8話 再び「お告げ」をする俺
神として「お告げ」を通して今回のモンスター襲撃について説明を終えた。
もうすっかりゲーム世界では夜になっている。モンスターが暴れた事によってだいぶ村自体も荒らされてしまっており、もう宴会という空気ではない。
礼拝堂で村長が片付けを明日以降として、今日は帰って休むよう指示を出している。
昔から俺からの「お告げ」を村長を通して行っていたおかげで、村の中での村長への支持は強い。
異議を唱えるものもなく、すぐに村の人々のほとんどはまっすぐ家へと帰る。
ほとんどの人が立ち去った後ただ1人クリスは礼拝堂に残り、俺?を象ったとされる筋肉ムキムキの神像を見つめている。
礼拝堂にいるクリスに焦点を当てて、ズームする。
おお…思案げなクリスもまたかっこいいな…。そう思って見入っているとふとクリスが口を開く。
その様子を見て慌ててボリューム最大で耳を傾ける。
「神よ…このために私を昔から助けてくださったのですか?」
意外なことにクリスは気づいていたらしい。
まあ確かにそうだよな…。普通は違和感を持つよな…。
クリスが幼少の時から俺はトラブル回避の対応を手ずから行ってきた。
あまりやりすぎてはいけない世界への介入だが、ことクリスに関してはそれはもうベッタリと手をかけてきた。
時には直接介入したこともあるくらいだし…。
ここで俺はクリスへの対応を考えた。
いろいろ気づいてしまっている上で、何も語らないのは愚策だろう。返って変な気でも回して道に迷ってほしくない。
もちろん魔王を倒すことは必要なことだ。だけど自分が勇者であるということに力みすぎて、プレッシャーを与えるのも俺の本意ではない。
ここは誤解のないよう、ある程度説明が必要だろう。
もちろん俺が個人的なファンであることは伏せて。
俺は「お告げ」モードを開始した。
『クリストフよ…』
「神!お答えいただきありがとうございます!」
『突然勇者と指定され、さぞ驚いたことであろう。先程のお前の言葉の通り、お前はこの世界の調和に必要な人物なのだ。それゆえ昔からお前のことを見守っていた…両親のことはどうにもならなかったのだ。すまない…』
「そうだったのですか…」
クリスは直立不動で、俺?を象った像に向かって話す。
全然俺には似てないんだけどね。
『お前の道は困難を極めるだろう。しかし1人ではない。』
「と、言いますと?」
『最近出会ったタケルというものがいるだろう。彼とともに旅に出るのだ…』
「し、しかし!タケルはまだ若く危険な旅には…」
『その心配はいらん。あの者がお前を正しい道に導くであろう。』
「かしこまりました。やはりタケルは神の使いだったのですね…」
俺が神の使い?どこでそう思ったんだろう?
知らないうちに俺の評価がどこまで上がったのかわからないけど、とりあえずそこは濁しておこう。
『ともあれ、かの者とは離れず生活するように。私も引き続きお前を見守っている…』
「重ね重ねありがとうございます。」
クリスはきっちりと腰を曲げてお辞儀をする。
こういう律儀なところもいいんだよねえ…。
『頼むぞクリストフ…』
そういって俺は「お告げ」モードを終了する。
ふふふ。これで俺がクリスと旅に出る理由もできたことだし、全て思惑通りだ。
明日から早速クリスと旅に出る準備をすることとしよう。
そこでふと思惑通りでなかった今回のモンスター暴動事件を思い出す。
今までの世界の展開とは違う二回目の襲撃。しかも、魔物はこの周辺のものではないカーボニアにしか現れない魔物。
今の時点で帝国カーボニアに目をつけられている?
いや、そんなことはないはずだ。まだクリスが勇者だということも伝わってないはずなのだ。
だとすると村長?どこからか神のお告げを村長が受けているというのを聞いて襲ってきた?
もしそうだとすると村に結界を張った今はもはや何もできないはずだ。
仮にクリスを狙ってきたとしても、それこそ俺が近くにいるから神権限でどうとでもできる。
あともう1点気にかかることがある。
それは物理無効の相手には打つ手がないということ。
今回のような物理無効の相手はこの大陸にはいないが、もし今回のグリズリーのように不意に襲ってきたとき毎回今回のように神モードでどうにかするわけにはいかない。
何度も連発して「奇跡」を起こすと人々が神への依存に傾いてしまう。
ここはあくまでこの世界の人として対策を練る必要がある。
魔法使いの仲間がいればいいんじゃないか?
そのためにまずはカツールの街に戻り、ギルドで仲間を入れることにしよう。
世界の概況を創造者モードで俯瞰しながらそう考え、俺は一旦ゲームを終了した。
翌日、相変わらず学校では同級生のみんなが目を血走らせながら勉強している。
昔ほど大学の偏差値がどうという社会ではないらしいけど、受験生としてはやっぱり人生の大きな分岐点には変わりないのだろう。
心の中でみんなに「頑張れ」とエールを送り、俺はいつものようにそそくさと家へと帰宅する。
家に着くと最初にすることは帰りの遅い両親の夕飯を作ることだ。
高校生になってから部活にも入っていない俺は、忙しい両親のために夕飯を作ることを提案した。
それを聞くと両親は涙を流して喜び、「夕飯の対価はきちんと払う。本当に嬉しい」と両手をあげてバンザイしていた。
それから俺は決して少なくないお小遣いをもらえる上に、「買い物は大変だろうから」と両親は食材配達のサービスまで始めてくれた。おかげで俺は迷うことなくレシピ通りに調理できる。
調理はやり始めると存外に楽しい。
自分が食べたいと思ったものをその時の気分で作れるからだ。それにやっぱり作ったものを「美味しい」と食べてくれるのは嬉しいものだ。
今では調理に全く負担を感じないので、休日もレシピ共有サイトを覗きながら食べたいものを作って両親に食べさせている。
いつか…クリスにも俺の作ったものを食べさせてあげたい。その時クリスはなんていうんだろうか。
そんなことを想像しながら、俺は今日の夕飯を調理するのであった。
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