天の気まぐれ
朝日が強く差し込む春樹の書斎で目が覚めた。
「春樹さんに泊めてもらったんだ」
夢も見なかった。残穢も思い出すことなく一晩を過ごしたのは大分久しぶりだった。
「「おはようございます」」
丁度よく、同じタイミングでリビングで挨拶をした。
「よく寝れましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「今日は少しハードなところまで詰めていかないといけないですよ。このままでいいことはないですから」
「はい。私もそう思います」
若干やつれた顔は仕方ないが、瞳に正気が戻っている。春樹は安堵した。
春樹は自分でも驚いていた。人に無関心で面倒事が嫌いな筈なのに、お節介を焼いた自分が可笑しくなった。
朱莉は今まで睡眠もろくに取れていなかったせいか、思考が鈍っていたことに気がついた。
心も狭くって、余裕がなくて、一人で追い込まれていた。
自分が悲劇のヒーローだと思って、大事な友達を傷つけたことが気がかりだった。何も考えずに、自分の怒りと不安に任せて突き放してしまったこと、
一言ごめんね。と謝罪のメールだけでも送っておきたい。そう思っても、昨日母に「泊まってくる」と送信してから、余計な詮索をされたくなくて、スマホの電源も切っている。
家族が崩壊しても、友達との関係は修復したい。一刻も早く、みんなとまた肩を並べて過ごしたい。
「あの、春樹さん、何かお手伝いします。掃除でも、洗濯でも」
「大丈夫ですよ、そろそろ朝食も届く頃です。顔でも洗ってきたらどうですか?」
「でも、、、」
「家事全般はハウスキーパーに任せています。お気になさらず」
春樹は何者なのか、気になったが詮索するのは図々しい。聴いたら嫌われてしまいそうだ。
言われるまま、顔を洗い、リビングに戻ると真咲が来ていた。
「学年主任にやはり経緯を話し、児童相談所に連絡しようと思うんだ。これは由々しき事態だ」
躊躇なく、筋を通す真咲が正論だ。ただ朱莉の中で羞恥心とカズに言われた一言が胸の中で、絡まっていた。
「朱莉は首に痣があった。ということで先ずは暴力の事実だけでも相談するのはどうだろうか?」
「はい。お願いします」
「よかった。早速、話を進めるよ。早い方がいい」
コーヒーを啜ると、真咲は話を続ける。
「春樹から聞いたんだけど、一人暮らしがしたいって」
「はい。今日不動産屋に行こうと思ってました」
「きっと春樹からも聞いたと思うけど、未成年の契約は難しい。提案なんだが、海外の研修生の宿泊用に部屋があるんだが、一時的に避難ということでそこに泊まったらどうだろう」
「本当ですか?そうします」
思いがけない提案に、笑みが溢れた。
「よかった。まだ笑えるな」
真咲もまた笑顔になった。
「兄さん、口を挟んで悪いけど、とりあえず病院が先なんじゃないかな」
キッチンの柱に背を任せ、静かにコーヒーを啜っていた春樹が口を開いた。
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