天の気まぐれ3
家に灯りが灯っていないのを確認すると、静かに合鍵を回した。
自宅に帰るだけなのに、心臓が暴れるほど緊張している。
『とにかく五分で家をでよう』と決めていた。
『お母さんへ。しばらく帰りません』と書いた置き手紙も事前に用意した。
持ち物も必要最低限だけ。後はどうにでもなる。
小さく拳に力を入れて、意を決した。
誰もいなくてほっとする。時計の秒針がチクタク鳴るように、身体中がどくどくと脈を打った。
*****
翌日、朱莉が学校に顔を出すことはなかった。
朝のホームルームで心配になり、朱莉のスマホに電話をかけたものの、誰も出なかった。
真咲の不安は頂点に達し、居ても立っても居られくなり、児童相談所に連絡を取った。
『先生は動けますか?すぐにでもご自宅に伺いましょう』
すぐ行きます。と慌てて学校から駆け出した。
駅に佇むこと五分。
最寄駅で待ち合わせをした。真咲は落ち着かずに腕時計を何度も確認する。児童相談所の担当、小池さんは息を切らして駆け寄ってきた。
インターホンを鳴らすも、扉の向こうは静まり返っている。
頬に伝う汗は暑さのせいではなく、不穏な予感が頭の中を駆け巡っているからだ。
何度もインターホンを鳴らすも、反応はなく、居ても立っても居られなくなり、
「後藤さん、後藤さん」
と扉を叩き、何度も叫んだ。
ようやく人影が見えると、ゆっくり扉が開いた。
「どちら様ですか?」
と顔を出した男は、上半身裸で髪を掻き上げながら、迷惑そうな顔をしている。
「朱莉さんの担任で森岡と言います。朱莉さんを迎えに上がったのですが」
「あー。朱莉ちゃんの先生。それはどうも」
「あなたがお父様ですか?」
「そうですが」
真咲の想像していたより若いなと言った印象だった。こいつが朱莉をと思うと、沸々と怒りが込み上げてきた。
「朱莉ちゃんはご在宅ですか?」
「いますよ。まだ寝てるんじゃないかな」
痺れを切らした小池は扉に手をかけ、「失礼します」と強引に部屋に入って行く。真咲は小池に続いた。
小池は朱莉の部屋を知っているかのように、一目散に部屋へと進んでいく。
部屋を開けた小池は朱莉を見つけた。
薄っぺらい布団に包まれて、カタカタと震える朱莉を小池は抱き抱え、もう大丈夫と背中をさすった。
その姿を目の当たりにした、真咲の怒りは頂点に達し、踵を返し汗ばむ掌を握りしめた。
「何をした、朱莉に何をした」
カズを力任せに壁に押し当て、怒りをぶつけた。
「まるで彼氏の言い振りだな」
開き直ったように、カズにはうっすら不気味な笑みが溢れていた。
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