7話 「お告げ」をする俺

昼食をとってひとまず休憩を取った俺は、またまっすぐ自分の部屋に戻りVRを装着する。


創造者モードで「お告げ」を指定しようとして、まだ世界の進行を止めたままであることを思い出す。

あっぶねえ…時間が止まってたら「お告げ」なんて聞こえるはずがない。


ここは一度冒険者モードに戻り、どっか隙を見て村長に「お告げ」をするしかない。

そう考え、世界の進行を進めてすぐに俺はログインした。


「タケル!大丈夫か!?」


そう言って血相変えたクリスが走り寄ってくるが、すぐにその場の変化に気づき立ち止まる。


「え?モンスターが…」


先ほど俺が処置した通り、目の前にいたグリズリーたちは跡形もなく消滅していた。

そのあまりの突然の変化にクリスだけでなく、村中の中で「どうしたんだ?」「どこかに隠れたのか?」などと訝しむ声が聞こえる。


そりゃ倒したわけじゃなく、突然「消えた」んだからな。そりゃ不安だよな。

早く「お告げ」をしないとと考え、俺はクリスに提案した。


「一度皆さんが無事か確認しませんか?もし怪我人がいたら僕が治療しますから。」


そういうとクリスは「すまない」と一言言って、


「みんな!一旦集まってくれ!タケルが診てくれる!」


と呼びかけてくれた。クリスのこういうさりげない一言一言に惚れ直す。

やっぱかっこいいな…。


えへへ…としていたところに、傷ついた村人たちが集まってくる。



俺はしばらくの間クリスに手伝ってもらいながら村人たちやペリぺを治療していると、ガレット村長が近づいてきた。ガレット村長はペリぺ同様赤髪の逞しい男だ。


「旅の方…昨日に続きありがとうございます。この村には薬草はたくさんあるのですが、治療士は1人もいないのです。」

「タケルと言います。たまたまですから。そんなに気になさらずに。」

「そうは言ってもどうお礼したものか…」


悩む村長に俺は早く「お告げ」したいのもあって、話を変えた。


「それにしても驚きましたね。モンスターはどこに行ったのでしょうか?まるで神の御技のようでしたね。」


もう直球でぶつけることにした。早く例の場所に行ってくれ。


「ああ!そうですな!モンスターが突然消えてしまった。確かに神の御技のようですな…」


そう考えこんでしばらくすると、ガレット村長は思いついたように周囲の方を向いて話し出す。


「みんな!今から礼拝堂に行き、神に問いかけることにする。みんなもついてきてくれ!」


こちらもちょうど治療が終わったところだ。村長の声に従い、治療を終えたものはゾロゾロと礼拝堂の方に歩いていく。



ちょうど村の中心部に大きな礼拝堂が存在する。


あの礼拝堂はクリスが両親を失った後に俺が村長に「お告げ」をして作らせたものだ。

決して華美なものでは無いが、素朴ながらも立派な礼拝堂は村民たちが集合する場としても機能する。


クリス以外の全員が向かっていくところを見届けて、俺はクリスに話しかける。


「ごめんなさいクリス。ちょっと家に戻って休んでいてもいいかな?治療で疲れちゃって…。」

「もちろんだタケル。あとで戻ったら何か食べるものを作るから、それまで休んでいてくれ。村のみんなのために本当に返せきれない恩ができてしまったな…」


俺はクリスのためならなんでもするさ。大事な…クリスだからな。


「気にしないでください。じゃすみません。お先に戻ります。」


そう言ってクリスと別れ、クリスの家に向かった。




クリスの家に戻ると俺は客間に入り、すぐにログアウトした。

ああ忙しい。今度は神モードだ。


創造者モードに戻った俺は「お告げ」をするために、視点をウーヌス村の礼拝堂に指定して中を伺った。中では村長を先頭にして礼拝堂の一番奥にある神像に向かってお祈りをしている。


ところでこの神像…全く俺とは似ても似つかないのだが…1000年の間に何がどう伝わったのかわからないが、ものすごく身長が高く、筋肉がモリモリで顔がいかつい神様にされてしまっている。


こんな戦争の神みたいな容貌したことないんだけど…。まあいっか。


『ガレットよ。祈りは届いている。』

「おお!神よ!お応えいただきありがとうございます!この度の出来事は貴方様の御技ですか?」

『いかにも。今回は特例ゆえ異物を排除した。』

「ありがとうございます!」


ガレットは床に跪き首を垂れている。


『しばらくの間この村の周辺半径3kmに結界を張っておいた。日頃のお前の行いの賜物ゆえ、気にするな』

「重ね重ね、ありがとうございます!村は救われました!どのように報いればよろしいでしょうか?」


この十何年かのうちにガレットはすっかり俺教の信者になってしまったな。これだけ恩恵を与えていたのだから仕方のない部分もあるかもしれない。


『うむ。一つお前から伝えてほしいことがある。今、世界は魔王の手中に陥ろうとしている。もしそれが叶った時世界は滅亡するであろう。この村にいる勇者クリストフを旅に出すのだ。世界を繋ぎ、魔王率いる帝国と対峙するのだ。良いな?』

「仰せの通りにさせていただきます!」

『ではクリスを頼むぞ、ガレット…』


ふう、と「お告げ」を終了する。うっかりクリスとかいっちゃったし…しかし何度やってもこの口調は疲れるね。


礼拝堂の様子をそのまま見ていると、村長が礼拝堂で村人たちに先ほどの「お告げ」の内容を説明しているところだった。


これだけ神がこの村に肩入れするのも普通はおかしいと感じるのが普通だが、このウーヌス村の人々はそうではない。


なぜか?

それはクリスが両親を失った時、ガレットに「お告げ」でクリスの保護を村人たちですればその恩恵を与えると伝えているからだ。このことはクリスは知らない。口止めしているから。


だからこれだけ神がこの村に肩入れしていることに、クリス1人が首を傾げているのも当然のことだった。

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