グレーの境目3
さっきの花が咲いたような笑顔はなんだったんだろう。
頭がぼーっとしてしまう。
また先生の笑顔を思い出す。
『どうしよう。先生かっこいい』
すっかり魅了されてしまっていた。
『頭の中がお花畑になるってこんな感じなんだ。』
校舎を出ると先程までの青空が灰雲に飲まれて灰色に広がっていく。
ときより頬を掠める《かすめ》小さな雨粒を感じ、目を覚ますように頭をぶんぶん振り帰路を急いだ。
「やっばい。降ってきたなぁ」
ちょうど最寄り駅に着いた頃には雨足は強くなり、雨宿りするにも止む気配はなかった。
仕方ないと覚悟を決めて、鞄を傘に駆け出した。
家に着くまでにはずぶ濡れで、激しい雨音が響いていた。
玄関の姿見で結構濡れたのを確認する。
「結構濡れたな」
ジャッケットを脱ぎ絞ると玄関のタイルに染みを作った。
靴下を脱いで、床が濡れないようにつま先で廊下を歩く。
リビングを横切ると人の気配があった。
「え、うっそ」
しばらく仕事で忙しいと言ってた気が…
「まさかね」
見間違いかもしれない。確認しようとゆっくり後退すると薄暗いリビングで
カズさんがソファーで寝息を立てていた。
息をのみ、泥棒のように息を潜めた。
音を立てないようにゆっくり脱衣所に行く。
脱衣所のドアを閉めると、安心してひとつ深呼吸をした。
鏡の前で濡れた顔を拭いながら、恐ろしいことが頭を過ぎる。
『もしカズさんが起きてきて、このドアを開けたら』
悪魔になったあの日が蘇る。
『ダメダメ、早く着替えてしまおう』
朱莉の思考を見透かしたように、”ドン”と物音がした。
『どうしよう、どうしようと』
隠れる場所を探した。左右を見渡し、無我夢中で鞄を持ち、脱いだ服を両手に持つと、使用中のタオルを咥えて風呂場に逃げ込んだ。
足音が近づいてくる。
目をぎゅっとつぶって、荒い呼吸を咥えたタオルで隠した。
『私は透明人間、私は透明人間、』
呪文を唱える。
目の前で足音が止まる。朱莉の心臓は破裂しそうな程、大きく脈打つ。
そして冷えた体が凍りつきそうなほどの恐怖を抱く。
『どうしよう、どうしよう』
息が漏れそうになると、電気のスイッチ音と共に「はぁー」と大きなため息が聞こえた。
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