第4話
北壁と呼ばれるテーブルマウンテン群の一つ、《離れ》に降り立ったオレは、早速、村の遺跡を目指そうとしたのだが、グーちゃんの提案で近場の高台に連れて行かれた。
そこでグーちゃんはドローンを飛ばし、《離れ》の測量を行った。
《離れ》はテーブルマウンテン群の中では最小という話だったが、それでも面積で25キロ平米あり、元の世界でオレが住んでた町より大きかった。
「北の高台にお城、西にはちょっと変わった村がありますね~」
「ちょっと変わった村ってなんだ? 普通の村と違うのか?」
「そんな大きな差は無いんですけど、なんか工廠っぽいって言うか、自然に出来た村と言うより、何かしらの目的があって作られた感じがしますね」
「ふむ……」
お城は鉄板だが、村も面白そうだな。
どっちを先に行くか……
「あと、遺跡とかじゃ無いですけど、すぐ近くに泉がありますね。詳しく見てないですけど、結構綺麗でしたよ」
泉か……”泉のダンジョン”があるから、取り立てて見たいというほどでも無いが……
「その泉は、城と村のどっちに近い?」
「村ですね」
「じゃあ、泉を経由して村に行くか」
「アイアイ」
グーちゃんに乗って移動すること10分弱、綺麗な泉とやらに到着したのだが、その情景に果てしなく既視感を覚えてグーちゃんから飛び降りた。
「ほらほら言ったでしょー、綺麗だって!」
ドヤるグーちゃんを無視して、縁にそって泉を回る。
「ここだ……」
今立っている場所からの景色が、”泉のダンジョン”の入り口から見た景色と一致していた。
「なんなんですかー? また病気ですか?」
うざいグーちゃんに触れると、オレはそのまま”泉のダンジョン”へと移動した。
「わわっ!? あれ? 今ダンジョンに移動しましたよね? なんで同じ場所に居るんですか?」
見比べて見ると、ほぼ同じだが全く同じという訳では無いことが分かった。
まず目に見えて違うのが囲い。
ダンジョンの方は蟻の通る隙間も無い程密集した木々で囲まれている。上空を除くと完全に密閉されていた。
次に下生えの草木の位置が微妙に違う。植生自体は同じようだが生えてる場所や本数が違っている。
そして、割りと重要と思われる違いが生命感。ダンジョンの泉には生き物が居ないのだが、外の泉には羽虫や小魚などが目についていた。
「……グーちゃん、ここ、外と同じ場所だと思うか?」
オレは呆然としながら、グーちゃんに尋ねた。
「うーん……同じか違うかで言えば、間違いなく違う場所でしょう。けど、泉の形状や中央の島、そしてそこに生えている木は全く同じに見えますね。まるでコピペしてきたみたいにそっくりです」
見間違いでは無かったか……
「今からグーちゃんだけを外に送るから、グーちゃんはそこから中央の木を見ててくれるか?」
「見てれば良いんですね? りょーかーい!」
元気よく返事するグーちゃんを外に送ると、オレは中央の島までジャバジャバと水の中を移動し、一本だけ生えている木を揺らしてみる。
何の木かは知らない。見た目だけだと元の世界のサクラに似ている気もする。
一分ほど揺らしてから、オレもダンジョンの外に出た。
「グーちゃん、いま中の木を揺らしてたんだけど、こっちの木はどうだった?」
「風で葉が揺れたりはしましたけど、木が揺れたという感じは無かったですねー」
そうなると、ダンジョン内と外では直接的な繋がりは無いということだろうか?
この泉は間違いなくダンジョンの物と同じだ。
てっきりポケットダンジョンのギフトでこの場所を切り取りダンジョン化してるのかと思ってたんだが………さっきグーちゃんが言ってた通り、この場所をコピペしてダンジョン内で再現していらのかも……?
「グーちゃん、今度はこっちの木を揺らすから、中で見ててくれないか?」
「またですか? 別にいいですけど、たぶん変わら無いと思いますよー?」
そういうグーちゃんをダンジョン内に送り、自分は中央の木を目指す。
ダンジョン内より水が冷たく感じる。
よく見ると木も枝振りが違うように見える。
グーちゃんの言う通り、中と外で相互に影響しあってるということは無いかもしれないな。
そんな事を考えながら島に到着し木の根本に立つ。
見るからにサクラに似ているよなぁ……
と考えたところで、ふとサクラに付く毛虫のことを思い出した。ダンジョン内の木なら虫は居なかったが、こっちは、むしろ居ない方がおかしい。
アメリカシロヒトリなら問題ないがドクガだとヤバいよなぁ。
地面を見て糞が落ちてないことを確認し、上を見る。
が、やはりそれらしい物は見えない。
サクラに似ているだけでサクラではない。もしかしたら、虫のつきづらい木なのかもしれない。
オレは少し弱めに木を揺すった。
わさわさと葉が揺れるが、虫などが落ちへ来る気配はない。
なので、思い切り揺すろうとしたのだが、そこでいきなり背後からしがみつかれた。
「なん!?」
咄嗟に振り向こうとしたが、足を払われその場に倒れてしまった。
見ると、丸太の様に太い何かが身体に巻きついていた。
大蛇かっ!?
ダンジョンに逃げ込もうとポケットに手を伸ばすが、がっちり締め上げられて動かせない。
そうこうしている間に蛇が鎌首もたげ、こちらの顔を覗き込んでくる。
まず目についたのは、蛸や羊の様に横に長い瞳。緑色の鬣に平たい鼻、そして大きく裂けた口からは鋭い二本の牙が覗いている。
蛇と言うには余りにもおぞましい造形のそれは、オレの目を見てニタリと厭らしい笑みを浮かべる。
この蛇野郎に知性が有るかはわからない。
だが、今のニタリはムカついた。
超ムカついた!
決して、背後からしがみつかれたとき、可愛い巨乳の女の子との素敵な出逢いを夢想した切ない男心を無惨に破壊された恨みなどでは無いと強調しておく!!!
火事場の馬鹿力と言うか、八つ当たりと言うか、蛇野郎が襲い掛かろうと鎌首をもたげた瞬間に、オレは巻きついてる胴体をずり上げた。移動幅は15センチほどだが、肩を締め付けていた部分が口元に来た。
噛まれる前に噛む!
「キシャーーーー!」
蛇野郎が悲鳴を上げる。が、こちらも離さない。
引きちぎってやろうと顎をに力を込め首を振る。
蛇野郎も黙ってはおらず、そんなオレにヘッドバット食らわしてくる。しかも、一撃一撃が重く、脳震盪で意識が飛びそうになる。
舐めるな糞がぁぁぁ!!!
渾身の力で胴体の一部を噛み千切った。
「ギャアァァァァーーーーー!!!」
この攻撃に流石の蛇野郎も堪えたのか、締め付けを緩め距離を取ろうとする。
よしっ! この隙にダンジョンへ───
かぷ
「え……?」
見ると
すると、急に身体の力が抜け、その場にくずおれた。
意識を手放す瞬間、オレは思った。
双頭はズルいだろ…………
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