重ねる嘘3

書店のバイトは週三回程。

柏木書店の息子で大学生の春樹と朱莉のシフトは頻繁に被る。

口数が少なくて業務内容ぐらいしか話さない為、プライベートは謎。

そのせいか、ミステリアスな雰囲気を纏っていた。

縁無し眼鏡が利口的で、いや実際そうなんだという確信がある。

英文がびっしりの分厚い本を読んでいたり、

あるときは元素記号びっしりの本を、

あるときは六法全書を読んでいたり、

難しい本ばかり読む姿を何度も見かけていた。

背が高いので、上の高い棚まで手が届く。

周りの空気を軽くするような清潔感の溢れる容姿に、女性の常連客が後を絶たなかった。


「今日もレジをお願いします」

春樹は丁寧な口調で業務命令を指示して、奥相変わらず難しい本を開いていた。

夕方の時間はお客さんが入れ替わり立ち替わりやってくる。

手持ち無沙汰にならないので、あっという間に日が暮れ閉店時間になる。


朱莉は閉店間際の静かな店内で今日の最後の客の対応をしていた。

「ブックカバーお付けしますか?」

「……」

返事がなく不審に思い顔を上げてみると知っている顔が立っていた。驚愕のあまり顔が青ざめていく朱莉。

いつも以上に大きく開いた目を真咲は真っ直ぐ見据える。


「後藤朱莉だよな」

「はい」


「俺のクラスの後藤朱莉だよな」

「う、はい」


「後藤朱莉はここでアルバイトをしているのか」

「う、う、はい」

朱莉の心情を察しているにも関わらず、真咲は畳み掛ける。

様子を伺うように春樹が顔を出し、拷問のような会話を遮った。

「どうしました?」

真咲は春樹に一瞥すると、ポーカーフェイスを崩さず、朱莉に言い放ち背中を向けた。

「明日は必ず、職員室にくること」

「はい」


先生にバレてしまった。


「……」

春樹は無言で朱莉の表情を分析すると、その間が悪かったのか朱莉は申し訳なさそうに、か細い声を出す。

「あ。すみません。担任の先生です。バレちゃいました、、、」

朱莉は腰を九十度に折り頭を下げると「あはは」と誤魔化すように苦笑いを続ける。

事前に学校の校則を伝えておいたのが祐逸の救いだった。


「参ったな、辞められたら困るんですが」

眼鏡を取った春樹の眼力が痛くて、朱莉は肩を竦ませた。

「とにかく明日先生と話してきます」

と店を後にした。




絶不調の朱莉は朝一で足取り重く職員室に向かった。

「おはようございます。」

「おはよ、偉いな。ちゃんと来たな」

「あのー」

「なんでアルバイトしてるんだ?」

「言わなきゃダメですか?」

様子を伺いたくても、下ばかり向いている朱莉の表情を捉えることが出来ないでいた。

「親には絶対、絶対言わないでください」

「何故?」

「それは、、、」




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