愛するのはあなただけ
「小池さん、ありがとうございます。初めてお会いするのにこんなに良くしていただいて」
腰を折ってお礼をした。病院の手続き、警察への事情調書と手際良く勧めてくれた。
手続きが整い次第、児童相談所の入所も決まった。何より悪魔の巣から救い出してくれたこと、感謝しかなかった。
「当たり前のことをしただけだから」
小池さんはにっこり笑って、安心させてくれた。
「これからの事だけど、施設の準備が整うまで、先生が用意してくれた部屋で暫く過ごしてもらうのがいいと思ったのだけれど」
「はい。大丈夫です。学校も近いし、バイト先も近いので助かります」
「メンタルの方は大丈夫?セラピーを受けるのをお勧めするわ。自分で気が付けていない傷もあると思うの」
「ありがとうございます。それは少し考えさせてください」
精神科には抵抗があった。精神面は大丈夫じゃない、ボロボロなのは自分でわかっている。
でも家から逃げ出せただけで、気持ちが大分違う。恐怖感から解放されて、不安な気持ちがなくなった。
昼夜、怯えて過ごす日々とは、おさらば。それだけで十分だった。
「今日は色々あったから、疲れたでしょ」
「はい。本当にありがとうございます」
「また、明日連絡するわ。今日はゆっくり休んで、先生には伝えておくから」
「お願いします。本当にありがとうございます」
小池さんは私の肩を優しく抱いて、おやすみと言って帰っていった。
部屋に入ると、布団にそのまま倒れ込んだ。一気に押し寄せる孤独感に、枕を抱えて誤魔化した。
その時インターホンが鳴った。「朱莉、大丈夫か」扉越しに先生の声がした。
飛び起きて、急いで扉を開けた。両手に袋を提げた先生が、心配そうに訪ねてきた。
どうぞと先生を招き入れる。先生は慣れた手付きで袋からコンビニで買ったお菓子や弁当を並べ始めた。
「朱莉、食事は?」
「まだです。でも」
食欲がないと言うのを遮るように
「一緒に食べよう」
と続けた。
なんだかほっとして、勝手に涙が溢れてきた。先程の孤独感が嘘のように晴れていく。
家族からも逃げて、友達を突き放した私は、ひとりだと決めつけていた。でも違う、目の前には先生がいる。
私は一人じゃない。
「朱莉大丈夫か?気分悪かったら、小池さんに来てもらおう」
スマホをポケットから出そうとするのを、手を伸ばして制した。
そのまま先生の胸に飛び込む、顔を埋め、先生の匂い、温もりを体に染み込ませた。涙が止まらない、どうしよう、愛しい。
「朱莉?」
肩を持たれて離そうとするのを「後少しだけ、お願い、後少し」と抵抗した。
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