歪み始めるトライアングル
「朱莉、今日は焼肉に行こう」
玄関先で学校の支度をしていたら後ろからエプロン姿のお母さんが声をかけた。
「カズさんのお店?」
「そう、朱莉の入学祝いはまだだったからって言ってくれて」
「本当に、嬉しい。行く」
寄り道しないで帰ってきなさい。とお母さんが見送ってくれた。
通学路はまだ淡い桜の花びらが、青空に吸い込まれて行くように舞っていた。
四月の記憶。
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「朱莉、部活どうするの」
「まだ決めてない。真帆は気になる所あったの?」
「実は水泳部のマネージャーやろうかなって思ってる。大地いるし」
「なるほど、なるほど」
朱莉は冷やかすように頷くとそんなんじゃないよと肩を叩かれた。図星だと確信する。
真帆は大地を意識してる。
隠しているつもりだから朱莉は知らないふりをしていたけれど、少し前からそんな予感がしてた。
中学の時も大地を応援する眼差しが他の人とは違っていたし、
大会の度に手作りのお守りを作っていたのも知ってる。
隣の席になった時は飛んで喜んでいたのも知ってる。
でも大地と真帆の間には見えない壁があるように、お互いが何かに遠慮していた。
真帆は何で好きな気持ちを隠すんだろう。朱莉は気がかりだった。
「朱莉ーーー。社会の先生呼んでるよ」
同じ日直の
「やばい、今日、日直なの忘れてた。後でね、真帆」
机を突っぱねて立ち上がると朱莉は駆け出した。
「早く、行っといで」
真帆は後ろからの視線で振り返った。
そこには教室から駆けて出る朱莉を目で追っていた大地の姿があった。
「やっぱりそうだよね」
真帆は諦めたようにため息まじりに呟く。
真帆は胸に棘が刺さったようにチクンと痛んだ。
大地はいつも朱莉を見ている。
真帆は自分の恋が叶わぬ恋だと知っていた。
大地は朱莉が好き。本人からも聞いたことがある。
『俺、朱莉が好きなんだ』
『告白したの?』
『幼馴染だからずっと当たり前に一緒にいたけど、
もし告白して断られたり、困らせてしまったら
きっと朱莉は俺から離れていくと思うから』
そんなこと聞いていたから告白できずにいた。
好きって言えたらどんなに心が軽くなるのか、重い灰色のため息も出なくなるんじゃないか。何もしないより、勇気を出そうって何度も思った。
けれど、まだ振られて砕ける覚悟がない真帆。
『もう少し、好きでいさせて』
心の中で叫ぶのが誠意一杯だった。
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