重ねる嘘2

何話してたの?」

「あー。なんか大地とうちのお母さんと会ったみたいで何を話たか気になっちゃってさ」

「ふーん。そっか」


真帆は全部目撃してしまっていた。大地の気持ちが全部丸見えだった。

『私醜いな。大地の気持ち知っているのに、隙間にあわよくば入り込めたとしてもきっと惨めになるだけじゃん』

真帆にとって、あの大地の横顔はしばらく心に残る事になる。


思い出したかのように真帆が続けた。

「ねぇねぇ。いつ部活見に来る?」

「そうだった、空に聞いてくる」

走り去る朱莉の背中を複雑な想いで見送った。



踊り場で行ったり来たり、落ち着きなくボソボソ呟く空を見つけた。

「そーら。どうしたの?授業始まるから教室行くよ」

朱莉が手招きしながら声を掛けると、待ってましたとばかりに飛んできた。

「今見ちゃいけないもの見てしまった…気がするの」

ほらほら落ち着いて、と空の背中をトントンさすった。

「真咲先生が告白されてたの。B組の可愛い子、髪が長くて」

早口で興奮気味の空とは対照的に朱莉は背筋を伸ばしながら知ってるよ。とのんびり前を歩いている。

「あー。花梨ちゃんじゃない?」

「朱莉仲良いの?」

「あんまり話した事ないけど、花梨ちゃんハーフでしょ」

「フィリピンだっけ、羨ましいよね。目くりっくりで可愛いよね」

「そうそう、可愛いから覚えての。あの子もひとり親で、私と同じ学童に行ってたんだ、うちと同じでいつまで経っても親が迎えに来なくてさ。でも学区が違くて中学も違うから、それっきり」

「へー。そうだったんだ。なのに話した事ないって」


「でも真咲先生かっこいいからよくあるんじゃない?」

と空を宥めた。


ちょうど真咲が通りかかる。噂をすると…は本当なのかも知れない。朱莉と空は背筋を伸ばした。

「朱莉、後で職員室」

すれ違いさまにふわっと揺れる前髪が真咲の表情を隠す。

「えーーー。やばい。聞こえちゃってたかな」

今更、口を抑え始めた空は、眉を下げしくじった顔をする。

「大丈夫、多分生徒会の話」

「なになに?聞いてなーい」

「私だけ帰宅部だから、生徒会に入らないかって」

「なーんだ。それだけ?」

「うん。断るつもりだったから」

「てか、最近朱莉、隠し事多くない?」

「そお?言うの忘れてるだけだよ。やましいことなんてこれっぽっちもないんだから」



「あー。じゃなくて水泳部観に来いって真帆が」

「「水曜日」」

せーのと掛け声を掛けたようにハモった。

あまりにも綺麗にハモったもんだから可笑しくて大笑いしながら教室に入っていった。


**************



『私も真咲先生にときめいちゃったんだよね』

なんて死んでも言えないと心にひっそり置いておく。

空の言う通り最近、ちゃんと話せていない気がする。

お母さんにも、友達にも。

小さな嘘が膨らんできた証拠だ。

考え始めたら、みんながどんどん遠くに行ってしまうみたいで

怖くなってくる。

孤独は寂しくて耐えられない。怖くて耐えられない。


**************

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