平穏は斜め上から

言葉に詰まる朱莉の生徒調査票を再婚か、家庭環境最悪だなぁ。事情があるのか

『どうしたものかな、あの本屋なら大丈夫だろう。まあ多めに見てやるか。』

真咲の腹が決まった。校則破りを見て見ぬ振りをするんだから朱莉に関わってやらなきゃいけない。

そしてG&T《ギブアンドテイク》を持ち出そうとしている点は大人気ないことはわかっていた。


「今回は目を瞑ってやる。如何わしバイトでもないしな。実はあの本屋お気に入りなんだ」

「そして、先生から二つ言いたいことがある」

「な、なんでしょうか?」

「ひとつ目、制服のままバイトするのは目立つから辞めたほうがいいんじゃないか?俺も制服で気がついたんだ」

「なるほど。さすが先生!明日からジーパン履いてやります」

「気がついてなかったのか?まあいい」

やれやれと言った具合で呆れている。

「二つ目は、生徒会やらないか?」

「う、はい。やらせていただきます」


『そうだよね、そうくるよね。でもつべこべ言っても無駄そうだしな、、、』

朱莉は、ぐうの音も出なかった。



*****


水しぶきと四方から飛びかう掛け声で熱気があった。

男子は体が大きく、高校生とは思えない広背筋が練習の厳しさを物語る。


「真帆いたーーー」

「どこどこ?」

ほら、あそこだよ。と空の指差す先には真帆が忙しく動き回っていた。


「忙しそうだね」

「プールの中に入っちゃうと誰だかわかんないね」

「あの黒いキャップ、大地だよ」

「なんで分かるの?朱莉凄ーい」


柔軟でしなやかなストローク。

水を完全に味方につけるような余裕のある伸び方。

朱莉は大地の泳ぎはしっかり目に焼き付いていた。


「だって昔から変わんないもん」

「そっか。朱莉は大地と幼馴染だもんね」

「ねぇ、ねぇ。朱莉は大地のこと、どう思う」

「どう?ってどう言う意味?」

「好きか嫌いかって事」

「好きだよ。友達として」

「そうゆうのじゃなくて」

首を傾げる朱莉に、空は物怖じせずにつっこもうと思ったが躊躇した。

真っ直ぐ大地を見つめる、朱莉の瞳が輝いて見えたからだった。


「そうだ、生徒会入ったの」

間を埋めるように、次いでに知らせた。朱莉の中では経緯を説明するのにまた言い訳ができてしまいそうで嫌だった。

「結局?」

「まあ、成行で」

と曖昧に話した。

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