマトとレタスのサラダ、さらにはベーコンとスクランブルエッグとトーストが置かれている。

そしてやっぱりテーブルの反対側には、微笑んだクリスがこちらを見ている。


心の中で「保存!保存!」と連呼して記録に残してから席に着く。


「遅くなりました。」

「全然待ってないよ。ほら温めておいたから、どうぞ食べて」


早速トーストにスクランブルエッグを乗っけてかぶりつく。う~んうまいなあ。


「それで昨日の話なんだが」


そう言い始めてクリスは昨日の礼拝堂での「お告げ」の内容を俺に伝えた。


「世界を救う…旅ですか?」

「なんだか巻き込むようで悪いんだが…ついてきてくれないか?」


もちろん俺は礼拝堂での一件は知らないはずなので、初めて聞いたふりをする。

ついてきてくれないか…なんていい言葉だ!俺を連れて行くように「お告げ」をした俺グッジョブ!


「わかりました!」

「え?本当に?あの魔王が相手なんだぞ?もっとよく考えてからでも…」

「神様のお告げならきっと僕が行くことでいいことがあるのかもしれません。それに僕にとってもクリスさん強いから、一緒に旅できるなら安心ですし。」

「そうか…実はどう切り出そうか悩んでいたんだ。タケルは本当に見かけ以上に大人なんだな。」


そういってクリスは俺の手を握りながら「ありがとう」と礼を言った。

うん。この手はもう洗えない!


その後朝食を食べ終えた俺たちは、旅の準備をするために買い物に出ることになった。



さて…買い物をする前にクリスに一つ伝えておかないといけないことがある。


「実はクリスさんに一つだけお伝えしたいことがあります。」

「伝えたいこと?」

「はい、実はこのかばんなのですが。」


そう言って俺は自分の身につけているカバンをクリスの前に持ち上げる。


「このカバンがどうしたんだい?」


クリスが意味がわからないという表情で顔を傾げる。

心の中で「保存!」と呟いて、話を続ける。


「実はこのカバン不思議なカバンなのです。」

「不思議なカバン…どんな風に?」

「なんでも無限に入る魔法のカバンなのです!」

「そんなカバンが!?」


はい、と言ってカバンから次々と中に収容していたものを取り出す。

中から杖やら予備の服やらテントやら寝袋やら調理セットやらが出てくる。


この世界には数は少ないがこういうバッグもあることは知っていた。

魔法文明が発達したこの世界では、過去の大魔術師の中にこういった神の領域に踏み込んだようなアイテムを発明した者もいたのだ。


俺は本当の神様ではないけど、この世界を創造者の立場で見ていて、すごい人間というのが時々現れる。

俺が特別なにか施したわけでもないのに、突如として現れたりする。そういった人物のことは歴史を飛ばし飛ばし進めつつも時折様子を伺っていた。


そして今回旅を始めるにあたって、自分用のマジックバッグを創造した。似たようなものは世界に存在するので、俺が持っていたからといって特別不自然でもないだろう。


「遠い昔に両親が呼んでくれたお伽話に出てきたような気がする。」

「はい。亡くなった祖父の遺品なんです。」

「そうなのか…それで初めに会った時もそんなに身軽だったのだな。野宿などと無謀なことをいうから驚いた。」

「すみません。あの時は説明するつもりがなくて…」

「いいんだ。初対面の相手にそのような貴重品の説明をする必要はないさ。むしろ俺を信頼して話してくれたんだな。嬉しいよ。」


はい保存。いい表情いただきました。

クリスの家に泊まりたいから黙ってた、とは言えないな…。


「で、ですので、買い物したものは基本的に全部この中に入りますのでそのあたりの心配は入りません!」

「それはありがたい。でも何も持ってないと帰って怪しまれるから、中身を軽くして旅用のカバンは背負って行ったほうがいいんじゃないかな?」

「あ!そうですね!さすがクリスさんです!」

「よし、じゃあそういうことで買い物に行こうか。」


一通り説明を終えた俺はその言葉に頷くと、クリスと一緒に買い物に向かった。

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