3話 初めてのログインをする俺
これまで1ヶ月クリストフー長いからもう俺の中ではクリスって呼んでるーにつきっきりだったせいで、ほとんど彼の親のような、友人のような心の距離だが、彼からしたら初対面になるはずなので状況をよく考えることにしよう。
この世界での俺の設定だ。
俺の姿形は最初の基本設定の通りだから、黒髪黒目で身長は…165cmくらい。まあ身長くらいもう少し高くても良かったかもしれないけど、戦闘での感覚が狂ってしまうのであまり大きな改変は推奨されていない。
あと職業は…治療士ということにしておこう。もっとも神権限でどんな魔法でも使えるが、クリスをなんの違和感もなく癒せる立場にいた方がいいだろう。
ちなみに回復魔法は、RPGの設定ではその世界の宗教観に合わせて敬虔な信者しか使えないことも多いが、俺の世界ではそんな設定はない。才能さえあれば誰でも使える。
宗教は一応統一教というものがあるのだが、これは信仰の対象が神である俺なのであまり関わりたくない。
さらに自分の家を設定する。クリスのいる村から一番近いところにある街で一部屋借りている設定にする。天涯孤独の身で他国から冒険の旅に出ているランクBの冒険者ということにしておこう。
この辺りの設定も自分の世界だから、この世界の人たちに違和感のない範囲で認識の調整を行っておく。
あとはクリスのいる村に向かうだけだが…歩いていくとここから1週間はかかるんだよな。
道中魔物も出るし、自分の世界を歩くならクリスと一緒がいいし。
ちょうどこちらの世界で3日後には高い確率であの事件が起きるから、そこに合わせて「瞬間移動」すればいいか。
ひとまずこの世界での俺の設定もできたので、初めてのログインを行うことにしよう。
ちなみにこのVRは3年前から発売されてる最新式で視覚だけでなく、触覚や聴覚、嗅覚、味覚まで再現される。どんな原理かは俺もよくわかっていないんだけど、脳に直接刺激を与えて…とか?よくわからないから説明は割愛する。
3日後の訪問までに街を回って、戦闘の練習もしておかないとな。
自分の行動をあらかじめ決めながら、俺はついにNo.38の世界に初めてのログインをした。
ログインしてからの3日間は装備を整えたり、ギルドで簡単な依頼を受けて戦闘の練習をしておく。
一応こちらの世界ではランクBのそこそこ実力のある冒険者だしね。
ちなみにクリスはランクAの冒険者。村長を通して「お告げ」をした通りに課題をクリスが達成していくうちに一流の冒険者にまで上り詰めた。さすが俺のクリス。
ランクBならランクAのクリスと一緒に冒険に出てもそこまで違和感はないし、やっぱりクリスに前面に出て戦ってもらいたい。やっぱり憧れのクリスに守ってもらいたいってのが理想だし。
とまあクリスとの生活を想像しているとニヤニヤが止まらない。走行しているうちに3日はあっという間に過ぎて、ついにクリスと対面する日がやってきた。
俺は神権限である「瞬間移動」を使って、クリスのいる村の外れに降り立った。
到着とともに村からは悲鳴が聞こえてくる。
そう今日この日はクリスの生まれ育った村、ウーヌス村が大量のモンスターに襲われる日なのだ。
この事件で場合によってはクリスが村人を庇って死ぬこともある。
そうでなくとも村には大きな被害が出て、クリスは失意のうちに旅に出ることになる。
俺のクリスにそんな暗い過去はこれ以上増やしたくない。
それにピンチのところを救って一気に距離を縮めたい。そんな下心もあって今日この日を選んだ。
村に急いで向かうと、すでに村は喧騒に包まれていて、村の男たちが武器を持ってモンスターと応戦していた。
「大丈夫ですか!?」
声をかけながら、モンスターと戦う人たちに身体能力向上のバフと回復魔法をかけていく。
「ありがとう!なあ、奥に行ったモンスターを追ってクリスが1人で行ったんだ!あいつを追ってくれないか!」
回復魔法をかけた村人さんが俺にそう話す。
もちろん知っている。だけど俺は村人さんに頷いて、
「わかりました!」
といって村人の指す方向へ走っていった。
道中には大きな足跡とそれを追ったであろう人間の足跡が伸びている。
これを追っていけば追いつくはず。
5分ほどで村人の女性を庇うようにモンスターを退治しているクリスの姿が見えた。
今まさにクリスが女性を襲おうとするモンスターの盾になって攻撃を受けようとしている。
俺は慌ててクリスと女性に防御力向上のバフをかけ、モンスターの動きを遅くするデバフをかける。
魔法の効果に気づいたクリスは、次の瞬間にはモンスターの体を一刀両断にしていた。
か、かっけ~!うん、やっぱうちのクリスは俺一推しだわ。
改めて俺が育てたクリスを再評価していると、声をかけられた。
「助かったよ。君は?」
おおお~ついにこの瞬間がきた!生のクリスだ~!
青髪青目の精悍な顔つき、身長は俺より20cmくらい高いだろうか。かっこいい…。
ちょっとクリスの顔に見惚れつつ、差し出された手を握り挨拶をする。
「タケルと言います。たまたまこの辺り特有の薬草を取りにきていたところだったんです。」
「そうなのか。それは運が悪かったというか…いや、俺にとっては運が良かったよ。君がいなかったら彼女を庇って怪我をするところだった。」
「そうだったのですね。間に合って良かったです!」
もちろんずっと手を握ったままで顔をぼうっと見つめる。
緊張感のある場面ではあるが、なんたって今まで手ずから育ててきた俺のヒーローが目の前にいる。思わず顔を見入ってしまっても仕方ないよね??
そうしているとクリスは顔を傾げて、??という表情をした。ああ、かっこいい…。
「まだモンスターは村に残っていると思うんだが、手伝ってくれるかい?もちろん後で礼はするよ。」
「はい!わかりました!行きましょう!」
はっ!と気持ちを切り替える。呆けている場合ではない。
先ほどは女性を庇っていたために危ない状況だったが、足枷のない状況でのクリスの強さはランクAの冒険者に恥じない圧倒的なものだった。
そんな彼にさらに身体強化と素早さ向上のバフをかけ、俺自身もモンスターを倒しながらクリスと一緒に村にいるモンスターの群れを蹴散らしていった。
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