5話 ナビーに尋ねる俺

「18歳でも充分若いと思うけど、すごいなあ…」


あってからずっと俺のことは14歳の少年だと思っていたらしい。

ふふふ、クリスさん。俺はもうアダルトなことだって解禁された年齢なんですぜ。


「ありがとうございます。」

「でも、どうしてこんな田舎に?」

「実は僕は旅に出たばかりでして。僕の家はカツールの街にあるんですけど、手始めにいい薬草が取れるというウーヌスに来たんです。」

「なるほど。それならちょうどよかった。今日怪我をした人がたくさんいたから、明日薬草取りに行こうと思っていたんだよ。一緒に行くかい?」

「え!いいんですか?」

「俺に遠慮は無用だよ。むしろ手伝ってくれた方がたくさん取れるし、いいだろ?」


もちろん薬草は取ってつけた理由だが、クリスとの思わぬお出かけに嬉しくなる。

怪我人などいくらでも治療できるが、あまりやりすぎると目立ってしまうからこのまま誘いに乗ってしまおう。


「もちろんです!お願いします!」


そうして明日の約束をして、俺は客室でぐっすりと眠った…訳ではなくログアウトして現実世界に戻った。


ゲーム前から3時間くらいが経過している。明日はちょうど学校も休みだから、1日クリスと冒険ができる。

俺はウキウキしながら母親が作ってくれた夕飯をチンして食べて、現実の俺のベッドに潜った。



次の日。俺は6時くらいに目を覚まして、シャワーを浴び、出勤の準備に忙しい両親と共に朝食を食べる。


2人とも働いていてすれ違いも多い。特に俺が高校生になってからは母は本格的に仕事に復帰して、ほとんどうちにいない。もっとも俺としては自由な時間が増えるから、いいんだけどね。


7時半ごろ。朝食の洗い物を食洗機に放り込んで、洗濯機を回しておく。最近は忙しい両親に変わって簡単な家事くらいは手伝うようにしている。


とは言っても洗濯機も乾燥までしてくれるから俺のやることはほとんどないのだが。

掃除だって掃除ロボットがしてくれる。ついでにロボットにも働いてもらうか。


リビングにあるお掃除ロボットのスイッチを押してから自分の部屋に戻り、早速「To Be the God」を起動し、No.38のセーブデータを開いた。



この世界の進行を翌日の8時に設定してからログイン。


目覚めると気持ちいい日差しがベッドに差し込んでいた。昨日は部屋に入ってすぐログアウトしたから気づかなかったけど、このベッドのシーツからクリスと同じ香りがする…。


そう思ってベッドに向かってクンカクンカしていたところに、コンコンとドアがノックされた。


「タケル?起きているかい?朝食を食べようか?」

「おはようございます!クリスさん!」


ガチャっとドアを開けてクリスを見ると、そ、そこにはエプロン姿のクリスが太陽の光に反射してキラキラしている…!


一瞬くらっとしかけたが、すんでのところで踏み止まった。


「だ、大丈夫か?まだ眠かったら寝ててもいいんだぞ?」

「いえ!大丈夫です!朝食、いただきます!」


ちょっとこれ…あとでもう一回思い返したい。あとでナビーを読んで写真撮影の方法を教わろう、と固く心に誓った。


昨日と同じ座席に座り、朝食をいただく。

今日の朝食は昨日の残りのシチューとベーコンエッグトースト。


「どうぞ。召し上がれ。」


エプロンを取り、クリスも席に着く。この風景もあとで見返してえ…。


「いただきます!」


憧れのクリスと囲む朝食はとても楽しいものだった。



朝食の後薬草を取りに行く準備をすると言ってクリスは自室に戻った。

その間に俺も客室に戻って早速ナビーを呼び出す。


「ナビー」

「はい。タケル様。どのような御用向きでしょうか?」


何もない空間からナビーが現れる。一瞬のことだから思わずびっくりして体がのけぞってしまう。


「あ、ああ。2つ聞いておきたいことがあって。」

「なんなりと」

「まず一つ。見たものをデータに保存する機能ってある?」

「ございますよ。メモリー機能ですね。冒険者モードの際に心の中で「保存」と思考するだけでメモリーされます。あとで創造者モードで確認いただけます。」

「なるほど?過去に見たものは?」

「その時点で見ていないものも思い出しながら、同様に心の中で「保存」と思考していただければ保存できます。」


確かに取っておきたいとか写真にしたいとかは思っていたけど「保存」とは思っていなかったな。


「あともう一つ。何か戦闘に際して役に立つスキルってある?」

「色々ございますが…とりあえずは「ライブラリー」を試してみてください。」

「ライブラリー?」

「心の中で相手を目にしながら「ライブラリー」と思考してください。そうすると相手の属性、弱点、レベル、その他の情報などが表示されます。」

「なるほど?」

「もっとも何かあった場合には、世界進行を一旦停止してログアウトすることも可能です。危険なことがあってもあなたはこの世界で死ぬようなことはございませんが…。」


ナビーは少し間をおいて含むような言い方をした。


「精神的なショックまでは、保証致しかねますのでご留意くださいませ。」

「精神的なショック?」

「ショックな場面、悲しい場面。この世界は極限までリアリティーを追求しておりますが、決して現実ではないということを忘れないでください。」


ああ、と俺は思った。

この世界は現実ではなく、所詮はただのゲームデータだ。しかし、ログインしている時は現実と全く見分けがつかない。


このゲームに対する批判の一つに「リアルすぎてショックを受ける」プレイヤーが一定数いるというのもある。


ゲームの中のキャラクターに感情移入しすぎて、何かの拍子で失ってしまった時に深いショックを受けて、ログアウト後もPTSDにかかってしまう人がいたからだ。


物理的には絶対にダメージはないが、精神的なものまではどうにもできない。このゲームをやる上で充分注意すべきことだ。


神なのだから生き返らせればいい?キャラクターを生き返らせることはできても、同じ人格、記憶を持つとは限らないのがこのゲームの仕様だ。より一層辛い思いをすることになるだろう。


だから…生き返りをやる人は少ない。


「わかってるよ。説明ありがとう。」

「今回はお呼びいただきありがとうございました。またなんなりとお尋ねください。」


そう言って慇懃に礼をして、ナビーはまた虚空に消えていった。

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