4話 実物のクリスにうっとりする俺

主にクリスの快進撃であっという間に村内のモンスターを片付けた後は、村長の指示で見回りをする数人を除いて一度解散となった。


クリスに自宅に来るよう誘われた俺は、もちろん断る理由などあるはずもなく後をついていく。


「それにしても本当に助かったよ。えっと…タケルだったっけ?」

「はい!クリスさん!クリスさんも強いですね~」


俺は何も知らないふりをして、クリスを褒める。クリスへの賛辞はもちろん本気だとも!

クリスはちっとも汗をかいてない様子で、涼しい顔で俺の隣を歩く。


やっぱり実物は違うな…筋肉の細かい様子とか息遣いとかはやっぱりログインしないとわからない。

一押しは間近で愛でるに限る!


「まあ、昔からその…色々あってな…」


鼻の頭をかきながら恥ずかしそうにクリスが呟く。

うん、知ってるよ!色々あったものねえ…。


気がつくとうっとりしてクリスの顔をじいっと見てしまう自分に喝を入れる。

会って早々に訳知り顔でジロジロ顔を見たらいくらなんでも怪しまれる!


俺は表情を疲れた顔に調整して、クリスの隣を歩く。


「それより今夜は泊まるところはあるのか?」

「いや…今夜は野宿でもしようかと思っていたのですが…」

「なんの装備もないのに?地面でごろ寝するつもりだったのか?」


もちろん道具類はどこからでも自由に引き出せるし、なんだったらこの場で創造することもできる。

もっと言えば今から家のある街まで「瞬間移動」することだって可能だ。


でも今はそんなことは言わない。


「一応僕も冒険者ですから、野宿くらいは全然大丈夫ですよ~」


ヘラヘラして答える。もちろん、期待している。


「ならうちに泊まっていくといい。なんならこの村にいる間はうちを使ってくれ。」

「いやいやいや、悪いですよ!」


もちろんポーズだ。


「それこそ困る。村を助けてくれた上に俺にとっても恩人だ。お礼くらいさせて欲しい。」


クリスがしゅん…と困った表情を浮かべる。

あ~~!この表情はダメだ!かっこいい上に可愛い。


「そんな!ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます!」

「よかった。今村の外は危ないし、出ていくと言われたらどうしようかと思った」


クリスが表情を一転してにこやかな笑顔を作る。

あ~~!(二回目)この表情もダメだ!誰、この子?かっこよすぎだろ。



そんなやりとりをしているうちに家に到着する。

クリスの家は両親が生きていた時からのものだ。1階建て3LDKの庭付きのお家。


門を潜るとよく整備された庭が目に入る。今はもう夜だからよくは見えないけど、この庭はお母さんが生きていた時に色々な花を植えて大事にしていたんだよな。


クリスは庭に今でもお母さんがお手入れをしているところが見えるんだろうな…彼がよく整備していることも知っている。


クリスに促されて家の中に入る。入ってすぐの右手にはリビングとキッチン、左手と奥には3部屋ある。


左手1番手前は亡きご両親の寝室。これは亡くなった時のままだ。

その一つ奥は客室。時々王都からお客が来ていたらしい。

そして一番奥は…クリスの部屋だ。


まっすぐクリスの部屋に行きたい欲求をぐぬぬと堪えて、クリスの誘うリビングへと入る。


今はまだ冬を越えたばかりで夜になると少し肌寒い。

クリスはリビングに入ると暖炉に薪を入れて、着火魔法で火をつけた。


「今夕飯作ってくるから先にお風呂に入ってきなよ。その間に夕飯作ってくるからさ」

「いえ!この家の家主の先に入るわけには!」

「いいから。村中走り回って汗かいただろ?」


というとクリスは俺の服も眺める。


「服も少し汚れてしまっているな。着替えも出しとくから、着替えておいで。」


とまたにっこりとクリススマイル。この笑顔にガツーンと頭に衝撃が走る。


「わ、わかりました…」


こんな短い時間にクリスのスマイルを何度も浴びたら、俺はこの世界で死なないはずなのに死んでしまいそうだ。

多分この世界で俺を物理的に殺せるのはクリスだけだ。



大人しく入浴を済ませ、少し裾の長いシャツやズボンを履いてリビングに戻る。

あえて行っておくがパンツの替えは流石になかったので、ちゃんと交換しておいた。もちろん神的能力で。



「お風呂ありがとうございます。いいお湯でした…」

「それはよかった」


再びにっこり笑うクリスはテーブルにもう座っている。テーブルにはシチューやパン、サラダなどがすでに準備されている。

その姿に俺は理想の家庭を見た。この風景を俺は一枚の写真にしたい。


完璧な理想の嫁であり、なおかつランクAの上級冒険者であり、さらにこの世界の勇者でもあるクリスは本当にすごい…。


「座りなよ。一緒に食べよう。」


ややほうけてしまった俺にクリスが声をかける。は!しまった!またやってしまった!


「は、はい!」


慌ててクリスと向かい合わせの椅子に座って、クリスが作ってくれた晩餐を食べ始めた。


「ところで魔法はどこで習ったんだい?あんなに素早く複数の魔法をかけられる治療士は初めて見たよ」


しまった~!そういう設定は考えていなかった!


「え、え~と…」

「あ、ごめん!詮索するようなことを聞いて。気になっただけだから無理に話そうとしなくてもいいよ。」


ち、違うんです…考えてなかったんです…すみません。


「随分若いのにすごいよね。14歳くらいかな?」

「いえ、僕は今年18歳になりました。」

「ええ!?本当に?」


一般的に外国人に比べて若く見えがちな日本人の中で、さらに俺は童顔と言われる部類だ。

その顔に合わせて同じように作ったから、この世界でも同じようなことを言われるとは…。

もうちょっと大人顔にしておけばよかったかな。

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