根源のゼロ

母は新しく出店する店のオーナーをカズから任せられたと張り切っていた。

「暫く忙しくて、家に帰れないかも」

母はごめんねと付け足したが、悪びれている様子もなく片目を細めて笑顔を作った。

朱莉の胸中は益々複雑になって、母に対する嫌悪感が膨らみ始める。



それから母は家にあまり帰って来なくなった分、カズが家に居ることが多くなった。

朱莉の嫌な予感は的中する。

「こっちにおいで」

悪魔は朱莉を蝕む。

「今日からお母さんは買い付けに行ってるから、僕と二人きりだよ」

何度も何度も辱めを受けた。助けてと叫んでも二人きりのこの家に誰も助けは来なかった。

学校帰りに犯される日もあれば、

今日は居ないと安心して眠りについた頃に犯されたり、身も心もボロボロになっていく。

深夜に犯される時は大体朝方まで朱莉を欲した。

当然寝不足の朱莉は保健室で過ごすことが多くなってくる。眠くても、体が辛くても学校に行った。

朱莉の中で学校はシェルターのような存在になっていた。

微睡の中、カーテンの向こうから女子に声がした。

「やっぱり後藤朱莉、妊娠してるみたいだよ」

目が一気に覚めた。根も葉もない噂が立っているのを知った。

「なんで、何それ、、、」

力が入らない、胸に風穴が開いたように一瞬で凍てついた。

頭の中と呼吸が乱れていくのを、胸を抑えて必死に耐えた。



息を整え教室に急いだ。真帆に問いただすと、

「実は私も聞いたことがあるんだ」

「そんなの出鱈目だよ。知ってたならなんでもっと早く教えてくれなかったの」

真帆に辛く当たってしまう。

「もう、いいよ」

と走り出し人目のつかない校舎裏で一人で泣いていた。

大地は朱莉を追いかけて後者の裏で立ち尽くすも、

膝を抱えて泣く朱莉を後ろから抱きしめた。

「俺に何かできることってある?」

「大地も知ってたの?」

「、、、」

「ねぇ。知ってたの?」

「ごめん。知ってた」

「なんで謝るの?大地も噂を肯定してたってこと?」

「違うよ。俺は」

「違うってなに?じゃあ謝らないでよ」


触らないで。と大地の手を振り解き、どこかへ走り去った。

大地は朱莉の哀しい後ろ姿を見つめることしかできなかった。

「情けないな、俺」

大地の背中は、捨てられた子犬のように小さくか弱く見えた。

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