根源のゼロ
自分で突き放したのに罪悪感で友達に顔を合わせづらく、妙な噂が広がる学校には居場所がなく、無断欠席して一週間がたった。
朱莉の居場所はもうバイト先の柏木書店しかない。
「シフトもう少し入りたいんですけど」
「私的には助かりますが、なんかあったのですか?」
春樹が干渉するので驚いて、俯いてしまう。
「ええ。まぁ。ただ家にいたくなくて」
俯く朱莉の首元に青黒く染まった痣が見えた。
「この痣はなんですか?」
こんな所、転んだぶつけたの話じゃないことは明白だ。誰かに首を絞められたような広範囲に広がる痣だった。
春樹は基本人には無関心だが流石にこの問題は見て見ぬ振りは出来なかった。
「、、、」
「黙っていても分かりませんよ」
「店が終わったら、少し話しましょう」
黙り込む朱莉に、困惑するも優しく声をかけた。
閉店後、看板の灯を落として、ケトルで湯を沸かした。
マグカップに沈むティーカップを見つめながら、春樹は興味本位で立ち入っては行けない問題に頭を悩ませた。
このまま、知らぬ振りをしていてもいいことかも知れない。しかし最悪の展開に発展したら、夢見が悪い。
面倒事は嫌いだが、何となく大変な事件になっている予感がした。
「本題に入りますよ」
温かい紅茶を朱莉にどうぞ。と差し出すと朱莉の正面に座った。顔を俯いたままで朱莉の表情が読み取れない。
暫く沈黙が続くと、朱莉は顔を上げ、真っ赤に染まる瞳から涙が溢れていた。
「実は私、義父に犯されているんです」
衝撃だった。性虐待、ニュースでは聞いたことがあるが、こんな身近な話で驚いた。
想像していたより深刻でデリケートな問題、どこまで踏み込んでいいことなのか全くわからない。
でも聞いてしまったからにはここで帰すわけには行かない。
人間としての正義感といえば聞こえはいいが、実際自分に出来ることなんてないかも知れない。
家を出たいと、ひとり暮らしを急いでいた朱莉の話も知っていたのだから合点がいった。
そしたらひと月以上、いやもっと長くの間、性虐待に一人で耐えて居たのか?と考えると流石の春樹でも胸が締め付けられる。
「誰かに相談しましたか?」
「いえ。していません。初めて人に話しました」
「なんでもっと早く誰かに相談しなかったんですか?」
「ごめんなさい。言い出せなくて」
「こんな話を聞いて家に帰せるはずないでしょう。取り敢えず警察に行きましょう」
「嫌です。そんなことしたらお母さんまで悲しむ。家が滅茶苦茶になっちゃいます」
春樹はデリケートな問題に首を捻るも、ここで放棄するのは情けない。説き伏せなければと感情的になった。
「これは立派な犯罪です。朱莉さん、これは悪質な虐待ですよ」
「犯罪?虐待?」
「そうです。そんなことにも気が付かなかったんですか?」
「、、、」
「とにかく、僕は家に帰ることはおすすめしない」
春樹は朱莉の顔を見据え必死に説き伏せる。
「でも、帰らないと」
「今日何もないという保証はない。帰ってまた嫌な思いをするかも知れないんですよ」
「でも、頼る友達もいないし、いく所なんて、、、」
朱莉の涙がどんどん大粒になっていく。その時、入店を知らせる電子音がなった。
「すみません、。もう閉店になります」
春樹が声を張って、立ち上がった。
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