2話 ゲームにハマる俺

基本設定を終えた俺は早速ゲームを進める。

ある程度予習はしておいたから、ゲームのシステムは概ね覚えている。ナビーを呼び出すこともほとんどないだろう。


最初の世界No.01。


ここでは特に手をかけずに人類の発生からしばらく様子を伺ってみた。

100年ずつ時間を進行して、様子をみる。


ずっと人類は争ってばかりでいつまで経っても文明が発生しそうになかった。

倫理観も何も全くなくて、まさにカオス。


200年時間を進めてみたらこの世界から人類は消滅してしまった。

消滅するとこのデータは一旦滅亡エンドを迎えることになる。


次の世界No.02。


ここでは人類が誕生してから100年くらいで一度神の力を行使した。


割と大きな集落をまとめているリーダーに「お告げ」をする。

「お告げ」には「みんな仲良く」とか「人から奪うな」とか「働きましょう」なんてことを入れといた。


そうしたら宗教が発生してこの男を教祖とした一大勢力が形成された。


この宗教を中心として人々が結束していく。


それからは割と平和に国と呼べるものが誕生したり、街や商売なども始まって順調に人類は発展していった。


そこから10年ずつ歴史を先送りしていくと、「お告げ」をしてから100年後に大きな戦争が勃発した。

そこでまた人類は滅亡した。


ほどほどに手を入れておかないと、人類は神の存在を疑ってすぐに調子に乗って滅んでしまう。

手のかかる子供を育てるような気分になって、日々手の掛け方を研究し俺はこのゲームにハマっていく。


購入してから1週間くらいかかって、No.09まで世界を作り滅亡させてきた。


しかしNo.10ではかなり発展した世界まで進めることができるようになった。自分の創造した世界が早々に滅ぶことがなくなってホッとする。


魔法を中心とした技術が発展して、街のありようはまだ中世くらいだが、生活水準はだいぶ現実に近づいてきたように思う。そろそろ実際にゲーム内の世界を楽しめる頃合いなのかもしれない。


そう思うとドキドキする。


ちょうど良い頃合いかな…と思っていたところで、俺の作った世界に魔王が出現した。


「何これ?ええ?魔王?このゲームの仕様かな…」


魔族の中でも一際力の強いものが魔王を名乗り、大きな帝国を瞬く間に築き上げていく。

せっかくログインしてファンタジー世界を楽しもうと思っていたのに、これじゃ台無しだ!


そうして魔王が出現して200年が経った頃、この帝国が暴走して世界を滅亡に導く。


「ちょっとちょっと!ここまで大変だったのに~!」


何勝手なことしてくれてんの!元に戻せよ~!そう言ってもゲームデータはすでに滅亡エンドのエンディングが流れている。


俺が自分の作った世界でファンタジー世界を満喫するには、どうやらあの魔王と帝国をどうにかしないとダメらしい。


そこから魔王率いる帝国と神である俺との静かな戦いが始まった。


繰り返し世界を創っては破滅させ、創っては破滅させてしまった…。

別に俺が望んでるわけじゃない。せっかく文明を築いているのに滅んでしまうのは…みていて辛い。


文明の発展は人類と神である俺との共同作業。まだ彼らと一度も会話らしい会話はしたことないけどすっかり情が移ってしまっている。


色々試行錯誤しているうちにわかったことがいくつかある。


1.魔王が誕生して200年経たないと、諸国が対等に戦うきっかけがないほど魔王が強過ぎること。

2.かといって魔王だけを神の力で滅ぼすと、彼に忠誠を誓っていた帝国の面々が暴走して世界を破滅させること。

3.神の力で帝国を滅ぼしても対抗していた諸国の力の矛先がなくなり、覇権を争って大戦が起きること。


そして最後にキーパーソンがいること。


必ず特定の人物が死ぬと世界が滅びるように進んでしまう。

その人物は「勇者」と呼ばれる1人の男だった。


「またクリストフか…」


その人物に気づくまで実に15回くらい世界が滅んだ。


特定してそれがクリストフだということがわかるまでさらに5回世界が滅んだ。


5回目にナビーを呼び出してようやく特定することができた。



クリストフはファーレンという大国の辺境にある長閑な村で生まれる青髪青目の青年だ。

両親は10歳の時に亡くしているが、村の人々がこぞって彼の世話をしたため24歳になるまで無事に成長した。


もっとも世話をされない世界も時折あったので、しっかり村長に「クリストフを村全員で育てよ」と「お告げ」しておく。


このクリストフ、24歳になるまで実は結構な確率で死に至る可能性が高い。


幼少期に偶然森で遭遇した魔物に殺されそうになったり、誘拐されそうになったり、蛇の毒で死の境を彷徨ったり…だが、彼がいないと世界が滅ぶので、俺はこまめに彼の様子をチェックして助けるようにした。


魔物は雷で焼き殺し、蛇の毒は神の奇跡で治し、誘拐された時はちょっと降臨して助けにも行った。


彼は俺の手で立派な勇者に育てる!そう意気込んでここ1ヶ月の間はずっとクリストフにかかりっきりになった。

実際に目の前で話すことはないが、彼の日頃の行いはよく目にしている。


彼、すごくいい子なんだ。


早くに両親を亡くしたのにも関わらず、人生を悲観してない。

それどころか前向きな努力家で、周囲の人への気遣いも忘れない。俺にとっては理想の男性像だ。


その彼の成長を見守りつつ、時折成長の手助けをしているうちに、俺はすっかりクリストフのファンになってしまった。


クリストフは俺が育てた!と言っても過言ではないだろう。

このゲームをやる目的もだんだんとファンタジー世界の満喫よりクリストフを育てる!に変わりつつある。


クリストフが24歳のとき、魔王は200歳。


魔王を倒せる状況が近づき、なおかつ帝国が侵略に一気に乗り出すこの年。

この年を狙って、クリストフを育てて、より満を辞すために俺も降臨することにする。


今度こそ…魔王を倒してクリストフと平和なファンタジー世界を満喫する!

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