愛するのはあなただけ2

『病院も取り敢えずは異常はありませんでした』

「何から何までありがとうございます」

『いえ、お安い御用ですよ。今日は色々あって疲れていると思いますので、このまま送り届けて、私も失礼しますね』

「よろしくお願いします」

小池さんからの連絡に胸を撫で下ろした。電話を切りそのまま朱莉の連絡先を開くも、躊躇してスマホをポケットにしまった。


何を買ったらいいか、買い物かごを片手に立ち尽くした。女の子だから甘い物がいいのか、お菓子がいいのか。

そうだ悩んでいる時間が勿体ない、早く朱莉の所に行こう。目に付いたものを次々とカゴに入れていった。


急な訪問に朱莉は驚いていたものの、直ぐに笑顔になった。

疲れていてやつれても見えるが、食べればまた元気になるだろう、そう思っていた。

そして俺は気が付く、朱莉が欲していたのは甘いお菓子やケーキじゃなくて、寂しさや不安を埋める何かだ。

俺の胸にしがみ付く朱莉は、必死にひとりにしないでと訴えているようで胸が締め付けられる思いだった。

今すぐ抱き締めてやりたい気持ち、教師という立場にやましい気持ちが交差して素直に表現ができない。

朱莉の肩に手をやると、

「後少しだけ、お願い、後少し」

俺の胸に必死にしがみついて、小さな声でそう言った。

「困ったものだな」と囁きながら、朱莉の頭を撫でてやるのが精一杯だった。どれくらいこうしてただろうか。

とっくの昔に日が暮れて、ひぐらしが遠くの方で鳴いていた。


*****


先生の掌の温もりが、私の全身を痺れさせた。

ただ頭を撫でてくれているだけなのに、体の中まで温もりがひしひしと広がっていく。初めての感覚に頭が追いつかない。

でももっとこうしていたい。時間が止まってほしいと思った。

先生にしがみついてどのくらい経っただろうか。顔を上げると、優しい眼差しが待っていた。薄暗くても分かる、先生の優しい瞳。

触れるか、触れないかのキスをした。なんでこんなことしてるんだろう。体が勝手に動いた。

ああ。私は先生を欲しているんだ。先生の渇いた唇が、もっとほしい。先生の温もり、匂い、優しい眼差し、温かい手、体、全部欲しい。

先生の腰に手を回し、力を込める。今度は求めるように、キスをした。

「何、こんな事だめに決まってるだろう」

先生は驚いて、唇を離した。

「ごめんなさい。でも私先生のことものすごい欲しい。お願いひとりにしないで」

今まで溜め込んできた思いが爆発する。一人で寂しかった毎日、愛のないセックスに欲された日々。

カズさんにされた事は嫌で嫌でしかたなっかったけど、先生なら受け入れられる。いや、先生なら全てを忘れさせてくれるだろう。自分勝手にそう思った。

「私に上書きして、先生」

「何を言って?」

「愛の証を上書きしてください」

お願い、お願い先生、私を受け入れて。このひとときだけでいいから私を受け入れて。と心の中で叫んだ。

月明かりだけの薄暗い、物静かな部屋に微かな熱気が刹那に漂った。

抵抗して、手を払いのける先生としばし見つめ合う。

「朱莉、俺は教師で、お前は生徒。おまけに既婚者だ」

「分かってます。今だけでいいから、私を愛してください」

乱暴に服を脱ぎ捨てていく。やめろと先生は制するものの、私は裸になった。

私の体に纏わりつく無数の痣が露わになると、先生が涙を浮かべて撫でていく。優しく、優しく。

先生の躊躇いが消えた。

肌と肌が重なっていく感覚が心地よく、幸せで胸が一杯になった。

渇いた唇が、どんどん湿って熱を帯びて激しく絡まっていく、乱れた呼吸すらも気持ちがいい。

先生、私幸せだよ。私は先生に絡まりつき、先生は私を強く抱き締めた。

 

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