第8話
工房を出たオレたちは、キャリイの服を手に入れるため、一度商店街に戻ることにした。
いつまでも裸でいられるのは、オレの精神衛生上よろしくない。
それに、ガレージに放り込んである人形分の服も確保しておきたい。コンテナを全部開けたわけでは無いのだが、最低でも15体はいるはずだ。
正直言って、あの数の服を揃えるのはオレの経済力では無理だった。
工房地区へはグーちゃんに乗っていったのだが、今は身体に馴れたいと言うキャリイの希望を聞いて徒歩だった。
そのせいか、行きには気付かなかったものが結構目につく。
「白骨……だよな?」
「そうですねー。工房にもありましたよ?」
「うそ!?」
「ホントですー、工房内の白骨はミアータさんのものですー。椅子に座った状態で背後から首を折られたようですねー」
「誰!?」
「あのおじいさんのことですー。自称天才人形師で、このメイベルの村でもう一人の天才と覇を競っていたそうですー」
「じいさん殺されてたのか……じゃあ、あちこちに転がっている白骨も殺されたってことか……」
「さあ? でも、ミアータさんと違って、外のは銃で撃たれてるようですよー?」
銃で撃たれた!?
てっきり、この台地が隆起したときの衝撃で亡くなったのかと思ってたんだが……なんだか不穏な空気が漂ってきたな。
「結構大きいな」
商店街まで戻ってきたオレたちは、服屋の前で建物を見上げていた。
元の世界のシ◯ムラやコ◯カくらいのイメージか。
「取り敢えず入ってみようぜ」
言って、元はガラス張りだったと思われる入り口を潜った。
「吊るしの物は、流石ににダメそうだな……」
ハンガーに掛かっているぼろ布を見て呟く。
「でも、最低でも三千年経ってる訳じゃないですかー、その割には状態は良い方だと思いますよー?」
グーちゃんがぼろ切れを覗き込みながら答える。
確かに、そう考えるとそうか。オレの居た世界だと紀元前になるしな。
使者の時代とやらは、余程高度な文明を誇っていたんだろう。
「バックヤードに在庫が無いか行ってみよう。倉庫にあったコンテナみたいのに入ってればワンチャンあるかも知れないし」
結論から言えばバックヤードにも併設されていた倉庫にも狙いの衣服は無かった。
「無駄足か……」
かつては服だったであろう土の山を見ながら呟く。
「そうとも言えませんよー?」
グーちゃんが倉庫の外を見ながらそんな事を言う。
グーちゃんの見ている方を見ると、一台の貨物トラックが横転していた。
「移送中の貨物なら、コンテナとは言いませんが、何かしら梱包されてる可能性は高いと思いますしー」
グーちゃんの言葉に、オレたちは貨物車の前まで移動した。
貨物車は元の世界の8トントラックくらいのサイズだった。
オレは後部に回り後部ハッチを開けようとしたが、鍵が掛かっているのかびくともしない。
「グーちゃんよろしく」
オレはグーちゃんと入れ替わり見守ることにした。
グーちゃんは例のごとく鋏角のレーザーでハッチを焼き始める。
「うーん……結構固いですねー」
「え? グーちゃんって軍用機だったんだろう? そのレーザーで固いって、どんだけなんだ?」
「あ~……トシノブ、そこは誤解してるねー。確かにボクのシリーズは軍用に設計開発されたんだけど、ボク自身は軍用機じゃ無いよ?」
え!?
「ボクの発注者は軍じゃなくて個人。ハンティングに使うつもりだったみたいで、武装も個人所有が許される範囲でダウングレードされてるの。名称に「改」ってついてるでしょー?」
「劣化版?」
「失礼ですねー! 確かに武装は劣化と言えなくも無いですが、その分機動性とステルス性は三割増しなんですから!!」
三割増しは確かにすごいか。
「因みに標準装備のレーザーだと、このハッチを開けるのにどれくらい掛かる?」
「吹き飛ばせば一瞬ですが、中の荷物も無事じゃ済まないですねー」
なるほど。帯に短し襷に長し。
「グーちゃんが"改"の方で良かったよ」
「でしょでしょー!」
とか言ってる間に焼き切られたハッチが外れる。
中には段ボールの様な箱から零れだした衣類がぐちゃぐちゃ散らかっていた。
「当たりみたいだな。キャリイ、先に自分の好きなの選んじゃっていいぞ」
オレの横で大人しくしていたキャリイに話しかける。
「好きなの……ですか? よく分かりませんが、サイズの合いそうなのを選ばせて頂きますね」
言ってキャリイがカーゴの中に入って行く。
ハッチ付近はまだ余熱で熱いと思うのだが、平然としてるところを見ると、思ってるよりも頑丈なのかも知れない。見た目中学生なので、そんな感じはしないのだが。
しばらくして服を着たキャリイが出てきた。上は薄青いブラウスにチョッキを着て、その上にジャケットを羽織っている。下ははスラックスを履いており、パッと見背の低いキャリアウーマンといった感じだった。
もっと可愛い服を来てくるかと思ってたんだが……もしかしたら、積み荷にそういうのが無かったのかもしれない。
「あ……あの……ど、どうですか?」
キャリイがオレの前まで来て、上目遣いで聞いてくる。
「大丈夫だ。似合ってる」
かわいげは無いが、似合ってるのは間違いない。
「!」
ぱーっと花が咲いたような笑顔になるキャリイ。
貸していたジャケットを返してくれると、そのままグーちゃんの所へ駆け寄る。
恐らく感想を聞くのだろう。
オレはそのやり取りを見届けず、カーゴの中に足を踏み入れた。
見た感じスーツがメインで、カジュアルなものが少々、子供服に至っては皆無だった。まだ箱詰めされたままの物も有るので、もしかしたらその中にあるかもしれないが、今この場で調べるのも億劫だな……
オレはカーゴから出ると、貨物車ごと”ガレージのダンジョン”に送った。
「トシノブ、こらからどうするのー? また、工房地区に行って一軒一軒調べる?」
「ミシンがあれば欲しいな。現状ポケットの継ぎ接ぎは手縫いなんで、もうちょい楽に出来るなら有難い。あ、それと武器があればそっちも」
「じゃあ、家電屋さんと武器屋さんですねー」
家電屋に有った物はオレが知る電化製品と似たような形状で、用途を推察するのは容易だったが、どうやら電気で動いてる訳では無いようで、結果的に使えるものは無かった。
「キャリイを起動したときの動力源は何だったんだ? 電気じゃ無いんだろ?」
「いえ、普通に電気でしたよ? 工房内のジェネレータで発電してました。ただそのジェネレータを稼働させた物が何なのか分かりませんでしたけど」
「魔法絡みのものかな?」
「そうでしょうねー。時間があれは解析してみたいと思うのですが、多分ボクには理解できないともとも思っています」
「グーちゃんに理解出来ないってことは───」
「観測限界ですね。オンジが中継してくれなきゃゴーストも見られないボクには無理っぽいですー」
なるほど。ゴーストなんてのは、この世界特有かも知れないしな。それを含んだ魔法科学には、唯物論的科学をベースにしてるオレやグーちゃんでは太刀打ちするのも難しそうだ。
「じゃあ、ここに有るものは、内部は電気で動いてるが、ジェネレータの燃料が不明で動かないってことになるのか?」
「おそらく、そうなります」
ふむ。なら逆にジェネレータを無視して電源直結できれば動かせるかも知れない訳か……
「よし、全部頂いていこう」
因みにこの店のラインナップは、元の世界の個人商店と同程度で、マッサージチェアの様にでかくて高くて滅多に売れそうに無い物は無く、エアコンやらテレビっぽいもの、電気ポットや電子レンジに似たもの、ミシンやアイロンっぽいものなどの目新しくも何ともないものばかりだった。
次に訪れた武器屋っぽい店では、ショットガンと拳銃的な物を入手した。
と言ってもショーケースの物は全て壊れていたので、金庫らしき場所にしまわれていた、恐らく店主の個人所有物だけだが。
試射出来る部屋があったので試しに射ってみたが、ショットガンは反動で後ろに吹き飛ばされたので封印……するつもりだったが、キャリイが問題なく扱えたので彼女の物に。
拳銃からは弾が出ず、代わりにプラズマっぽいものが出たのでグーちゃんに確認してもらったところ、電極の無いテーザーガンだろうとのことだったので、そのままオレが携帯することにした。
相変わらずオレの戦闘力に不安が残るが、そもそも銃など扱ったことなど無いので、仮に普通の銃が有ったとしても怪我するだけだったかも知れい。
たぶん、これで良かったのだろう。
一通り店内を漁って通りに戻ると、辺りはすっかり夕焼け色に染まっていた。
「思ったより時間食ったなぁ」
目に刺さる夕日を手で遮りながらグーちゃんに話しかける。
「金庫開けるのに手間取りましたし、試射もしましたからねー」
「今日はもうダンジョンに籠ろうか」
そういうオレを無視するように、グーちゃんが鋏角を展開し、臨戦態勢に入った。
「グーちゃん、どうし──」
ワンテンポ遅れて、事情を察したオレも慌ててテーザーガンを構える。
いつの間にか、オレたちはゴーストの群れに取り囲まれていたのだった。
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